ヨーロッパへは150回以上旅しているというのに、ドイツのシュツットガルトはなぜか縁がなかった。
すでに20ケ所以上のヨーロッパの歌劇場でオペラを観ているのだが、ドイツではミュンヘン、ベルリン、ハンブルグの三都市でしかオペラを楽しんでなく、このところ評判のシュツットガルト歌劇場を見逃してしまっていたのだ。
2006年に日本公演があることを知るにおよんで、2005年春、イタリア、スペインへ旅行する1日を使ってシュツットガルトへ飛んでいった。幸運にも、来日公演の演目であるモーツァルトの「魔笛」を上演する日のスケジュールが空いていたのである。
そして、宿をオペラハウスが目と鼻の先にある「アム・シュロス・ガルテン」にとった。ドイツ・オーストリアのホテルはどこも清潔で、それだけで快適なほどだが、この「アム・シュロス・ガルテン」は、街の一等地の、それも公園の一角にあり、“安全・清潔・静寂”というホテルの三本柱を兼ね備えた申し分のない宿だった。
さて、その晩観た「魔笛」だが、幕開け早々に観客のド肝を抜く演出があった。主役のタミーノがオーケストラピットに落ちてしまうのだ。わたしの目は点となり、時差ボケがいっぺんに吹っ飛んでしまった。
夜の女王はサングラスをかけて登場したかと思うと、ワインを瓶からがぶ飲みして酔いつぶれてしまうし、パパゲーノはロックシンガーよろしく歌いまわる。 これまでメルヘンとばかり思いこんでいた「魔笛」が
、いきなり現代社会にスライドしてしまう。奇抜な演出に見えても、歌手は実力者揃いだから、奇想天外の舞台の不思議な魅力にいつしか説得されてしまった。(とりわけ、夜の女王役コルネリア・ゲッツのコロラトゥーラ・ソプラノは素晴らしかった!)
この天才演出家ペーター・コンヴィチュニーの仕掛けは、日本の観客をどのように驚かせてくれるのだろうか。公演がなんとも待ち遠しい。
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