トランス=シベリア芸術祭 in Japan 2017

Columnコラム

今絶対見逃せないザハーロワ、最新の魅力が全開!
完璧な美と愛のオーラは、まさに世界最高の輝き!!

©H.Iwakiri

 「『アモーレ』というタイトルの通り、私の愛をすべて注ぎ込んだ舞台です。それを日本のみなさんにご覧いただけることが、とてもうれしい」。ロシアの至宝というべきボリショイ・バレエ団のプリマ、スヴェトラーナ・ザハーロワが自身でプロデュースした公演『アモーレ』が今秋、いよいよ日本で初演される。昨年5月のイタリア初演が話題となり、今年3月のモスクワ公演も完売した、今もっともホットな舞台。ザハーロワの夫でもある世界的ヴァイオリニスト、ワディム・レーピンが芸術監督を務める『トランス=シベリア芸術祭 in Japan 2017』として、上演が実現することとなった。数々の古典作品のヒロインを日本でも演じているザハーロワだが、コンテンポラリーにも積極的に取り組み、評価も高い。『アモーレ』も作風の全く異なる同時代の振付家3人とのコラボレーションによる3本立て(トリプル・ビル)で、そのすべてに主演する。

 中でも注目は、ザハーロワ&デニス・ロヂキンというボリショイきってのスター・コンビが、官能的に大人の悲恋を表現するネオ・クラシック調の『フランチェスカ・ダ・リミニ』だ。「これは私のための作品だと思ったんです。ダンテ『神曲』(地獄篇)で知られる有名な物語をモチーフに、1幕ですべてを表現している。ここに絶望的かつ偉大な愛がある」。ダンサーとして成熟期に入ったザハーロワだからこそ表現できる、いわば“大人の踊り”。クールビューティーが、ドキッとするような色香を漂わせ、濃厚かつ悲劇的な愛の形を見せる。

 続く『レイン・ビフォア・イット・フォールズ』では、叶えられない夢を待ち続ける女性の内面の変化を、パトリック・ド・バナ振付・共演で披露する。「『フランチェスカ・ダ・リミニ』が“愛の熱情”なら、『レイン・ビフォア・イット・フォールズ』は“哲学的な愛”。女性の心象をすべてさらけ出す作業は刺激的でしたね」。柔軟なザハーロワと、ド・バナの力強い動きが対照的で、しかも違和感なく絡み合う。

 3本目の『ストロークス・スルー・ザ・テイル』はザハーロワと5人の男性ダンサーが、それぞれ燕尾の衣装で“音符”となって、コミカルに競う楽しい作品。「振付家(マルグリート・ドンロン)は、いたずらがしたかったのでしょう(笑)。最後は“軽妙な愛”にしたかったので、私も気に入っています。それぞれ全く違う作品ですが、すべて大好きです」。

 こうしたザハーロワの新たな挑戦を、温かく見守るのがレーピンだ。昨年、日本で初開催した『トランス=シベリア芸術祭』では、『パ・ド・ドゥ for Toes and Fingers』で共演。レーピンの紡ぐ音楽の糸にのり、ザハーロワが優雅に舞う『瀕死の白鳥』など究極のコラボレーションを、日本の観客はスタンディング・オベーションでたたえた。昨年の好評を受け、今年も同芸術祭の日本開催が決まり、さらに進化した『パ・ド・ドゥ』と『アモーレ』が上演されることとなったのだ。「14歳だった私にとって、日本は初めて訪れる外国でした。それから毎年のように来日し続け、実はスヴェトラーナとの愛を育んだのもこの日本なのです。だからこそ私が長年温め、故郷シベリアで実現させたこの大切な芸術祭を、“第2の故郷”日本にもぜひ、広げたかったのです」。

 芸術が“シベリア特急”のように大陸を横断し、東西を結ぶ―という同芸術祭の構想を実現すべく、レーピンは奔走。4年目の今年、同芸術祭は西はベルギー、東は東京へと広がりを見せている。芸術家同士、敬意と愛情に溢れた2人だからこそ、ジャンルを超え融合し、世界に広がりつつある芸術祭。日本で上演する2作に主演するザハーロワについて、レーピンは「スヴェトラーナは素晴らしい芸術家で、唯一無二の技術と表現力を持っています。音楽家とも良好な関係を作れる。だからこそ同じプログラムを一緒にやっても、毎回、違う舞台になるんです」と“愛”もこめ、最大の賛辞を惜しまなかった。

飯塚友子(ライター)