山田和樹 マーラー・ツィクルス

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2014.06.12 UP

会見レポート

今もっとも注目を集めている日本人若手指揮者・山田和樹の新たなる挑戦が、2015年1月に幕を開ける。その挑戦とは、マーラー交響曲全曲と武満徹の作品を組み合わせ、3年間にわたって演奏する一大プロジェクトだ。

すでに国内外のオーケストラでポストを得ており、また数々の客演でも成功を収め実力を発揮している山田氏。30代でマーラーの全曲演奏を行うというのは世界を見渡しても稀だが、彼がどんな思いでマーラーや武満に挑むのか、記者発表の会場は期待に満ち溢れていた。

 

「それしかない」――"オンリー"の選択が凝縮された企画

「記者会見というのは実は初めてでございまして、いささか緊張しております」と切り出した山田氏だが、その面持ちは堂々たるもの。この企画の成りたちについては、「それしかない」という選択をしていって出来あがった、と語る。

「オーチャードホールでやるなら、あの会場の雰囲気というか大きさというか、僕には最初からマーラーしかなかったですね。是非マーラーをやりたい。そしてマーラーをやるなら(組み合わせるのは)『武満さんしかないだろう』と、これも自分の中ではオンリーだったんですよね。当然オーケストラは日本フィルしかないと。全てそのオンリー、オンリーのものが凝縮されて」ここに至ったのだと。

続けて、プログラミングの内容については「マーラー・ツィクルスというのは、今の時代、そんなに珍しいことではないですが、お会いすることが叶わなかった先人の方々――若杉弘先生、岩城宏之先生、武満徹先生、三善晃先生、山田一雄先生、渡邉曉雄先生――この6人の方々のアイディアがいろいろと自分の中で結びついた企画です。例えば若杉先生が、3年かけて3つずつ交響曲を演奏するというのは過去に例があり、そこにすごくインスピレーションを頂いております。またマーラーの第1番をハンブルク稿という珍しい版で演奏しますが、そういうことも若杉先生が日本で発信されていた」と、これまで日本の音楽界の歴史を築いてきた先人たちへの思いをにじませた。

選曲やキャスティングについても、「この4月に音楽監督として就任した東京混声合唱団は長らく岩城宏之先生がやっておられて。第2回の第2番≪復活≫は東混と武蔵野合唱団との混成、そして(武満徹の)「うた」シリーズという大変素敵なものがございまして、それは東混だけで演奏して頂こうと思っているんです。また第8番のときには、栗友会合唱団にお願いしようと思っています。アマチュアの活動に対しても非常に熱心であったのが山田一雄先生であり、渡邉曉雄先生でいらっしゃるということも、そういう結びつきもいろいろあったらいいなと思って」と触れた。冒頭から繰り返した「それしかない」というプログラミングについても、「第3番の時は単純に、3番だから三つの音楽という、3、3というオンリーで浮かびましたし、全てオンリーなんですよね。4番の時も前半にやるのは系図しかないと思いましたし、5番のときもこれしかない」と、鋭いインスピレーションを覗かせた。

 

「ほとんど初挑戦。大きなハードルを自分で立てたような気がしている」

「3年かけて9曲やるんですが、自分にとってほとんど初挑戦なんですね。プロの楽団でさせて頂くというのは、第4番以外はほとんどありません。自分のなかでは、大きなハードルを自分で立てたような気がしているんです」と、山田氏は巨大な交響曲に挑む心境を語る。

自身にとってツィクルスの一番の山場は、「僕の中で未だに一番距離があるのは、第6番と第7番」だと。「そこを超えて≪千人の交響曲≫まで行きますと、オペラ的なシンフォニーと言うことができると思ますが、歌が入ると途端に楽になるんです。そして第9番も非常にイメージとしては持ちやすい」

最後に、「全てがオンリーなものが集まった企画」を始動させるにあたり「3年に渡りますけれどもぜひ、ご支援ご協力を皆様に頂けたらと思っております」と笑顔で締めくくった。

<2014年4月21日 Bunkamuraオーチャードホールにて>