2023.01.06 UP
【担当学芸員によるコラム】「ミニスカートとマリー・クワント、その社会的意義」その2
本展にも多数のミニスカートが出展中だが、ミニに焦点を当てた展示ケースがある。1962年から67年の5点のミニを時系列順に配置してあり、本展の目玉展示となっている。どれもクワントの代表的なデザインの作品であるが、スカート丈が時代を追うごとに短くなっていくのが見てとれる。しかし、実は中央3点目の1964年製の黄色い衣服の丈が、翌1965年製のものよりも短いということに、会場ではお気づきになるだろう。これは、その1964年製のワンピースの持ち主が、購入後に自分で丈を短く直してしまったためである。本来販売されていた既製服としての丈は、もう少し長めだったという訳だ。
どちらも「マリー・クワント展」会場風景
1960年代、裁縫をたしなむことがまだ一般的であった世相から、クワントも1964年より型紙販売に乗り出すことになる。また、付随して布地の開発・販売にも参加している。本展では型紙と布地に加え実際に一般人によって縫製された「ミス・マフェット」という作品が展示されている。なお、宣伝用の写真上でモデルのパティ・ボイドが着用している「ミス・マフェット」はミニスカートではなく、ふくらはぎまで届く長めの丈になっている。ところが展示されている「ミス・マフェット」はかなりのミニ丈である。このように、ミニスカートは人々によって縫製され、購入され、またはもともと持っていた服の丈を詰めるなどアレンジされて、世の中に蔓延していく。
《ドレス「ミス・マフェット」を着るパティ・ボイドとローリングストーンズ》 1964年 Photograph by John French © John French / Victoria and Albert Museum, London
ミニスカートはこうして1960年代に世界中の女性たちを虜にしていくが、それは外見だけにとどまらず、その内面や女性的価値としての主張へと波及していく。それまで女性たちが男性からの理想像を一方的に押し付けられていた状況は前述の通りだが、1960年代にはそのような価値観に女性が反旗を翻すウーマンリブ運動が盛んになる。女性解放や自立を叫ぶ人々にとって、ミニスカートはそれまでの女性像とは異なる若々しさや行動力、解放感を具現化するものと位置づけられ、ウーマンリブの象徴と化していく。クワント自身も、デザイナーとしても経営者としても第一線で働きつつ、結婚して家庭との両立を図るという、新しい女性像の先駆けとして時代を先導していく。それはもちろん簡単なことでは無かっただろうが、それでも精力的に仕事をこなし、またファッションを通して人生を楽しもうと提案するクワントの姿勢に、女性たちは勇気づけられ、またロールモデルと目していた。「ウーマンリブを待っている暇はなかった」とクワントは後に語っているが、これはウーマンリブ運動が起こる以前から、女性として型にはめられることを嫌い、その自由な発想をデザインに盛り込んできた彼女の正直な心象であろう。
このように、ミニスカートは単なるスカート丈の短い衣服と言うだけではなく、戦後における女性の生き方の多様化、そしてそれが延いては現代社会のフェミニズムやジェンダーレスの流れに繋がっていくという観点からも、看過できない役割を果たしてきたのである。
Bunkamura ザ・ミュージアム
学芸員 岡田由里