2025.10.15 UP
文化が薫るまち歩き 〈渋谷の和に触れる〉

渋谷周辺には山種美術館・戸栗美術館・太田記念美術館などさまざまなジャンルの日本美術を楽しめる専門美術館のほか、和の魅力への興味をさらに深掘りできる多彩な文化施設があります。今回は、渋アート連携施設と合わせて訪れたい、和の文化に触れることができるおすすめの文化施設をご紹介します。

■ 川本喜八郎人形ギャラリー
日本屈指の人形美術家が残した造形美を間近で体感できる

渋谷駅直結のランドマークであり、ミュージカルやアートなどさまざまな文化芸術を体験できる高層複合施設「渋谷ヒカリエ」。その8階に設けられたクリエイティブスペース「8/」の一角に、渋谷区千駄ヶ谷に生まれ育った日本を代表する人形美術家・川本喜八郎の作品を展示するギャラリーがあるのをご存じでしょうか?

『三国志』の展示エリアには戦乱の世を生き抜いた英雄たちの人形を配置。さらにフロア中央には軍師・諸葛亮とそのライバル・周瑜の人形が飾られ、人形や装束のディテールを360度から鑑賞できました。
川本喜八郎はNHK人形劇『三国志』『平家物語』など高い芸術性を備えた作品の人形製作を手がけ、多くのファンを魅了しました。館内には両作品で使用された数百体の人形から常時30~40体を展示。物語のエピソードなど特定のテーマに応じて年2回展示替えされ、そのたびに全国から訪れる熱心なファンもいるのだとか。まるで生きているかのように表情豊かで精緻なかしら(顔)の造形はもちろんのこと、各人形のかしらに合わせて表現した色鮮やかな衣装が実に見事。人形のモデルとなった人物の個性や性格まで感じることができ、テレビの人形劇に慣れ親しんでいた方はもちろん、和の文化芸術を愛する方なら誰もが時間を忘れて見入ってしまいます。さらに、テレビでは一方向しか映されなかった人形をさまざまな角度から見られるのもこのギャラリーならではの魅力。時間をかけてゆっくり巡り、1体ずつ違いを見比べながら細部まで鑑賞することをおすすめします。

訪れた時は川本喜八郎生誕百年記念企画展示として「人形を生かす装束」も実施。着物も甲冑もテレビでは見えない部分まで手間をかけ、撮影のためだけに作られたと思えないほどディテールが凝っています。

『平家物語』の展示エリア。今回は、扇の的を射抜く話でおなじみの那須与一と玉虫など、平氏・源氏それぞれ境遇の近い人物が対称に配置されていました。
■ 茶亭 羽當 渋谷
渋谷の宮益坂下交差点からほど近い路地裏にひっそりたたずむ炭火焙煎コーヒーの名店。1989年の開業以来、にぎやかな渋谷の一角でほっとしたひと時を過ごせる憩いの場を提供しています。店内には周囲の喧騒が嘘のように落ち着いた空気が流れ、アンティークや絵画に囲まれた店内は木の温もりが心地よく感じられます。棚にずらりと並ぶ色鮮やかなカップ&ソーサーは400セット以上あり、すべて一点もの。お客のイメージに合わせて選んでくれるので、どんなカップで提供されるかもお楽しみに。苦味と酸味のバランスが取れたオリジナルブレンドと自家製シフォンケーキが絶品。

★渋谷駅から徒歩3分

■ 塙保己一史料館(温故学会会館)
江戸時代に完成した文献集の貴重な版木を守り続ける資料館

塙保己一史料館は建物も登録有形文化財。渋谷の高台に建てられたのは、すぐ近くに國學院大學があるという文教上の理由に加え、水害の危険が少ないことも決め手だったそうです。
広尾の日本画専門美術館「山種美術館」から歩いてすぐの閑静な住宅街に、まるで鳳凰が両翼を広げたような形をした鉄筋コンクリートの歴史的建造物が重厚なたたずまいを見せています。渋谷には珍しいクラシカルな外観を眺めるだけでも訪れる価値があるこの建物は「塙保己一史料館(温故学会会館)」です。
塙保己一とは、日本各地に広く散らばっていた貴重な古書を集めて分類し、『群書類従』という全666冊もの文献集を編纂した江戸時代の国学者。この施設では、保己一が『群書類従』を誰でも読めるよう出版するために彫らせた1万7224枚もの版木を保管しています。保己一と同じ埼玉県北部出身の渋沢栄一が、彼の偉業を後世に伝えるため版木収蔵施設の完成に尽力し、関東大震災から2年後の1927年に建てられたのです。

