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2024.04.15 UP

コラム

【コラム】「渋い」をたしなむ
~和風月名から古に思いを馳せる

4月卯月(うづき):April

今年は桜(ソメイヨシノ)の開花が遅れ、渋谷付近でも4月に入ってから満開を迎えたところが多かったようです。桜は花びらが散る姿も美しく、比較的長く楽しめたのではないでしょうか。ソメイヨシノに続いてヤマザクラ、ツツジ、藤など、これから様々な花を楽しめる季節になります。

4月の和風月名“卯月”の由来は、《卯の花(ウツギの白い花)》が咲く季節によるのが有力なようです。和風月名は旧暦の季節に合わせたもので、実際に卯の花が咲くのは今では5月頃。さわやかな白い花は初夏の到来を告げる花として親しまれてきました。


*卯の花(ウツギ)の花言葉:「秘密」「風情」「古風」「乙女の香り」

刈り込みに強く、葉が密集して目隠しにもなるウツギの木は生垣としても利用されており、日本最古の歌集『万葉集』にもこの生垣を歌った和歌があるほど。

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春されば卯の花ぐたし我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも(作者不詳/『万葉集』10-1899)

- 春が来ると卯の花を傷めながら越えていったあなたの家の垣根は、いまではなんと荒れ果ててしまったことか。

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『万葉集』以外の歌集にも《卯の花》を詠んだ和歌は多く見られます。それほど身近だったのでしょうか。

また、今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』でもお馴染みの「源氏物語」にも〈卯の花の垣根〉が登場します(21帖『乙女』)。太政大臣となった光源氏が、その栄華の象徴ともなる大邸宅・六条院を1年がかかりで完成させるくだりです。広さ四町(一町=約120m四方)という広大な敷地を、四季折々の風情が楽しめるように造り、夏の庭には〈卯の花の垣根〉をめぐらせて花や草木を植えました。

生垣として目にする機会は少ないかもしれませんが、咲きこぼれる卯の花を見かけたら、季節の移り変わりを感じるとともに、古の人々に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

#渋アート
#卯月

\ここでも感じる古の世界/
ただいま五島美術館で開催中の『館蔵 春の優品展 王朝文化へのあこがれ』では、平安時代の古筆をはじめ、絵画や工芸など名品約60点を展観しています(会期中一部展示替あり)。
また、「国宝 源氏物語絵巻 鈴虫一・鈴虫二・夕霧・御法」を4月27日(土)から5月6日(月・休)まで期間限定で展示予定です。
詳細はこちら >

※本コラムは展覧会開催時に執筆されたものです。五島美術館『館蔵 春の優品展 王朝文化へのあこがれ』は終了しました。

■私が見つけた 「#渋アート」■

散る桜、川面に映る光──