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2024.03.12 UP

[report]
WEB写真展<まなざし>の制作秘話を語る〈前編〉

Bunkamuraオープンヴィレッジでは「探究型・芸術体感プログラム」(以下、本プログラム)と題して、文化・芸術から学びを得る体験機会の創出を行っています。

この度、オープンヴィレッジのWEBサイト内で、長野県にある大日向(おおひなた)中学校の生徒たちが撮影した“佐久”と“渋谷”の写真を公開いたしました。
WEB写真展<まなざし>こちらよりご覧いただけます。

公開にあたり、制作関係者がオンライン上に集まり、制作過程での気づきや面白かったエピソードを話す座談会を行いました。WEB写真展の中には載せきれない子どもたちの声や制作秘話をご紹介いたします。

 

▼座談会メンバーについて 
かくた みほ
本プログラムの事前ワークショップを担当。子どもたちの“渋谷”撮影時もサポートいただき、WEB写真展<まなざし>に掲載する写真の選定を担った現役のカメラマン

[プロフィール](外部サイトにリンクします)
スタジオLOFTスタジオマンを経て、写真家小林幹幸に師事後独立。雑誌やCDジャケット、ファッションブランドカタログなどの撮影と平行し、光とトーンを活かした作風で活動中。ライフワークでは、フィルムカメラを愛用して旅をベースに、光、自然、対なるものに重きを置いて制作。

かくたみほINSTAGRAM(外部サイトにリンクします)

 

柿木原 政広
Bunkamuraオープンヴィレッジのロゴデザインを手掛け、WEB写真展<まなざし>のWEBデザインにおいても制作協力をいただいたアートディレクター

[プロフィール]
2007年に10(テン)を設立。主な仕事に、静岡市美術館、角川武蔵野ミュージアム、singingAEON、藤高タオル、カードゲームRocca。著作に絵本「ぽんちんぱん」など。原弘賞など受賞多数。

 

 


関 康平
本プログラムの担当教員であり、ワールドオリエンテーション(大日向中学校の授業名称)の実施にも携わってきた大日向中学校の教頭先生

[茂来学園大日向中学校詳細](外部サイトにリンクします)

 

 

Bunkamura担当者:Bunkamuraオープンヴィレッジのメンバーであり、本プログラムの企画制作担当

[Bunkamuraオープンヴィレッジ詳細]

   

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── まずは、簡単に自己紹介をお願いします。それぞれ普段のお仕事と本プログラムでの役割を教えてください。

大日向中学校 関 康平(以下、大日向 関):こんにちは。大日向中学校の教頭で、国語科を担当しています。今回のプログラムには授業作りで関わり、子どもと一緒に活動内容や発表の形を考えたり、子どもとスタッフの取りまとめ役をやってきました。今日はよろしくお願いいたします。

かくた みほ(以下、かくた):普段はカメラマンをしています。今回は、大日向中学校での事前ワークショップや、子どもたちが写真展の鑑賞に来た際に付き添いで一緒に渋谷を撮ってまわりました。学校で開催した子どもたちの展覧会も見に行ったので、大日向中学校には2回伺いました。

柿木原 政広(以下、柿木原): アートディレクターの柿木原政広と申します。 このプロジェクトでは、WEB写真展の見せ方や考え方を整理した上で、どう演出していくか、といったことを提案させていただきました。

 

それぞれが子どもたちの写真を見て感じたこと

── それでは、WEB写真展<まなざし>の公開にあたり、みなさんに制作過程での気づきや面白かったエピソードを伺っていきます。まずは、かくたさんと関さん、子どもたちの写真を見てどのように感じたか教えてください。

かくた:子どもたちはこういう風に撮りたいというのが意外と決まっているというか、写真を見るとこれらの写真は同じ子が撮っていることがわかる。プロのカメラマンでも自分の作風は悩むところだと思うんですけれど、それが自然にできているのがすごいなという印象でした。

Bunkamura:頂いた写真に生徒さんの名前が書かれていなかったので、予想しながら見ていましたよね。関さんは写真を見て、どう感じましたか?

