渋アート

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2024.09.12 UP

施設の魅力

渋アートと巡る ── 國學院大學博物館

渋谷周辺の日本美術を楽しめる美術館や文化施設を、様々な角度からご紹介するシリーズ。
今回は、学術的なのに親しみやすい、最新の研究成果に触れられる学びの場「國學院大學博物館」の魅力に迫ります。

 


考古、神道、校史。大学のアイデンティティを示す充実の常設展

 

渋谷駅のほか、恵比寿駅、表参道駅からも徒歩圏内。周辺を散策しながらの博物館見学もおすすめです。建物に入る前にも野外展示がありますのでお見逃しなく。

 

渋谷駅東口からバスで約7分。「国学院大学前」でバスを降り、すぐ目の前に建つ学術メディアセンターの地下1階に入ったところにあるのが、國學院大學博物館です。落ち着いた雰囲気のエントランスや大きなスクリーンで映像を見ることができるミュージアムホールを抜け展示室に足を踏み入れると、そこに広がっているのは、土器や埴輪などの考古資料が美しく並ぶ、洗練された展示空間。想像していたよりずっと規模が大きく、本格的なミュージアムであることにまずは驚かされました。

広いワンフロアで完結する博物館は、その大半を常設展示室が占め、入ってすぐ右に企画展室が設けられています。

よく見ると緑色の壁面は文様でデザインされています。訪問の際にはぜひ探してみてください。
 

國學院大學といえば、神職を養成する課程があることが有名ですが、博物館の常設展示は、そんな同学のアイデンティティを示す重要な要素「考古」「神道」「校史」という3つの部門からなっています。

まず「校史」のセクションでは、大学の母体が、国学を研究し神職を養成する「皇典講究所」であったことから、そのコレクションを通して、國學院大學の歴史や学問の展開を紹介。皇典講究所の初代総裁であった有栖川宮家、またその後を受け継いだ高松宮家ゆかりの品々も公開しています。

國學院大學の校名の「国学」とは、日本の伝統文化に関する諸現象・事物の成り立ちとその本質の解明を目指した学問で、古典籍や古器物などの「モノ」と通じて、日本人の「心」を究明する総合的な日本文化学とのこと(國學院大學博物館リーフレットより)。
國學院大學には、近代日本の人文学形成に関わった人々の蔵書や原稿など、学術資産も多数所蔵されています。また、柳田国男の高弟で、民俗学者として知られる折口信夫(1887-1953/当大学国文科卒業)が箱根に建てた山荘の書斎『叢隠居』も復元展示されており、氏の論文執筆や創作活動の様子を感じることもできます。

 

「考古」のセクションでは、全国から集めた土器や埴輪、古墳時代の鏡や勾玉といった考古資料がズラリ。國學院大學ならではの学問「神道考古学」の研究成果を交えた紹介も興味深いところです。

社会科の教科書で学んだ土器や土偶、埴輪などが並ぶ姿は圧巻の一言。時代ごとに展示されているため、例えば縄文土器の形状の変遷なども分かりやすく、それらがどのように弥生時代、古墳時代へ繋がっていくのかなども学べます。


さらに「神道」のセクションでは、神道の始まりの頃と考えられる、奈良県、三輪山麓の祭祀遺跡「山ノ神遺跡」の磐座(いわくら)(再現)や、大嘗祭はじめ日本古来の祭祀に関する資料などを公開。「神饌(しんせん)」と呼ばれる神様へのお供え物も、模型などを使って展示しています。神職を養成する大学だからこそできる展示ですので、神道に興味のある方は1度訪れることをオススメします。

■山ノ神遺跡[再現](奈良県桜井市三輪山/古墳時代中期・5世紀)
山そのものに神が宿るとされている三輪山では多数の磐座があり、山ノ神遺跡はそのなかの代表的かつ初期の事例として古墳時代の祭祀研究において重要視される遺跡です。ここで出土された祭祀道具の複製も合わせて展示されています。

 

