山田和樹 マーラー・ツィクルス

TOPICSトピックス

2015.11.26 UP

感じるままを表現して-上白石萌歌

武満徹「系図」―若い人たちのための音楽詩― 
第4回公演のプログラム、武満徹「系図」―若い人たちのための音楽詩― はニューヨーク・フィルハーモニック創立150周年を記念して委嘱された作品。
谷川俊太郎の詩集『はだか』から選んだ6篇の詩を、武満自らが少女の一人称として再構成した朗読詩が全編に配される。
武満は、この朗読者には12歳から15歳くらいの少女が望ましいとし、その意を尊重した山田和樹により、15歳の上白石萌歌(かみしらいし・もか)に白羽の矢が立った。

* * * * * * * * * * * * * *


現在高校1年生の萌歌さんは、2011年、第7回「東宝シンデレラオーディション」で史上最年少の10歳でグランプリに選ばれたという逸材。ドラマ、映画などに出演する他、NHK Eテレのアニメ「はなかっぱ」の主題歌を歌うなど、多岐に渡って活躍している。
15歳にしてオーケストラとの共演という大仕事に臨む萌歌さんに話を聞いた。

-今回の出演依頼があったときはどう思われましたか?
「“コンサートの朗読をさせていただくことになったよ”とマネージャーさんからお話をいただいて、なぜ私を選んでくださったのか、と不思議に思いました。でも谷川俊太郎さんの詩と伺って、小さいころから大好きだった谷川さんの詩を素敵なオーケストラの演奏に合わせて朗読させていただけるなんて、夢のように感じました。」

-昔から谷川さんの詩がお好きだったのですね。
「はい!小さいころ、母から誕生日プレゼントに『あさ』と『ゆう』という詩集をもらって、大好きでぼろぼろになるくらい読んでいました。特に『朝のリレー』が大好きで。
谷川さんの詩は平仮名で書いてあるものが多くて、小さいときのわたしでも読むことができたし、小さかったからこそ純粋なメッセージを受け取れたような気がします。」

-今回の詩についてはいかがですか。
「谷川俊太郎さんの『はだか』の詩集を手にとって読んだときは、まるで自分が小さな頃に戻ったようなまっさらな気持ちになりました。この詩もすべてひらがなで書かれていて、やわらかいけれど力強い文章が心に染みます。谷川さんのメッセージをしっかりと受け取って、世界観を表現できるように頑張ります。」

-特に好きな部分はありますか。
「いくつかあるんですが…『おとうさん』の〈おとうさんのはしがさといもをつまんだ/くちをあけたらおくのきんばがみえた/おとうさん/おとうさん/ずうっといきていて〉というところがとても好きです。なぜかわからないけど。あと、『とおく』の最後、〈でもわたしはきっとうみよりももっととおくへいける〉というところ。可能性がずっと広がっているようで。ここの音楽もすごく素敵です。この詩は、私の中では海の近くの岸に立っているようなイメージがあって、ここではじめて出てくるアコーディオンが海辺を感じさせるし、未来が広がっていくような感じがして大好きなんです。

-『系図』の作曲にあたり、武満徹さんは12~15歳の少女が朗読するイメージを持っていたのですが、まさにその年齢の萌歌さんは読んでいて共感する部分がありますか。
「詩の主人公は今の私くらいの年ではなくて、小学校低学年くらいなのかなと思っています。小さい頃に感じたことのある、お母さんがなかなか家に帰ってこないときの寂しさとか、お父さんなに考えているんだろうな、という疑問とか。私もそういうことを思っていたので、すごくわかる気がします。懐かしい感じです。」

-山田和樹さんに9月にお会いになったということですが、印象はいかがでしたか。
「クラシック音楽が好きな母の影響でお名前は知っていたのですが、お会いするのは初めてでした。演奏会のリハーサルを拝見して、指揮を振っているときの後ろ姿がどうしてこんなにかっこいいんだろう!と思いました。実は、山田さんほどお若い方の指揮を拝見するのは初めてで。とても力強い指揮をされるので、どんな方なのか少し不安だったんですけど、お話ししたら優しくておもしろい方でした。」

-朗読についてはどのようなお話をされましたか。
「“15歳の萌歌ちゃんが感じるままに朗読してね”とおっしゃってくださって、なんというか、自由にやっていいよ、という感じでした。どっしりしていてなんでも受け止めて下さる感じがして、安心しました。」

-今はどんな練習をされているのですか。
「まずは、何回も詩を読んで、音楽を聴いて、自分のなかでイメージを膨らませています。毎晩、母と一緒にお風呂上りに必ずCDを聴くんです。心が落ち着く贅沢な時間です。」

-お風呂上りと決まってるんですね。
「はい、腹筋とかしながら(笑い)」

-読んで覚えるというより、聴いている、というかんじなのでしょうか。
「ミュージカルの先生に“まずはじっくり詩を読んで、イメージを膨らませて、それから声に出してみて。詩というのは場所を変えて読んだら感じ方が変わるし、何を着ているかでも違うだろうから”とアドバイスされたこともあって、今は繰り返し読んだり、聴いたりしているところで、まだ声には出してないんです。声に出して覚えたら、“ここはこういうふうに読もう”と言い方で覚えてしまうこともありそうで。自分がどう感じるのかな、と考えながら、いろんな場所で詩を読んでいます。」

* * * * * * * * * * * * * *

 
以前、萌歌さんは詩を繰り返し読むうちに浮かんできた疑問について谷川さんに伺いたい、と手紙を書いた。実はこの日、その手紙を読んだ谷川さんからの返事をスタッフからお渡しした。そこには萌歌さんの質問ひとつひとつに、丁寧な回答があった。
「今日、この手紙をいただけて、本当に宝物です。ずっと大好きだったので。」
はじけるような笑顔で谷川さんからの手紙を胸に抱いた萌歌さん。1月、オーチャードホールに響く詩と音楽が一層楽しみになった瞬間だった。