保管庫に整然と並ぶ木製の棚は、法隆寺など古い木造建築物のように釘を使わず木材をつなぎ合わせた“木組み”によるもの。耐震性が高く、東日本大震災でも崩れなかったのだとか。
外から向かって右側の建物が保管庫になっていて、中には枠木で押さえられた版木を収めた棚がずらり。その圧巻の光景に息を呑むとともに、約230年前から一枚も欠かすことなく大切に受け継がれてきた版木と同じ空間にいるだけで、江戸時代との文化的なつながりを肌で感じることができます。版木は重要文化財であるため手に取ることはできませんが、和紙に摺って製本されたものを購入することが可能。また、版木を紙に摺る夏休み体験学習や講演・講談など、保己一や江戸文化にまつわるさまざまなイベントを2階で開催しています。山種美術館など最寄りの美術館や博物館と合わせて訪れ、“古き良きもの”の歴史と文化に触れて温故知新を体感してみてはいかがでしょうか。

左)版木は丈夫で耐水性に優れたヤマザクラが素材。文字が書かれた和紙を表裏反対にして乗せ、版木師が板の表と裏に一文字ずつ丁寧に彫って仕上げました。
右)建物の入口すぐのロビーにも史料を展示。版木の精巧な彫りを詳しく見ることができます。
※塙保己一史料館からほど近い渋谷氷川神社を訪ねたこちらの記事もあわせてご覧ください。
『文化が薫るまち歩き -山種美術館編-〈恵比寿・広尾エリア〉』

■ 渋谷区ふれあい植物センター
植物を“見る”だけでなく身近に体験できる都会のオアシス

緑が生い茂る温室は吹き抜け。外光が差し込む全面ガラス張りと相まって開放感満点です。
今でこそ渋谷は高層ビルが林立する大都会ですが、明治時代までは田畑や川に囲まれた農村でした。そんな渋谷のど真ん中に、「現代の人々に自然を身近に感じてほしい」という思いを込めて誕生した“日本で一番小さな植物園”があります。渋谷駅から恵比寿方面へ明治通りを10分ほど歩いた先にある「渋谷区ふれあい植物センター」です。

渋谷区ふれあい植物センターでは建物の周囲でもミントやオリーヴなどの植物を育て、月に1回募集するボランティアスタッフの協力で手入れされています。
こちらの施設は「育てて食べるコミュニティ型植物園」をコンセプトに掲げ、130種類以上もの“食べられる植物”を育てていることが大きな特徴。吹き抜けの開放感が心地よい1階の温室に足を踏み入れると、マンゴーやグアバなどの熱帯フルーツ、バナナやイチジクなどの柑橘類を中心とした植栽が鮮やかに広がっています。その美しさに癒やされるとともに、古来から自然を愛して共に生きてきた日本人の心を思い出させてくれます。ほかにもアクアリウムや水耕栽培室、さらに植物の生体電位を採取し音階に変換したものを音楽として聴ける「Music of Plants」というユニークな空間もあり、いろんな形で自然を体験できるのも魅力です。

1階中央にある「Music of Plants」。小さな穴から中に入ると、植物から生まれたヒーリング音楽を聴くことができるという珍しいもので、これを目的に遠方から訪れる人も。
「自然とふれあうだけでなく、もっと体験を深めたい」という方には、週末に開催されるイベントへの参加がおすすめ。家庭菜園講座、料理教室、手仕事のワークショップなど、植物と食のつながりを学びながら暮らしに取り入れることができます。まずは忙しい毎日で疲れた心と体をリセットしに、気軽に訪れてみてはいかがでしょうか。

