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大野和士が語る「ウェルテル」誕生秘話
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Bunkamura 20周年記念特別企画
大野和士指揮 フランス国立リヨン歌劇場管弦楽団
マスネ:歌劇「ウェルテル」全4幕(演奏会形式)
Presented by Calbee
世界の最先端をゆく大野和士の“今”を聴く!
2009年11月1日(日)、3日(火・祝) 15:00開演
Bunkamuraオーチャードホール

大野和士が語る「ウェルテル」誕生秘話

「ウェルテル」は、マスネの「トリスタン」だ!



「1859年、まだ音楽学生だった17歳のマスネは、パリで「タンホイザー」を初演しようともくろんでいた46歳のワーグナーに会って、その音楽に惹かれます。その2年後の1861年、「タンホイザー」初演が、周知のようにパリで大スキャンダルを引き起こしてからというもの、ワーグナーの音楽はヨーロッパのオペラ界に衝撃を与え続けることになります。 マスネは、新しい時代のオペラ作家として、当然その影響を受けずに育つことはありませんでした。彼の音楽は、有名な「タイスの瞑想曲」に見られるように、なんといっても香り高く甘美な旋律に大きな特徴があり、私たちの情感にしんしんと訴えかけてくるものがあります。その調子が、時にあまりに切なく響くので、彼の世界を大変フランス的なものと思うのも無理ないことでしょう。
しかし、それを支えている和声や管弦楽は、ワーグナーと同世代の、マスネにとってはお師匠さんにあたるフランスの作曲家グノーなどに比べると、より大胆で複雑です。当時のフランス音楽のアカデミズムの代名詞と言えば、“秩序” “透明性” “均整の取れた構成”と言うものでした。これはマスネの友人、サン・サーンスなどによって固く受け継がれてゆきますが、マスネ自身は、その後の世紀末の退廃的な音楽にも影響を及ぼす存在となりました。彼のオペラには、「ル・シッド」「エロディアード(サロメ)」「タイス」など、東洋的、アラブ的世界に題を得たものも多く、自然とエキゾティックで、官能性の溢れる内容となる傾向が強いと言えます。
1886年、マスネは友人とワーグナー音楽の聖地、バイロイトで「トリスタン」、「パルジファル」らの楽劇を聴いた後「若きウェルテルの悩み」の舞台となった、ヴェツラーという地を訪れ、そこで「ウェルテル」のオペラ化を最終的に決意したと言われています。「ウェルテル」は、いわずと知れた、若い芸術家の主人公が、運命的な愛との出会い、その愛が現実的には成就しないことへの絶望から死を選ぶ、ゲーテの「疾風怒濤」時代の名作。マスネは、バイロイトでの「トリスタン」体験の直後、「ウェルテル」のテーマでもある、“死の希求”を何かしら自らにとって運命的なものと感じていたということです。ウェルテルが歌う、有名な「春の風よ、何故私を目覚めさせるのか」という慟哭のアリアは、ゲーテの原作でも重要な役割を果たす、ウェルテルがロッテに最後の別れの前に朗読する、中世アイルランドの吟遊詩人、オシアンの長詩。アイルランド・・・それは、何をかいわん、「トリスタンとイゾルデ」の悲劇の土地ではありませんか。どうしようもない愛の力、それを前にした際の神経症的とも言える若者の心。マスネの「ウェルテル」は、その意味で、まさに「トリスタンの子」と言えるでしょう。」

作品解説:大野和士

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