世界初演!ヘレス公演レポート

 ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ。スペイン南部アンダルシア地方の南西に位置し、世界になだたるシェリー酒と名馬、そしてフラメンコの故郷として知られる、人口およそ18万の町。
この地で毎年2月末から約2週間にわたって開催されるのが、世界で唯一の、フラメンコ舞踊とスペイン舞踊のフェスティバルであるヘレス・フェスティバル。スペイン舞踊を代表するスターたちが一堂に介するこのフェスティバルを観に、スペインはもちろん、ヨーロッパ、アメリカ、アジアなど世界各地からファンが つめかける。今年で10年目を迎えたファン垂涎の、このフェスティバルで、世界にさきがけて初演されたのがアイーダ・ゴメススペイン舞踊団による「カルメン」である。
 3月9日。夜9時の開演を前に、町の中心にあるビジャマルタ劇場に、人々が集まってくる。期待に上気する顔、顔。3年前、初演まもない「サロメ」を上演し、大好評を博したこの劇場にアイーダが帰ってきたのだ。今度はどんな舞台を見せてくれるのだろうか。
 幕が上がると、瞬く間に観客はアイーダの「カルメン」の世界にひきずりこまれてしまった。
 タバコ工場。女たちの中でもひときわ目をひく美しいカルメン。迫力たっぷりのけんかのシーンの後では予期せぬ拍手がおこった。
 はなやかな居酒屋の場面。色鮮やかな衣裳をまとった女性たちの群舞はまさに壮観。長く裳裾をひいたバタ・デ・コーラとよばれるスカートや、マントンと呼ばれる大判のショールなどが効果的に使われている。カルメンとドン・ホセが踊る愛のパ・ド・トゥの切なさに胸打たれる。

  ドン・ホセを踊るホセ・ウエルタスはアントニオ・ガデス舞踊団で、ガデス引退後ガデスの持ち役であるドン・ホセなどを踊っていた実力派。姿が美しい。また闘牛士を踊るプリミティーボ・ダーサも同じくガデス舞踊団出身で、いかにも闘牛士といった男伊達で観客を魅了する。
 1時間20分は本当に、あっという間だ。喝采が劇場を包む。群舞に、闘牛士に、ドン・ホセに、そしてカルメンに、 惜しみない拍手がおくられる。
ブラボー。ブラボー、アイーダ!
カルメンが刺される瞬間、思わず身体が震えたのは私だけではないだろう。  
 21世紀のカルメンを誕生させたアイーダ・ゴメス。フラメンコだけではない、スペイン舞踊の魅力を、可能性を、改めて私たちに感じさせてくれた彼女に、心からの喝采をおくりたい。

text by 志風恭子(スペイン舞踊ジャーナリスト)
photos by NAKAMURA Yutaka


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