2005年2〜4月に上演されたマシュー・ボーンの「白鳥の湖」。ザ・スワンや王子役のダンサーはもちろん、それ以外のダンサーや群舞の白鳥たちも、公演ごとに注目を集めていきました。
このたび、2005年秋のパリ公演の決定を記念して、次世代を担う若手ダンサーの中から、群舞の白鳥たちを踊ったドミニク・ノース、サイモン・ハンフリー、ニコラス・カフェツァキスにインタビューしました。

 「ついにパリにもあの『白鳥の湖』がやって来るのよ!なんでロンドンとこんなに近いのに、遠く離れた日本やアメリカばかりが優遇(!)されるのかと、これまでひがんでたけど。パリの人の反応が楽しみだわ。反面、ちょっとドキドキもしてるし(笑)」 
 白鳥たちが飛んで行ってしまい、違った意味でのエンプティ・ネスト(空の巣)状態に陥っていたら、パリに住む知人からこんなニュースが入って来た。そうか、首藤康之が初めて主役の“ザ・スワン”を踊った時も、パリじゃなくてリヨンの舞台だったし。「いいものは何でもパリに集まる」と自負している割に、心ある人はなかばトラウマと化していたマシュー・ボーンの代表作の未上陸。ここで一気に遅れを取り戻そうという意気込みが感じられて、何やら微笑ましくもあり。
 その点、私たちはラッキーだったと、今改めて思う。2年前の初回は「現象」とも言える大人気に、自分も浮き足立ってしまい、毎回、感動に打ち震えていて、作品全体の細部まで見る余裕はなかったけれども、マシュー・ボーン自身、「今回の方がまとまったいいカンパニーだ」と言うだけあって、『白鳥の湖』という作品の凄さの、新たな発見がいくつもあった。特に、主要な役以外の白鳥たち。第二幕、第四幕を見れば、全部で14羽いることは誰でも気づいていただろうが、彼らが全員番号を持ち、その番号によって踊りのフォーメーションが違ってくるというのは、やはり目からウロコだったな。
 この白鳥たちの番号、一番わかりやすいのは、第二幕で上手からジグザグに一羽ずつ登場してくる順番。あれは、ほぼ身長順だから、まず4羽の小さな白鳥を踊るダンサーたちから始まり、だんだん大きな白鳥になっていく。ちなみに、この群舞というか群白鳥(?)から短い期間に主役のザ・スワンに大出世したウィル・ケンプに、当時の番号を聞いてみたら、「う〜ん、12番だったかな」だって。確かにアダム・クーパー主演のDVDでも、ウィルは大きな白鳥の4羽のうちの1羽を踊っているから、この記憶間違っていないかも。
 今年の公演で「白鳥たち」に目が行ったのは、第四幕で王子のベッドの下から出てくる3羽の印象が強烈だったから。これ、8,9,10番の白鳥で、中でも、中央の9番を踊るダンサーが、大ラスト、王子が息絶えるシーンで、ソロで跳び、消えていく。これが一昨年の公演の千秋楽では、2羽、つまりダブルで跳んだように見えたので白鳥たちの“母親鳥”と慕われているスタッフに確認したら、「確かにそうだった」とか。もっと秘密を言うと、8,9,10番のうち、8,9番を踊るダンサーの両方が9番を踊れる場合のみ、このダブル・ジャンプが出来るらしい。
 というわけで、自ら「今回の8,9,10番はドリーム・チームだよ」と胸を張る3人のダンサーたち。念願のパリ公演を経て、どのくらい大きくなって日本に帰ってくるか、今から楽しみなのは、私だけ!?


ドミニク・ノース

「彼は若い頃のアダム・クーパーに似てるよ」と、マシュー・ボーン本人のお墨付きも得ているドミニク・ノース。一番新しいメンバーなのに、どんどん役柄が増えていって、ついには第一幕の木こり役で踊ってしまったほど。「8,9,10番あたりにいると、“小さな白鳥”も踊れれば、“大きな白鳥”の方にも行ける。時々ゴッチャになって、隣を見て動きをあわせなくちゃならなくなったりするけどね(笑)。プロになってから初めての仕事が『白鳥の湖』なんだ。最初の頃はこんな自分と役柄がシンクロして、群れの中でも新入りって感じだったけど、だんだん自分の居場所を見つけたというのかな、自信もついてきたような気がする。特にニック(ニコラス)とは、本番前にワンタンメンを食べに行くのが日課になってしまったくらい仲良くなって(笑)。ニックもサイモンも僕も9番を踊るから、8番に回ったとしてもダブルで跳べるんだけど、これが10番だとムリなんだ。理由?10番の場合、先に消えてしまうからだよ。最後まで待ってて一緒に跳ぶわけにいかないだろ?(爆笑)」


サイモン・ハンフリー

アンドリュー・ロイド・ウェバーが意外なスタッフと組んだミュージカル『ビューティフル・ゲーム』に出演したり、自分で作曲したCDの発売が予定されていたり。多彩な活躍ぶりを見せるサイモン・ハンフリー。
「『ビューティフル・ゲーム』の振付家メアリー・タンカードは、マシューとはまた違った意味で、アイディアの持って来どころがユニークだった。サッカーの試合の振付なんて新聞の写真をモンタージュのようにつないでいくんだからね(笑)。僕がマシューの作品に惹かれるのは、たとえ白鳥たちの中にあっても、一羽一羽の個性が尊重されるところだ。ほら、羽づくろいの仕方とか羽ばたき方とか、決して全員同じじゃないだろう?特に今回はニック(ニコラス)とドミニクと第四幕で3人になった時、あの部屋の邪悪な雰囲気というか、群れをリードしているような自覚が出て来て、それが踊りにより迫力を持たせたんだと思う。最後の消え方が一番きれいだったって?実はそれ、意識してたんだよ(笑)」


ニコラス・カフェツァキス

前回公演では、フランクフルト、ソウルで既にザ・スワンを踊っているニコラス。今回は大阪でその勇姿を披露した。
「でも、アンダー(代役)ってことで言えば、王子役の方が最初だったんだ。このカンパニーの面白いところは、一つのことに固定しっ放しというのがないところだ。本番の舞台でザ・スワンと王子、両方を踊ったヤス(首藤康之)が一番良くわかると思うけど、二つの役をやることで、より深く役の在り方が見えてくる。特にザ・スワンは王子の想像の産物でもあるわけだから、王子の内面を知ることはとても大事なんだよ。反面、白鳥たちを踊るのも楽しい。僕たち8,9,10番と、それより少し小さい5,6,7番は特別に踊るナンバーがないから、僕は“大きい白鳥の踊り”のカバーもやらせてもらってるんだけど(笑)。あの踊りは大胆で勇壮で。そんなに長くはないのに、ドキドキするぐらい夢中になれる。マシューの振付の真骨頂じゃないかな」

interview & text by 佐藤友紀(フリーライター)

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