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速報!稽古場レポート

 舞台一面にはられた水、そこに凛と咲く蓮……。冒頭の圧倒的なビジュアルで“ギリシャ悲劇”「メディア」のイメージは簡単にくつがえされた。これまで蜷川幸雄はギリシャ悲劇を、遺跡を思わせる“乾いた”空間で繰り広げて来た。それが今回は真逆。水をたたえた舞台はどこかエロティックで、役者がそこを歩くたびにおこる水音は耳に心地いい。メディア(大竹しのぶ)は、その水に囲まれた屋敷に住み、簡単に他人を寄せ付けることがない。自らが他人を寄せ付けなくなってしまったのか、それともそうせざるをえなかったのか? 偶然と必然が重なり復讐の道から逃れることができないメディアの姿は、近頃、世間を賑わしている様々な事件にあてはまる。男たちは乗り物に乗ってやって来て、“どこにも行けない”メディアと“どこへでも行ける”男たちが視覚的に明確にされていて興味深い。
 とにかく大竹しのぶの演技は、何もかもを凌駕している。舞台のために髪を短くし、丸裸の“人間”として男たちに対峙しようとしているように見える。しかし、いくらメディアがそのように振る舞い、頭のいい女性だとしても男にはなれない。女性として生まれたことで、否応なく押し付けられてしまった悩みに時にくじけそうになりながらも、自分の決めた道を突き進むメディアの姿は力強い。彼女の演技に“人間は、こんなにも感情のベクトルを持っているのか!”と改めて気づかされ感動した。私たち観客はコロスと同じように、時にメディアに同情し、時に彼女を悪魔のように感じる。ギリシャ悲劇に初めて挑戦した生瀬勝久は知的な雰囲気を漂わせ「地位と名誉に目がくらんだ男」というだけではない“英雄”としてのイアソンを好演。吉田鋼太郎、笠原浩夫らは出番こそ少ないものの、強烈なキャラクターで大竹メディアに対抗していた。
 「2500年前に書かれた物語でも現代に通じる」メディアに関わったスタッフ、俳優たちがそろって口にしていたことだ。俳優たちが発する感情の海で、その言葉を体感した。
text by 山下由美(フリーライター)
photos by 谷古宇正彦

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