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レオナール・フジタ展 ― ポーラ美術館コレクションを中心に

2013/8/10(土)-10/14(月・祝)

Bunkamuraザ・ミュージアム

学芸員によるエッセイ

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小さな子どもたちが大活躍のフジタ・ワールド!

 フジタが初めてパリの地を踏んだのは1913年。困難にもめげずに歯を食いしばり、彼は「乳白色の肌」の裸婦像で画家として栄冠を手に入れた。職人肌の画家フジタは、自分を育ててくれたこの町の底辺で手仕事にいそしむ人々に、格別のいとおしさを感じていたことは想像に難くない。戦後、新たにパリに住まうことになった晩年に、そんな人々を愛くるしい子どもの姿に託して表現したのが、〈小さな職人たち〉と呼ばれる15×15cmのボードに描かれた作品群である。それ自体小さくて可愛らしい絵の中で、子どもたちは働く大人に扮している。例えば床屋を描いた作品では、子どもの床屋にもっと小さな子が神妙な顔で髪を刈られ、後ろではぼさぼさの髪をした子どもの客が、生意気そうに新聞を読んでいる。各作品には全て何の職業か分かるようにフランス語で職業名が入っている。おそらくそのため、小さなボードは菓子缶のラベルのような雰囲気をもち、ひとつの完結した世界となっている。たしかにこの文字があるからこそ、子どもの所作が即職業と結びつき、それを子どもがしているということで可愛さも増す。他に左官、椅子職人、仕立屋、マニキュア師、石炭運び、焼栗売り、辻音楽師、ガラス売り等、様々な職業が登場する。また一方では、弁護士や修道士といった、職人的ではない職業もあり、さらに浮浪者、守銭奴、愛書家、囚人等、職業ではないものも含まれている。つまり視点を変えれば、いわゆる「ごっこ遊び」をする子どもたちを描いたのがこのシリーズなのである。大人になりきって無心に遊ぶ子どもたち。それは忘我の境地であり、従軍画家問題で日本画壇との確執に疲れ、作品の制作にふけった画家の心境でもあったはずである。既に国籍もフランスに変更し、59年にはカトリックに入信したフジタ。自らに子どもはいなかったが、アトリエの壁にこれらの作品を200枚も貼り付け、そこには無邪気な子どもたちに囲まれた幸せなフジタがいた。
 本展にはポーラ美術館所蔵の<小さな職人たち>シリーズの95点に、同じく子どもを扱った多数の作品、及びそれらが貼られていたスペイン扉を加え、この画家の重要な一面を展観する、興味尽きない、かつ心和む展覧会といえるだろう。

Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員 宮澤政男

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