山田和樹 マーラー・ツィクルス

INTERVIEW インタビュー

交響曲第4番 ソリスト-小林沙羅

今年、井上道義指揮、野田秀樹演出の『フィガロの結婚』のスザンナ役を演じて大好評を博し、2012年にはソフィア国立歌劇場『ジャンニ・スキッキ』のラウレッタ役でヨーロッパ・デビューを飾るなど、今最も注目されている若手ソプラノ歌手の一人である小林沙羅は、天性の表現者に違いない。

「小さな時から歌ったり、踊ったりするのが好きで、2歳のときの童謡の録音が残っています。体を動かすのも好きで、友だちがバレエを習っていたので私も始めました」
5歳でバレエとピアノを始めた。
「バレエやピアノの発表会が好きでした。小学校で学芸会があると、アクの強い役をしていましたね(笑)。小さい頃から舞台をやりたいと思っていました」
10歳のとき、坂東玉三郎がひらいていた東京コンセルヴァトリーで日本舞踊や演技を学び始めた。
「高校生のとき、進路を決めなければならず、どういう風に舞台に関われるかを考えました。その頃、合唱部に入っていて、合唱部の先生に『あなた、すごく良い声しているから音楽大学に行ったら』といわれ、音楽大学を目指すようになりました。本当は舞台女優になりたかったのですが、歌が大好きで、歌を磨けば、ミュージカルもできると思いました。その頃、オペラや歌曲をやりたいという気持ちはありませんでした。舞台につながる道として歌を極めようと思ったのが、声楽を学び始めたきっかけです。
 高校2年生の秋から声楽の勉強を始めたのですが、受験勉強としては始めたのが遅く、コールユーブンゲン、楽典、聴音、新曲、ピアノなどやらなければならないことが多くて、必死の1年間でした」
そして東京藝術大学に入学。
「オペラや歌曲がこんなに面白いものだと気づいたのは大学に入ってからでした。いつも舞台で表現したいと思っていたので、オペラこそ私のやりたいことじゃないの!と思いました。オペラの面白さを知ってからは、ミュージカルへの気持ちは薄れていきました。
 大学1年の終わりに『フィガロの結婚』のスザンナ役のアンダースタディがまわってきて、本キャストの方が忙しくてリハーサルに来れなかったので、ほぼすべての練習に出ました。そのときに勉強したことが今も生きています。3年生のときの芸祭では、『魔笛』でパミーナを歌いました。学生が手探りで一からオペラを作るのは本当に大変で、幕が降りた瞬間、みんなで抱き合って泣きました。オペラって、こんなにたくさんの人の力が関わって、みんなで作らないと出来ないものだと強く感じました。
 大学院1年のときに、デビューとなった『井上道義の上り坂コンサート』の『バスティアンとバスティエンヌ』、日生劇場の『ヘンゼルとグレーテル』、東京文化会館の千住明作曲『隅田川』のオーディションに合格し、それらが今の仕事につながっています」
歌曲や宗教曲の素晴らしさに気づいたのは大学院に進んでからだった。
「学部生の頃はオペラにだけ興味があって、宗教曲は自分には関係ないと思っていました。でも大学院に入って、宗教曲の重唱を歌ってみて、自分の声が宗教曲に合うことに気づいたのです。それに音楽がドラマティックで、何を歌っているのかを理解すると、ハイドンの『四季』にしても『天地創造』にしても、人間的で生き生きと表現できる作品だとわかりました。今は宗教曲を歌っているときは楽しいですね。宗教曲って、オペラと全然違うものだと思っていたのですが、そういうわけではないのですね。根本的なところで人間とつながっている」
その後、ウィーンに留学し、ヴァルター・モーア氏に師事した。
「リート・オラトリオのクラスに入って、シューベルト、シューマン、マーラー、リヒャルト・シュトラウスなど、たくさんの作品を深く勉強しました」

そんな彼女が、1月30日の「山田和樹マーラー・ツィクルス 第4回」でマーラーの交響曲第4番の独唱を務める。この交響曲の第4楽章では、天上の生活がソプラノによって歌われる。マーラーの交響曲第4番は、「第九」を除くと、小林にとって最もオーケストラとの共演数の多い声楽作品だという。これまでに、沼尻竜典&トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ(2010)、ブラジルのポルト・アレグレ交響楽団(2012)、秋山和慶&広島交響楽団(2014)、秋山和慶&洗足学園ニューフィル(2014)、秋山和慶&中部フィル(2015)、グスターボ・ヒメノ&群馬交響楽団(2015)などと歌っている。
「マーラーは大好きです。交響曲第4番の第4楽章は、『子供の魔法の角笛』という民謡から採られていて、歌詞の内容も可愛らしいけど、怖い。そういうところが面白い。この曲の魅力は、可愛らしさと美しさとおどろおどろしさのミックスされた感じにあると思います。マーラーが天上に対してどう思っていたのかを想像してみます。本当に天上のような美しい音楽もありますが、彼が皮肉な顔で笑っているような部分もあります。この曲は、どう歌うかで全然変わってしまいます。メロディの天上のような美しさと詩の内容のおどろおどろしさとのどちらを強調するか。アプローチは、指揮者やオーケストラによっても変わってきます。私はどんな風にも歌えるように、いろいろ試して、引き出しをたくさん準備しておきます。聴いている方々にはこう歌ってほしいというのがあるとは思いますが、私が歌っているのとは違う歌い方を聴きたいと思っている方々にも納得していただけるような音楽にしたいといつも思っています。少年が歌うように清らかなメロディですが、音域は全体的に低く、オーケストラは厚く鳴っています。そんな中で、言葉や音楽を届けて、作品の魅力を伝えるのが難しい作品です。私は低い声も出るので、私にぴったりの作品だと勝手に思っています。やる度に課題はありますし、1回1回違う音楽になります。そのときそのときで一番いいものを作っていきたいと思っています」
若きマエストロ、山田和樹への信頼は厚い。
「山田和樹さんは、一昨年、オーケストラ・アンサンブル金沢のメンデルスゾーン交響曲第2番『讃歌』で初めて共演しました。山田さんは自分のやりたい音楽をはっきりと持っていらして、それが説明されなくても指揮だけでわかる。その上、私がやりたいことも聞いて下さる。コミュニケーションをとりながら作っていく方なのですね。マーラーではどんなアプローチをされるのか、今からリハーサルが楽しみです」

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