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Bunkamura25周年記念 リヨン歌劇場 日本公演2014 歌劇「ホフマン物語」

2014/7/5(土)15:00開演 2014/7/7(月)18:30開演 2014/7/9(水)15:00開演

Bunkamuraオーチャードホール

演出家インタビュー

©大窪道治

  2013年8月、サイトウ・キネン・フェスティバル松本での「こどもと魔法」と「スペインの時」を演出するために来日していたローラン・ペリー氏に、今回の「ホフマン物語」の演出について話をきいた。

「ホフマン物語」はオッフェンバックの作品のなかでどういう特徴があるとお考えですか?

「『ホフマン物語』は、オッフェンバックの最後の作品であり、その中に含まれる豊かな想像力あふれる芸術性が素晴らしいですね。このホフマンというのはドイツ人の実在した詩人ですが、オッフェンバックはこれを、自分が創造した物語の登場人物のように描きました。オッフェンバックの他の作品に比べて素晴らしいのは、複数の面をもちあわせていることです。悲劇であり、喜劇であり、とても深みがあるのに軽い」

今回出演されるにあたって、この作品の時代性というのはどのように考えておられますか?

「ホフマンの時代に戻っています。1820年~40年頃ですね。その頃はどちらかというと夢見がちな時代でした。重要なこととして、作品が最初から最後まで繋がる一本の線を引きたいと思いました。『ホフマン物語』は3つの物語でできていますよね。オランピアの物語、アントニアの物語、それからジュリエッタの物語。よくある『ホフマン物語』の演出ではこの3つがお互いに全然関係性のない物語に描かれていますが、私にとってはすべての物語に共通する方向性、緊張感を持たせることがとても重要なのです。物語全体に共通性を持たせるために、最初から最後まで舞台セットは一つしかありません。そしてそれが動くのです。このセットは、ベルギーのレオン・スピリアールトという画家からインスピレーションを受けています。シンプルに見えますが、非常に綿密な工夫があり、多面的な形がとれるようになっていて、舞台転換が35もあります。そうすることによって、より物語を語っていけるのです」

ヒロインは一人で4役をやるのですね。

「一人が4役を演じるほうが道理にかなっていると思いました。アントニア、オランピア、ジュリエッタ、そしてステラですね。私達のバージョンでは、エピローグでホフマンとステラに小さなデュオもあります。1人のホフマンと1人のニクラウスがすべての物語にいて、同じ1人が演じる悪役がすべての物語に登場し、1人の歌手がコシュニーユ、アンドレ、フランツ、ピティキナッチョを演じるわけですから、物語は繰り返されるように感じられます。なのでやはりヒロイン役も1人ですべてを演じた方が筋に合うと思います。」

映像を見せていただいて、舞台の色調が暗いと思ったのですが、この色調にはどのような意味があるのでしょうか?

「この物語は少し暗めなところがあるわけですし、私がセットのインスピレーションを受けたスピリアールトが非常に暗い絵を描く人でした。彼は、19世紀の後半にベルギーのオーステンデに生まれた人で、オーステンデからほとんど出たことがありませんでした。それで彼は日常生活の中のものを普通でない描き方で描くわけですね。実際はとても平凡な家なのですが、まるでおばけや幽霊が出てくるような気がする。でもそれは実際は普通の扉であったり、植木だったりなんですね」

©大窪道治

「ホフマン物語」自体にオカルト的なところがありますね。

「その『ホフマン物語』のオカルト的なところというのは、ホフマンのイマジネーションなんですね。ホフマンは19世紀の始めですが新しい幻想的小説を書いた大作家でした。作品におけるどんなオカルト的要素もすべて、ホフマンの夢というか、作者による文学的創造なのですね。作品の趣旨は、芸術と愛との対立です。『あなたが書くもの(芸術)にすべてを捧げなくてはいけない。愛だの何だの話に時間を割いているようじゃだめだ』というメッセージでしょうか。でも実際にはそういう愛や恋だといった感情、経験が芸術を生み出す心の栄養となるわけですが」

オペラを演出する際に特に大切だと思ってられることは何ですか?

「私にとって一番重要なのは、音楽と歌手です。演出は音楽の一部でなければならないと思っています。舞台に、音楽があり、歌手が歌う、それを何よりも見せなければならないと思います。セリフを話すだけの演劇と同じようではいけない。最初に音楽なのです。つまり、重要なのは、セットや衣裳などの視覚的なものではなく、歌手の歌や演技、指揮者です。歌手のエネルギーです。その歌手のエネルギーをどう使えるかなのです」

ありがとうございました。

取材・文=山田治生