渋アート

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2024.09.20 UP

施設の魅力

渋アートと巡る ── 実践女子大学香雪記念資料館

渋谷周辺の日本美術を楽しめる美術館や文化施設を、様々な角度からご紹介するシリーズ。
今回は、近世以降に活躍した女性作家による美術作品を中心とした展覧会や大学所蔵資料の展示を行っている「実践女子大学香雪記念資料館」の魅力に迫ります。

 


 

学祖・下田歌子の号「香雪」を冠する、ミュージアム

渋谷駅東口より徒歩10分(バスを利用する場合は、渋谷駅東口バス停から「青山学院初等部前」で下車)。実践女子大学渋谷キャンパス内にあるのが、「実践女子大学香雪記念資料館」です。

六本木通り沿いにある実践女子大学渋谷キャンパス。画像の右手が渋谷駅方向、左手が青山方向です。展覧会開催時にはこの左側にポスターが掲示されるので、青山方向から向かう際には目印にも。

 

女子大学内の施設ということから、セキュリティ対策は万全。六本木通り沿いにある正面入口についたら、来館者は右手の警備室に入館の旨を伝えて校内に入ります。「企画展示室」と「下田歌子記念室」からなる「実践女子大学香雪記念資料館」は、自然光あふれる吹き抜けのエントランスの奥にあり、誰もが無料で入館することができます。

館名にある「香雪」は実践女子学園の創立者・下田歌子の号に由来します。16歳の時に岐阜から上京、宮中に出仕した彼女は、明治天皇のお后であった後の昭憲皇太后に和歌の才能を愛され、「歌子」の名前を賜ったと伝えられています。

 

入口を入ると正面に「企画展示室」があり、1年に5~6回ほどのペースで企画展が開催されています。春の卒業・入学シーズンには、母校の紹介を兼ねて実践女子学園の創立者である下田歌子関係の展覧会を、秋には特別展を開催。その他は、2024年9月に開催された『源氏物語・和歌コレクション-文庫(ふみくら)をひらく』のような国文学科による展示も行われています。

ちなみに渋アートがお邪魔した7月は、資料館主催の展覧会『戦後の女性画家たち―有馬さとえ・朝倉摂・毛利眞美・小林喜巳子・招瑞娟― 』(終了)を開催中。従来のコレクションに新収蔵作品を加えて、未だ女性が男性同様の美術教育を受けることが困難であった時代に、独自の表現を模索し、切り拓いた5人の女性作家の作品を紹介する絵画展でした。

入って正面にある「企画展示室」の扉にはポスターが。展示室の入口ではリーフレットも用意されていますので鑑賞の手引きとしてお手元に。

『戦後の女性画家たち―有馬さとえ・朝倉摂・毛利眞美・小林喜巳子・招瑞娟― 』は、女性画家たちが戦後の新体制のなかで強い意志を持って制作に向かった姿が伝わってくる展示でした。

 

「下田歌子記念室」では、教育者であり啓蒙者であった学祖・下田歌子の活動を、年表などで紹介。こぢんまりとした部屋ですが、歌子愛用のデスクなど書斎の雰囲気も再現されており、落ち着いた雰囲気の中で所蔵品によるテーマ展示を観ることができます。
 

 

「下田歌子記念室」

 

知られざる女性画家の作品を収集して紹介

資料館では、女性による芸術、文化に関する資料の研究、収集、保管を行い、その研究成果を社会に広く公開するという理念のもと、女性の画家による絵画作品を収集し、約300点にのぼるコレクションを築いてきました。江戸時代では、徳山(池)玉蘭(文人画家・池大雅の妻)や、幕末・明治の漢詩人である夫・梁川星巖(せいがん)とともに文人画家として名を馳せた張(梁川)紅蘭、また国宝《納涼図屛風》の作者・久隅守景を父に持つ狩野派の画家・清原雪信(ゆきのぶ)。明治・大正期では、当時最も活躍した女性南画家のひとり、野口小蘋(しょうひん)などの優品を収蔵し、近年では彫刻家・朝倉文夫の娘で、画家・舞台美術家として活躍した朝倉摂の作品がまとめて収蔵されるなど、コレクションの幅は年々広がってきています。

作品の購入も行っており、それら新収蔵品は企画展として御披露目されています。ちなみに今年は、島成園(しま せいえん)、跡見玉枝(あとみ ぎょくし)、伊藤小坡(いとう しょうは)など、近代日本画家の作品がコレクションに加わりました。

 

まだ知られていない女性画家の作品を多く収蔵する香雪記念資料館では、作品の貸出しを行うことも多いのだとか。

 

現在、日本の美術館では、過去に収集してきたコレクションがあまりにも男性作家の作品に偏りすぎていたという反省から、女性作家の作品収集と研究が急がれているのだそう。同館の活動は、こうした日本の美術界のトレンドをリードするものとして注目されています。女性の画家の作品収集と研究が進むと、それまでの男性画家中心の研究では放置されていた美術を巡る新しい景色がどんどん見えてくることでしょう。

そうした意味でも、世の中的にまだ知られていない女性画家の作品を集め、公開していくという香雪記念資料館の姿勢は、意義深いもの。同館の取り組みは他館とも連携することで、それまでの日本美術史を変える可能性さえ、はらんでいるのかもしれません。


◆◇◆渋アート的視点◆◇◆

同館の展示は、パネルの作品解説はもちろん、鑑賞の手引きとして会場で配布されている資料も充実。その丁寧でわかりやすい内容やホスピタリティには感銘を受けました。

2024年7月訪問

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取材・文/木谷節子
アートライター。「ぴあ」「THE RAKE」などをはじめとする雑誌、ムック、 情報サイトで、アートや展覧会に関する記事を執筆。近年は「朝日カルチャーセンター千葉」で絵画講師としても活動中。

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[展覧会情報]
2025年4月1日(火)~4月25日(金)
「第24回 学祖・下田歌子展-愛国婦人会と夜間女学校-」

[実践女子大学香雪記念資料館 最新情報]
実践女子大学香雪記念資料館
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