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ロートレック・コネクション
愛すべき画家をめぐる物語
2009年11月10日(火)−12月23日(水・祝)
Bunkamuraザ・ミュージアム

学芸員によるコラム

世紀末のパリを駆け抜けた異才の画家、ロートレックの世界

ロートレックがポスター作家として注目を集めるようになったのは1891年のモンマルトルのキャバレー、ムーラン・ルージュのために制作したポスターに始まる斬新な作品群である。絵と文字の絶妙なバランス。浮世絵から学んだ大胆な構図。天才的なデッサン力を駆使した人物像。街行く人の心を一瞬でとらえる必要のあるポスターは、絵画芸術における前衛的な試みをぶつけるには好都合であった。ポスターは芸術の域に達する軌道に乗ったのだ。
 隣人でロートレックと親しかったポーランド出身の物書きヴィクトル・ジョズの三文小説「歓楽の女王」の宣伝ポスターもその一つである。これは高級娼婦が主人公の官能小説で、ポスターの場面は女主人公エレーヌが食事の席で、好色な銀行家の頬に打算的なキスをしているところ。小説自体の表紙は、ロートレックのよきライバルであったボナールが手がけている。また富豪のロートシルド男爵は小説が自分をモデルにしていると思い込み、小説とポスターの差し押さえをしようとまでした。
 テーブル上のデキャンタは女性の体の寓意であり、そのすぼまった口はキスをするエレーヌになぞられる。皿の紋章はキスされるステイタスのある銀行家を暗示している。しかしロートレックの斬新さがよく現れているのは構図である。斜めに画面を分割する構図はロートレック特有のもので、女性から銀行家、そして文字部分へと流れる視線の動きを補強している。
 いきいきと描写された高級レストランでのワンシーン。しかし物語を知らない者がこの絵から連想するのは、美食家としてのロートレックである。彼は大変なグルメで、料理の腕も相当なもので、書き残したレシピは幼馴染でのちに彼の画商となったモーリス・ジョワイヤンが集成し、1930年に本として出版されている(本展ではそのレシピを再現するコラボ企画も)。
 ロートレックは人の輪のなかで生きた画家である。一枚のポスターのなかには、そこに描かれた人以外にも、いろいろな人が登場しているのである。

Bunkamuraザ・ミュージアム チーフキュレイター 宮澤政男


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