トランス=シベリア芸術祭 in Japan 2017

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2017.08.15 UP

今年のブノワ賞受賞者ロヂキン セクシー過ぎる『愛』をバレエで

 

 世界のバレエの最高峰のひとつ、ボリショイ・バレエで今、もっとも勢いのある旬の男性ダンサーは誰でしょう?

 筆頭候補として名を挙げたいのが、プリンシパル(最高位ダンサー)のデニス・ロヂキンです。今年5月、バレエ界のアカデミー賞と言われるブノワ賞を受賞。翌6月のボリショイ来日公演でも、看板ダンサーであるスヴェトラーナ・ザハーロワの相手役として、「ジゼル」のアルブレヒトと、「白鳥の湖」の王子を踊りました。

 いずれも一途な女心を袖にするトンデモ男の役ですが、ロヂキンの生ける彫刻のような美形ぶりと鮮やかな技術、そして裏切り行為への深い後悔と苦悶の演技には、説得力がありました。「すべて許す…」「若さゆえ…」と慈母のような気持ちで、ロヂキンにノックアウトされてしまった日本女子は、少なくないはずです。

 そのロヂキンが9月、再びザハーロワと組み、日本の舞台に立つのが日本初演「アモーレ(愛)」。愛がテーマの3本のバレエ作品の中で、「フランチェスカ・ダ・リミニ」という〝危険な愛〟を演じます。ロヂキンは、兄嫁(ザハーロワ演じるフランチェスカ)との道ならぬ愛に溺れる美青年、パオロ役です。

 王子様のロヂキンしか知らないと、火傷してしまうショッキングな舞台です。ロヂキンが上半身シースルー(いわゆるスケスケ)かつピチピチの衣装で、鍛え上げた肉体美を誇示。こんなフェロモン全開では、ザハーロワ演じるフランチェスカが、不細工な夫ではなく義弟によろめくのも、むべなるかな…のセクシーさです。

 運命的に出会ってしまった男女は、互いを狂おしく求め合いますが、その激情がバレエの文法で昇華された振り付け(ユーリー・ポソホフ)も劇的で美しい。ただロヂキン自身は稽古当初、この濃密過ぎる愛の表現に戸惑ったと打ち明けます。「そもそも(ダンテの神曲に登場する)フランチェスカにいいイメージを持っていなかったため、最初は踊りにくかった。でもスヴェトラーナと同じレベルに追いつかなければ-という気持ちで踊りに没頭するうち、彼女と物語の中で一つになれたと思います。それを日本のみなさんにご覧頂けるのがうれしい」

 気品あふれる王子だけでなく、こうした大人の愛の世界まで、役の幅を広げているロヂキン。素顔は、敬愛するザハーロワへの感謝の言葉を絶やさない、謙虚な青年です。5年前に初来日し、日本の観客に感激したそう。「日本の観客は世界でもっともロシアのバレエを愛し、理解してくれる。ブノワ賞受賞を祝福してくれるのにも感動しました」。そんな日本びいきのロヂキンのお気に入りは、何と回転寿司。「回る寿司とビールが最高!」と笑顔を見せる庶民派王子が9月、渋谷周辺の回転寿司店に出没するかもしれません。

 

ジャーナリスト:飯塚友子