キャストが発表された途端、さらに熱い注目を集めることになった「労働者M」。KERA自身が「ひとりも妥協していない」と熱く語る顔ぶれは、華あり、実力あり、ひねりありで、それだけですでにKERAワールドだ。写真撮影のために集まった主要キャスト3人に、KERA、共演者、舞台について話を聞いた。それぞれのキャリアで揺るぎない実績を持つ3人は、まだ見ぬ「労働者M」を、何かの確信を得ているような、落ち着きの笑顔で待っている。


一昨年、「カメレオンズ・リップ」で初めてKERAさんの作品に出演したんですが、すごく楽しかったんですよ。特に稽古でKERAさんから細かく演出されるのが新鮮でした。あの作品はコメディで、僕はあまり経験がないし、笑い(を取る)の間がよくわからない。吉本新喜劇みたいに「ワッヒャー!」ってやるのとは違う笑いですしね。そういうところでKERAさんはいろいろと具体的に言ってくれたので、やりやすかったです。もっとも、自分に言われると結構パニクってわからなくなって(笑)、人が演出されてるのを見て「ああ、なるほど」と少しずつわかってきた感じでしたけど。
そうやって客席から笑いが来た時は嬉しかったですよ。脚本を読んでる時は(笑いが来ると)わからなかったシーンで、お客さんがドッと笑ったりするんで「へぇ、そうなんや」って驚きながら納得したり。逆に、それが来なかった時の落ち込みようはないですけどね(笑)。
でも今回はまったく違う雰囲気の作品になるでしょうし、またいっぱい演出してもらおうと思ってます。KERAさんの脚本は、次に何が来るか、どんな展開になるか、まったく予想がつかないんですよね。そこが魅力だし、1度出演したくらいでは安心なんてまったくできません。
それから今回は、小泉さんとか秋山(菜津子)さんとか女優陣が上手い人ばっかりなので頑張らないと。うかうかしてたら消えてなくなりそう(笑)。松尾さんとはNODA・MAPの「パンドラの鐘」で1度共演しているんですけど、独特の空気があるじゃないですか。それにね、松尾さんて「動くのイヤ」「根性嫌い」とか口では言ってますけど、実はやりだしたら止まらない人。本当は動くの大好きじゃん!みたいなところがありますから(笑)、やっぱり油断できません。


同じ時期に音楽をやっていたし、KERAさんとは、仕事仲間や友達ですごく近い人がいっぱいいると思うんですよ。でもKERAさんご本人とは、今回初めて出会った感じです。音楽にしろ舞台にしろ、KERAさんがつくる世界は、内容に関わらず、どこかちゃんとポップというイメージがありますね。ポップというか、ポップの力を信じてる感じ。そこは私自身がとても大事にしている部分でもあるので「わかるわかる」と思います。ただ、私は毎日いろんなことを忘れながら生きてて、無責任にやり逃げしているところがあるので、KERAさんがいつも“この時代、この場所”を作品に残していることに「ありがとう」って感謝してますね。
今回、出演を決めたのは、KERAさんからお手紙をいただいたことが大きいです。そこに書いてあったのが、すごくきれいな言葉でしたけど、私の持ってるやり逃げ感みたいなものが今度の舞台に欲しいということなのかなと私は解釈して。それで決めたんです。
舞台は好きです。好きだし、面白いんですけど、面倒くさいとも思います(笑)。本番が始まってしまえば本当に楽しいし、さっきの“やり逃げ”できる気持ち良さで言ったら、映像に比べたら舞台が1番あるじゃないですか。そういうところがすごく自分に向いているとも思うんです。でも、オファーが来てから稽古が始まるまでの時間が長いので、その間、気持ちをどこにどう向けていったらいいかがわからないんですよ。たとえば台本をもらっていても、ひとりで読んで「このセリフをみんなの前で言うんだ、恥ずかしいな」とか考え出したり(笑)。
今はまだ詳しい話の内容がわからないので、逆に、KERAさんは私にどんなセリフを言わせてくれるんだろうって楽しみな気持ちのほうが大きいです。


役者として人の作品に出るのは好きです。というか、好き嫌いで考えたことはなかったな。純粋に楽しみだなぁと思います。どんな話なんだろうとか、誰と共演できるんだろうとか、そういう興味ですね。KERAさんはいろんな種類の話を書くじゃないですか。今回は、その中でもコクーンでやるということで、きっと“物語”を感じさせる話を書いてくれるんじゃないかと。小さいとこではコントもやりたいんですけどね(笑)、でも、もちろん何でもやりますよ。
KERAさんとは、同胞じゃないけど、同じ時期をよくぞあがいてきたと思います。それでお互いの役者は(客演などで)よく行き来してるんだけど、僕とKERAさんがガッツリ組んだことは1度もなかったんですよね。やりかけて出来なかったことはありましたけど。それがこの時期に来て、こういう形で一緒にできるというのはいいんじゃないかと。ちょっと感慨深いものがあります。
というのは、僕とKERAさんは影響されてきたものがすごく似てるから、それぞれ自分の芝居を模索している時期に、似たものをつくってたこともあった気がするんです。でも根っこに持ってるものは全然違うから、お互いにだんだんと違うスタイルに変わってきたと思うんですよ。そうやって、お互いのスタイルが完全に変わったからこそ、一緒にやる意味があるんじゃないかなと思ったりなんかして(笑)。芝居を始めて3年ぐらいの時だったら、ふたりとも(劇団の)ボスという立場だし、安易で微妙なものになったかもしれない。
そういう意味でも、この舞台が楽しみだし、素材として、いかようにも料理されるつもりです。

interview & text by 徳永京子(演劇ライター)

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