大日向 関:率直に感じたのは、写真という素材は面白いなということ。写真を撮るのに意図が入ってくる子もいれば、あまり狙わずに偶然にできたのを、周りが「すごい、これいいね!」って言ってくれて、本人がびっくりしたりとか。普段、国語の授業でそういうことを狙うんですけれど、作文とか文章を書くのが大変な子もいるので、写真を撮るのはいいなと思いました。 今回こういう機会をいただいて私としても楽しかったです。

Bunkamura:こちらこそ、ありがとうございます。

 

── 一方、柿木原さんは、かくたさんが選ばれた子どもたちの写真を見るところから関わっていただきましたよね。最初の打ち合わせの際に、子どもたちにインタビューすることが決まりましたが、その時のお気持ちを教えていただいてもよろしいですか。

柿木原:そうですね。普段の生活では、写真を撮ることに対して意識を持つみたいなことってあまりない気がしていて、でもインタビューをすれば、撮影の時に感じていたことや思っていたことは、出てくるんじゃないかなと思った。何が出てくるかは、想像がついていなかったけれど、予想以上にいっぱい言葉が出てきて。こんなに意図的にやってるんだとか、あるいは暗闇からぽんと出てきた言葉とか…。その言葉自体がすごく写真的で魅力的だなって思いました。

 

子どもたちへのインタビューを通して

── では、インタビューの話も出てきましたので、子どもたちに話を聞いた日のことを教えてください。皆さんその時に感じたことや気づいたことはありましたか?

かくた:一人3~5分の短い時間で話してもらうのに、説明に詰まる子がほとんどいなくて、例えば「テクニック的なことはわからないけれど、たまたま撮ったら撮れた」と説明する子がいたり、車を撮っている子は「人の顔が写らないようにとか、いろんな制約がある中でこれだけのことをやった」と言っていたり、みんなしっかり説明できるのがすごいなと思いました。

大日向 関:私はインタビューを聞いていて、一人ひとりの中にいっぱい言葉があるんだなって思いました。ここまで考えていたんだとか、こう思っていたんだとか、発見が多かった。今回の活動を進めていくあいだに、どういう写真が自分の中でいい写真なのかという基準が出来てきた感じがあったな。

柿木原:自分も引っかかった言葉があって「(写真の中に)人が写った方が引っかかりがあっていい」みたいなことを言っている子がいて。客観的に、人が写った方が魅力的ということを当たり前のように認識しているあの感じは、面白いなと思いました。

大日向 関:中学生の段階ならではなのかもしれないけれど、自分なりにスナップを撮ったり、友達とシェアしたり、いい写真をSNSにアップするのが好きな子は、基準をいっぱい持っているなと思いました。一方、写真を全く撮りませんという子は、今回(活動を)やっていく中で自分なりにどういう基準にするかを作っていた感じもあった。人によって随分違いがあるなと感じました。

Bunkamura:そうですね。子どもたちの写真を見て、このプロジェクトに参加したことにより新たに技術的なことを習得して表現したというよりも、等身大の子どもたちのまま環境や時間の制約によって、いろんな基準となる感性が引き出されているなと感じました。

 

子どもたちの学びや気づきについて

── 子どもたちが鑑賞した『ソール・ライターの原点 ニューヨークの色』(以下『ソール・ライター展』)の影響は感じましたか?

大日向 関:私は『ソール・ライター展』鑑賞前に事前ワークショップをやるなら、ソール・ライター風の写真を撮るようなワークショップがいいかなと思っていたんです。けれど、ワークショップの内容を話している時に、鑑賞の影響は勝手に出るから、あまりソール・ライターを押し出して縛りをつくらない方がいいという話を聞いて、なるほどと思いました。やっぱり鑑賞からインパクトを受けて、学んで、自然に活かしている子もいれば、全然違う撮り方をしている子もいるっていうのが面白かったなと思います。きっかけはあるけれど、それを使うかどうかは自分に任されているというバランスも良かったですね。

