鳴り止まない拍手。
美しい獣たちとの幸せな夜。
公演は第一部の小作品集「スエニョス(夢)」で幕を開ける。シャープでスピード感あふれる作品の数々を、余裕たっぷりに踊りまくるダンサーたちの体は、どこをとっても表情豊かだ。胸や腰、鋭いリズムを刻む足、しなやかな腕や指先から、しずくとなってこぼれおちるような色気。上着のすそをつかんで、ひるがえしながら踊るしぐさがなんともイキな、スペシャルゲスト、アントニオ・アロンソの「アルマ・デ・オンブレ」、そしてアイーダがスカートを脱ぎ捨て、パンツスタイルで踊る「シレンシオ・ラスガド」も、見応え十分だった。
 そしていよいよ、第二部「サロメ」。玉座のヘロデ王と王妃、貴族たちがシルエットで浮かび上がる幻想的な幕開きのシーンが、舞台を一気に古代へ運び去る。享楽的な宴の中へ、ベールで顔を隠してさまよい出てくるサロメ。アイーダは、先ほどの「シレンシオ・ラスガド」でみせたエンターテナーの顔とは、まったく違う女性になっていた。ベールをはずし、あらわな腕を見せるしぐさひとつが、どんな効果を持つか知り尽くしたコケティッシュな表情と、どこにも身の置き所のないような、やるせない眼が切ない。
王、王妃、洗礼者ヨハネ。ゆるぎない存在感をもつ三人のキャラクターの間で、サロメの恋は加熱していく。力強いカーブを描くアイーダの腕や指先は、まるで叫びのように残像を残す。「七つのベールの踊り」は、ただ圧巻。手拍子、足拍子を打つダンサーたち、王妃の複雑な表情、ヘロデ王の欲望の満ちた目……その真ん中ですべてをさらけだしていくアイーダは、全身でお祭りの主役を務める巫女のようにも見えた。


――カーテンコール
 拍手が、いつのまにかフラメンコのパルマ(手拍子)に変わっていた。劇場全体が同じ拍子を刻んでいる。そのリズムにあおられるように、ヘロデ王役のパコ・モラがおどけたしぐさで舞台の真ん中に飛び出し、王のガウンを脱いで、Tシャツ一丁で踊り始めた。続いてハンサムな男性ダンサーが、とんでもなく切れ味の鋭い脚さばきを見せ、続いて黒い眼の女性ダンサーが、腰に手を当てた小粋なポーズで踊り……。手拍子が刻むリズムに乗って、舞台上の踊りの輪は、客席を巻き込んで続く。
 優雅で誇り高い獣のような、選ばれたダンサーたちと同じリズムを刻み、同じ踊りの輪の中にいる。それは幸せな時間だった。
 最後にアイーダが、パコ・モラとともに、笑顔をきらめかせて輪の中心で踊った。観客はおしみなくスタンディングオーベーションをおくる。拍手は、いつまでも鳴り止まなかった。
<フリーライター/坂口香野>




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