左)3階ギャラリーではおもに食関連のイベントを開催。それ以外の日は園内の植物に関する展示を見たり、窓辺の椅子に座って植物を眺めながらゆったり過ごすこともできます。
右)屋上ファームではハーブのほか、江戸〜明治の頃に栽培されていた渋谷茶やクラフトビールづくり用のホップを栽培しています(イベント開催時のみ開放)。
■ 渋谷区ふれあい植物センター カフェ
渋谷区ふれあい植物センターを訪れた人たちに食を通じて植物の魅力を体験してもらうため、2階で営業しているカフェ。ランチ、カフェタイム、ディナーと時間帯に応じてメニューが変わり、園内のガーデンや水耕栽培室で育てた収穫物を使った料理やドリンクを提供しています。1階に広がる植物を眺めながらゆったり過ごすことがで
き、つい時間を忘れてしまいそうになる至福の癒やしスポットです。

自家栽培や有機野菜をふんだんに使った料理は、安心のトレーサビリティと旬の味わいが魅力。からだにやさしいメニューがそろい、毎月第3日曜には「ミートフリーデー」として、植物の恵みを堪能できる特別なベジタリアンディナーも用意されています。
〈メニュー紹介〉ボタニカルピンクレモネード:ボタニカルな香りたっぷりのハーブやチェリー、レモンを使ったピンクレモネード。

■ RURU SHIBUYA(渋谷サクラステージ)
鎌倉で人気の和モダンカフェ「RURU KAMAKURA」の姉妹店が渋谷サクラステージにオープン。テーブルには日本庭園の枯山水のように白い玉石が敷き詰められ、その上に水が張られています。スイーツやドリンクが透明のトレーに載せて提供され、まるでそのまま水に浮かんでいるように見える光景は和風であるとともに幻想的。オブジェの溶岩石から流れる穏やかな水の音色にも癒やされます。和菓子のような羊羹テリーヌと渋谷店限定の庭園チーズケーキをぜひご賞味あれ。
★渋谷駅から徒歩3分
文化発信地・渋谷には流行に敏感な若者たちを刺激する最先端のカルチャーだけでなく、日本で古くから受け継がれている文化や芸術を変わらぬ形で提供するスポットがいくつもあります。自分にとって興味がある文化芸術と組み合わせて、“古き良きもの”に触れる伝統体験を都会の中心で楽しんでみてはいかがでしょうか。
\ 今回のまち歩きスポットはこちら /


■■スポット情報■■
*それぞれ外部サイトに遷移します*
川本喜八郎人形ギャラリー〈渋谷駅すぐ〉
東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8階
TEL:03-3463-1142
[開館時間] 11:00~19:00
[休館日] 無休(年末年始、展示入替期間は除く)
[入場料] 無料
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/shisetsu/bunka-shisetsu/bunka-shisetsu/gallery.html
塙保己一史料館〈渋谷駅から徒歩15分〉
東京都渋谷区東2-9-1
TEL:03-3400-3226
[開館時間] 9:00〜17:00
[休館日] 土曜日・日曜日・祝日
[入場料] 100円
http://onkogakkai.com/
渋谷区ふれあい植物センター〈渋谷駅から徒歩10分〉
東京都渋谷区東2-25-37
TEL:03-5468-1384
[営業時間] 10:00〜21:00(最終入園20:30)
[休館日] 月曜日(月曜が祝日または振替休日の場合は翌平日休館)
[入園料] 100円
https://sbgf.jp/
茶亭 羽當 渋谷〈渋谷駅から徒歩3分〉
東京都渋谷区渋谷1-15-19
TEL:03-3400-9088
[営業時間] 11:00~23:00(ラストオーダー22:00)
[定休日] 無休
https://www.instagram.com/hatou_coffee_shibuya/
RURU SHIBUYA〈渋谷駅すぐ〉
東京都渋谷区桜丘町3-4 渋谷サクラステージ SAKURA SIDE 2F
TEL:03-6416-1722
[営業時間] 11:00〜20:30(ラストオーダー20:00)
[定休日] 無休
https://www.shibuya-sakura-stage.com/shop/detail/?cd=000129
*2025年10月現在の情報です。
*営業時間・定休日が急遽変更になる可能性もあります。各HP等でご確認の上、お出かけください。

