平間至展 写真のうた

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2023.06.07 UP

コラム

【学芸員によるコラム1】あの頃が甦る 音楽が聴こえる


撮影:三輪 僚子

タワーレコードのキャンペーン「NO MUSIC, NO LIFE.」のポスター。皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?本展でご紹介するのは、その写真を長年担当してきたフォトグラファー・平間至(1963年~)の仕事です。このポスターばかりではありません。CDジャケットや雑誌などでも数多くのアーティストを撮影しています。そのスタイルはまさに、「音楽が聴こえてくるような躍動感のあるポートレート」。特に90年代、音楽CD全盛時代の作品を見れば、「え!あれも?これも?」と驚かれる人も多いのでは。
 
平間至は宮城県塩竈市生まれ。祖父が創業した「ひらま写真館」で育ち、三代目として家業を継ぐことを期待されますが、選んだのは、東京でフリーの写真家になる道でした。その名を一躍知らしめた写真集『MOTOR DRIVE』には、「現場で事件を起こす」という平間のモットーがはっきりと表れています。そして楽器のようにカメラを構え、シャッター音、ストロボの光、チャージ音で現場をグルーヴさせる平間ならではの「音楽が聴こえる」作品たち。それがこの展覧会の核となります。
 
そして音楽の仕事以外にもいくつものシリーズが存在する中で、今回ご紹介するのが田中泯とのコラボレーション〈場踊り〉。その場に固有の踊りを即興で表すダンサーの姿は静謐ながら、震える魂の叫びが聞こえてくるかのようです。


平間至 《高知県梼原》 2010年 田中泯〈場踊り〉より
©Itaru Hirama
 
さて話は戻りますが、一度は背を向けた家業。2011年、東日本大震災で心が大きく揺れ動いた平間は、2015年、東京・三宿に平間写真館TOKYOを開業します。祖父の時代には特別な技術を必要とした写真。誰もが手軽に撮影できるようになった現在にあって、平間写真館でなければできないことは何か。そんなことを考えながら撮り続ける平間の写真には、家族、仲間たち、それぞれのハレの日がその物語とともに写し出されています。
 
本展では「写真と音楽」を核としつつ、若き学生時代から還暦を迎える現在までの仕事から、平間至の半生を知るための5つのテーマをピックアップしお届けします。
 
青春時代に熱狂したあのバンド、仕事で落ち込んだ時に元気づけてくれたあの曲。そんな人生の節々を思い出すスイッチを、平間至の写真が押してくれることでしょう。そしてこれほどまでに被写体の魅力を引き出すことのできる写真家の人間力、両者の間に生まれた信頼関係も伝わってくるのではないでしょうか。

Bunkamura ザ・ミュージアム学芸員 菅沼万里絵