深く知り、さらに楽しむウェブマガジン

自分のまなざしで写真を撮る!
Bunkamura × 大日向中学校 探究型・芸術体感プログラム
「子どもたちのまなざしで切り取る“渋谷”と“佐久穂”」

写真を通じて“自分ならではのまなざし”を見つける体験型プログラム

Bunkamuraは文化・芸術の発信だけでなく、次世代の文化の担い手たちの育成にも努めています。その対象には、現在進行形で文化芸術に携わっている若手アーティストだけでなく、これから将来について考えていく学生や子どもたちも含まれています。
そんな彼らに、知識や教養を深め、知的好奇心を刺激する学びや、文化・芸術に触れる楽しさを体験できる機会を創出する一環として、長野県佐久穂町で日本初のイエナプラン教育を実践している大日向中学校と連携し、『Bunkamura × 大日向中学校 探究型・芸術体感プログラム』を実施中です。

イエナプラン教育とは1924年にドイツで生まれた教育法で、異年齢の子どもたちが1つのグループで共に活動することが特徴的。基礎学習(教科学習)や探究型総合学習である「ワールドオリエンテーション」を中心に、子どもたちが自分で学習計画を立て、学びを深めるとともに自主性や自立心を養っていくことを重視しています。

今回、同校の1年生から3年生までの生徒約30人が参加するプログラムは、この「ワールドオリエンテーション」の活動として企画したもので、「子どもたちのまなざしで切り取る“渋谷”と“佐久穂”」がテーマ。都市風景をクールに切り取るスタイルで熱狂的なファンを持つ写真家ソール・ライターの作品を参考に、さらにただ作品を鑑賞するだけで終わらず、表現者として“自分ならではのまなざし”で佐久穂や渋谷の街を写真撮影するという意欲的な内容です。本物の芸術作品に触れることで得られる感性や創造性を磨くだけではなく、探究のプロセスを通じて文化・芸術に対する関心や理解を深め、豊かな表現力を育てるために、写真の鑑賞と分析、撮影体験から視覚的表現を学びます。さらには自分で撮影した写真に込めた意図の解説や発表することで、言語コミュニケーションスキルも高めていきます。

渋谷での撮影会の準備として、ソール・ライターのアトリエを訪れたこともあり、光とトーンを活かした優しい作風で人気の写真家・かくたみほさんが講師を務める事前ワークショップを6月29日(木)に大日向中学校で実施。まずは、かくたさんが自ら撮影した写真を見せながら、“ソール・ライター的な写真”とその撮影ポイントを解説。理解を深めていくために生徒との対話を交え、自分の撮りたいイメージで写真が撮れるよう、構図と光について重点的にレクチャーしました。続けて、懐中電灯を利用して“光の使い方で写真の雰囲気が変わる”ことを試すグループワークを実施。生徒たちは身近な物や人を被写体にしながら“自分ならではのまなざし”とその雰囲気に合う撮り方を模索し、さらに各グループの作品発表を通じてイメージを膨らませていきました。また、プログラムを担当する太宰文緒先生によると「撮影機材を借りることになった生徒たちが、本格的な一眼レフを手にした途端、テンションが上がって楽しそうでした」とのことで、とても意欲的にプログラムに臨んでいたようです。

様々な“街の表情”を見せる渋谷を生徒たちが写真で切り取る

そして撮影会当日の7月14日(金)。バスで東京・渋谷に到着した生徒たちは、まず渋谷ヒカリエ9F ヒカリエホールAで開催中の写真展『ソール・ライターの原点 ニューヨークの色』(会期:2023年7月8日~8月23日 企画制作:Bunkamura)でライターの作品を鑑賞。都会の日常を臨場感満点に切り取った写真の特徴を参考にしようと、じっと見入ったりカメラで記録していました。また、実際に間近で作品に触れたことで「早く撮影したい!」「自分も写真で何かを表現したい!」と刺激を受けたようで、中には会場外のロビーの窓から見下ろせる渋谷の街にさっそくカメラを向ける姿も。さらに鑑賞後の感想として「美術館で作品を鑑賞する機会がなかなかないので面白かった」「アナログな写真を見れて新鮮だった」という声も挙がっていました。

こうして撮影イメージを具体的に膨らませてから、生徒たちはスマホや一眼レフなど持参したカメラ機材を手に、「谷をのぞむ歩道橋班」と「地底をめぐる渋谷地下班」の2グループに分かれて渋谷の街へ。渋谷ヒカリエ11Fから2Fの連絡通路へと降り、「谷をのぞむ歩道橋班」はSHIBUYAスクランブルスクエア・渋谷駅東口歩道橋・渋谷ストリーム、「地底をめぐる渋谷地下班」は渋谷ヒカリエを縦移動しながらB3Fフロア・渋谷地下街を中心に撮影に臨みました。

最初こそ見知らぬ街での撮影に遠慮がちな様子でしたが、洗練されたデザインのビルが並び立ち、多くの車や人々が行き交う賑やかな渋谷の街は被写体の宝庫。様々な“街の表情”に目を輝かせながらシャッターを押し、だんだんコツがつかめてくると、カメラのアングルやズームを変えたり、地面すれすれのローアングルで構えるなど“自分ならではの切り取り方”を模索。さらに、アーティスティックな仕上がりを目指してモノクロで撮影したり、街の風景を眺めている人物として先生や生徒をモデルにして“都会の日常”らしさを表現するなど、思いついたアイデアを次々と試して工夫する姿も見られました。

“自分だけが持っているもの”をのびのびと表現してほしい

こうして約1時間半の撮影会はあっという間に終了。控室に戻ってからも生徒たちは興奮が冷めやらない様子でお互いに写真を見せ合い、「楽しかった」「渋谷でしか見られない風景を撮影できて面白かった」と充実した面持ちで感想を語ってくれました。生徒をサポートするため撮影に同行したかくたさんも「みんなワークショップの時よりも今日の方がイキイキしていて、サポートが必要ないくらい自主的に撮影していました」と生徒の意欲的な姿勢に満足。さらに「写真は撮影したり作品を見せ合うことでコミュニケーションが生まれる素晴らしいツール。これからも写真を撮り続け、自分のやりたいことを見つけてくれると嬉しいですね」と今回の体験が将来につながることを期待していました。

また、今回のプログラムを担当し生徒たちを見守ってきた太宰先生にも撮影会での生徒たちの様子を尋ねたところ、「余計なことに気を取られず、イキイキと写真を撮影していました」とコメント。こうした意欲的な姿勢を踏まえた上で、生徒たちが自分のまなざしで写真を撮る意義について「子どもたちはみんな『自分が持っているものを出したい』という意欲があるし、私たちも出してほしいと思っています。そうしたものを、既成の枠にとらわれずのびのびと表現し、殻を破ってくれたら嬉しいです」と語ってくださいました。

今後の活動として、渋谷と佐久穂で撮影したスナップ写真を使い、生徒自身がキュレーションする写真展を秋ごろ開催する予定です。写真をテーマにした探究学習を通じて、文化・芸術に触れる楽しさを知った生徒たちが、何を学び、どのように成長していくか、私たちも期待しています。


【大日向中学校×Bunkamura WEB写真展<まなざし>】

長野の中学生は、カメラレンズ越しに【まち】をどのように見つめたのか。

暮らしの拠点【佐久】と、訪れた土地【渋谷】
双方から選ばれた写真をWEBサイトにて公開。

詳細はこちら