■吉田神道行事壇[再現]:吉田神道の行事で用いられ、炉を中心とした八角形の壇。この炉で火を焚き、その中に穀物や粥などを投入しながら祈祷を行いました。

國學院大學博物館では祭祀などに関わるため実際には見ることが難しいものを模型などを使って展示しているのが特徴。日本各地の祭りを紹介する動画も、館内のみとなりますが、来館者自身のスマートフォンやタブレット端末で閲覧することができます。
 

 

その時々の世相や話題とリンクさせた、魅力的な企画展

さらに同博物館では、2ヶ月に1度の割合で企画展も開催しています。同館の展覧会は、常設展・企画展ともに大学の研究成果を還元する施設として、最新の研究を公開しているのだそう。それに加えて企画展は、その時々の世相や話題を意識し、刀剣や祓、源氏物語など様々なテーマを打ち出すことで、若者や女性の来場者、リピーターの獲得に成功しています。

現在開催しているのは、祭りの季節にぴったりの『神輿 つながる人と人』。大学が所蔵する祭礼を描いた屏風や絵巻、刷り物などから「神輿」や「祭りの力」について考える展覧会ですが、國學院の神輿サークルの学生が実際に神輿を担いで解説をする「神輿を担ぐ!」や本学教授によるミュージアムトーク「神輿と町」など、國學院大學という大学ならではの関連イベントも特徴です。

 

 

■『祇園社祭礼図屏風』江戸時代

 

ミュージアムショップの書籍なども、初心者向けから専門書まで、同学の先生が選書されているとのこと。展覧会のテーマについてより深く学びたいという人に、ぴったりのラインアップが常に用意されているそうです。

開催中の企画展『神輿』の図録は、過去に開催された企画展『祓』とセットになるように作られているとか。気になるデザインはオンラインショップで!

 

展覧会ごとに公開される「オンラインミュージアム」も必見

さらに博物館のホームページから自宅のパソコンやスマートフォンで見ることのできる「オンラインミュージアム」や「デジタルミュージアム」など、デジタル対応も万全です。前者は各展示を担当した教授がYouTubeで解説、後者は展示作品を拡大したり、スクロールしながら全体像を鑑賞し、その解説文などを読むことができます。とくに「オンラインミュージアム」は、実際の展覧会を見ただけでは気づかなかった展示の意味や作品の見方を、15分前後の動画で、専門の先生がわかりやすく解説してくれています。開催中の展覧会について予習や復習ができるだけでなく、過去の展覧会も、会場の映像を見ながら楽しめる、とても知的なコンテンツです。

 

これだけの施設でありながら、入館料は無料というのも嬉しい限り。他の日本の大学付属ミュージアムと同じく、研究成果を社会や地域に還元するという意図から入館料は無料となるそうです。

展覧会を見終わったら、寄ってみたいのがミュージアムショップですが、こちらは前述した書籍のほか、トートバッグや手ぬぐいなど、展覧会ごとのグッズも販売しています。その全てがオリジナルで、ここでしか買えないものばかり。オンライン販売もしていますので、ぜひチェックしてみてください。

 

トートバックやポーチ、文房具など、お土産にもおすすめのオリジナルグッズ。博物館スタッフの皆さんの想いがつまっています。


また来館者は、博物館の上階にある「Café Lounge 若木が丘」他、構内の学食を利用することができます(営業日は博物館と異なるので、ご注意ください)。学びの場の雰囲気や学生たちのエネルギーに触れることで、こちらの気分も若返りそうですね。

入口でお出迎えとお見送りをする國學院大學のマスコット“こくぴょん”と埴輪さん。


◆◇◆渋アート的視点◆◇◆

学術的なクオリティを保ちつつ、誰が来てもわかりやすい展示を無料で見ることができる、穴場的な博物館。ぜひ大学という学びの場の雰囲気を味わいつつ、展覧会を楽しんでください。

2024年7月訪問

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取材・文/木谷節子
アートライター。「ぴあ」「THE RAKE」などをはじめとする雑誌、ムック、 情報サイトで、アートや展覧会に関する記事を執筆。近年は「朝日カルチャーセンター千葉」で絵画講師としても活動中。

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[展覧会情報]
2025年2月22日(土)~4月20日(日)
企画展「江戸の本屋さん—板元と庶民文学の隆盛—」

[國學院大學博物館 最新情報]
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