Bunkamura:ソール・ライターの影響に関しては、インタビュー後にWEB写真展制作チームの間でも話題に出ていましたよね。

かくた:はい。ドンピシャでソール・ライターの作風を取り入れている子もいたので。

柿木原:でも本人は認めようとしなかったよね(笑)

一同:そうでした~(笑)

大日向 関:自然に影響されてしまっているというか。でも、それ以外の撮り方を試そうとしている子もいた。授業を計画する時にも、どれぐらい縛りを作るかいつも悩むところで…。「何でも撮っていいよ」と言っても勉強になりにくいし、子どもたちもどうしていいか分からなくなるんです。けれど、ガチガチに「こう撮りましょう」とかやってしまうとつまらなくなっちゃう。今回『ソール・ライター展』の鑑賞という良い刺激があって、制約と自由さのバランスがちょうど良かったと思います。

 

── 佐久と渋谷の“まち”の違いも、子どもたちにとって影響が大きかったのかなと思うんですけど、その点はいかがですか?

柿木原:インタビューの時に「東京で撮った写真は簡単に撮れたけれど、地元は難しかった」と言っていたのが印象的で。地元で撮る方が簡単なのかなと思っていたので、そこはすごく新鮮でした。

かくた:渋谷の方が物珍しいし、時間も決まっていたから、子どもたちも撮らなきゃという感じで集中していました。短時間に「たくさんいいのを撮るぞ!」みたいな感じでやっていた。佐久は日常的に見慣れすぎて、良さを探すのが難しいのかなと思いました。

大日向 関:プロジェクトの順番や取り組み方もあったと思います。渋谷は限られた時間と場所の中で写真を撮ったんですが、佐久の写真はみんなから候補を募集する形に落ち着いて。今まで撮った中から好きだなと思う写真を出してきた子もいるし、改めて自分の身のまわりで撮ってきた子もいました。悩んだ子は改めて被写体を探した子ですよね。結果的にいろんな違いが出てきて面白かったです。

── 子どもたちから、偶然撮れた写真と意図的に撮った写真の話が出てきましたが、その点に関して気づいたことや思ったことはありますか?

かくた:キャンプで「ブレている写真を撮った」と言っていた女の子が印象的でした。「偶然撮れた」と言っていたけれど、「ブレている良い感じの写真にするのに何枚も撮っている」と話していた。偶然撮れているんだけれど、意図的にトライしている。求めている画(え)はもう決まっていて、それをどうにか実現させたい感じで取り組んでいる。適当に撮っていないところがすごいなと思いました。

大日向 関:子どもたちの写真には遠くに映っている自分を撮るとか、友達の姿を狙って撮るとか。そういう意図があるのが面白いなと思う一方で、友達の笑顔を不意に撮るみたいな、全然狙わずに、その場でパッと撮った距離感でないと撮れないような写真も結構あって。それぞれのバランスが楽しかったですね。

柿木原:写真家いわゆるフォトグラファーは、ビジネスで写真を撮る時には、偶然性を意図的に減らしながら必然的に絶対撮れる状況を作り出し、最後の最後に偶然性を入れる。プロの人たちがやることと同じことを言っていて、すごいなと思いました。 偶然性を意図的に狙うということを当たり前のように言っている感じは、面白かったです。

Bunkamura:かくたさん、プロの写真家としていかがですか?

かくた:プロの人たちも自然な感じで撮りたいから、偶然撮れたように見せたいという思いはある。子どもたちも自分で状況を考え演出しながら、どうにか偶然撮れた感じにしようと目指しているところがすごい!

柿木原:フィルターを使っている子で、光をちゃんと計算しながら、偶然だけれど意図的に、という話もありましたね。

Bunkamura:インタビューをして、子どもたちがいろんなことを考えながら写真撮影していたというのが伝わってきましたよね。もちろん写真自体からも感じとれるんのですが、話を聞いたことによってさらに発見した部分があります。

 

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後編は、WEB写真展<まなざし>制作についてのトークです。タイトル背景写真の秘密やお三方からのメッセージも紹介しています。引き続きお楽しみください。

◆大日向中学校×Bunkamura WEB写真展<まなざし>の制作秘話を語る〈後編〉はこちら >

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