1853年、フェニーチェ歌劇場における初演時には、「現代劇として上演したい」という希望がかなわず、ルイ15世時代との設定で上演することを余儀なくされた「椿姫」。世界が注目する気鋭の演出家ロバート・カーセンが、ヴェルディの悲願をかなえるべく、真実の愛ゆえに起こった悲劇のドラマを、今の時代に生きる我々の物語として送る。歌劇場の復活を華やかに彩った、フェニーチェならではの意欲的なプロダクションである。 |
快楽を追い求め、虚栄に満ちた生活を送る高級娼婦ヴィオレッタだったが、純粋な青年アルフレードの心にふれ、真実の愛に目覚める。二人は郊外でつかのま幸せな日々を送るが、アルフレードの留守中に彼の父親ジェルモンが現れ、家の名誉のため息子と別れてくれるようヴィオレッタに懇願する。苦悩の末に我が身を犠牲にすることを決意するヴィオレッタだったが、裏切られたと誤解したアルフレードは逆上。心変わりを装うヴィオレッタに札束を投げつけて辱め、人々の非難を浴びる。数ヶ月後、病に倒れたヴィオレッタの元に、真実を悟ったアルフレードが駆けつける。愛を確かめ合う二人。その刹那、ヴィオレッタはアルフレードの胸の中で息絶える――。 |
舞台を1980年代に設定、登場人物の細かい心理描写を巧みに織り込んだカーセンの演出が終始、冴え渡る。グリーンを基調にした舞台美術、アルマーニのデザインを思わせる衣装も、このうえもなくスタイリッシュ。歌声と容姿、そして圧倒的な演技力をもって、ヒロイン・ヴィオレッタの影ある美しさをシャープに体現してゆくパトリツィア・チョーフィは、この公演が待望の日本デビュー。これまであまり上演されることのなかった初演版「椿姫」が聴ける、貴重な機会でもある。 |
text by 藤本真由 |