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ヴェネツィア絵画のきらめき

2007.9.2[SUN] 〜 10.25[TUE]

Bunkamura ザ・ミュージアム

展覧会構成

第1章	宗教・神話・寓意 =聖マルコの加護の元に=

5世紀の建国以来ヴェネツィアは信仰の力と宗教的高揚をその発展の礎としました。なかでも福音書記者、聖マルコは、遺体がエジプトから運び込まれて以来ヴェネツィアの守護神となり、そのシンボルである有翼の獅子は町中に飾られています。そして何よりも、この町の中心は円形ドームを頂くサン・マルコ聖堂であり、その前に広がるサン・マルコ広場なのです。
 一方、聖母信仰を特徴とするカトリックにおいて、最も好まれた図像は聖母子像であり、ヴェネツィア派の多くの画家もこれを盛んに描いていました。特に本展出品作品であるジョヴァンニ・ベッリーニとその工房の作とされる洗練された聖母子像は、「色彩のヴェネツィア派」の初期における方向性を知る上で重要な作品といえます。それはジョヴァンニ・ベッリーニが、1483年にヴェネツィア共和国の公式画家となり、その後のヴェネツィア派を担うジョルジョーネやティツィアーノといった画家を弟子に従え、大規模な工房を経営していたことからも伺えます。

 ティツィアーノはまさにヴェネツィアを代表する画家であり、その作風は近代油彩画の先駆ともいわれています。彼の生み出す理想化された優美な女性表現には定評があり、本展出品作であるサロメ像においても、その才能は遺憾なく発揮されています。ここでは鮮やかな赤を中心とする軽快な色彩表現もさることながら、自らが持つ皿に聖者の生首が載せられているという非日常的な状況の解釈はきわめて魅力的です。若い女性の端整な美しさ、その微妙な視線の織り成す張り詰めた緊張感、そして静寂。その背景にあるのは、絶頂期を迎えたヴェネツィア美術における高度な美の理念なのです。

 また、キリストそのものをストレートに描写した作品も出品されています。ヴェロネーゼの描いたキリスト像はこの巨匠の晩年における頂点を示す傑作であるとともに、ヴェネツィア絵画の二つの特徴がよく現れた作品です。ここには派手さはないものの、非常に洗練された穏やかな色使いと、布の表現などに見られる大胆で洒脱な筆致が端的に現われています。
 こうしたキリスト教の図像体系とは別に、豊かな商人や貴族の需要に従って神話を題材にしたものも盛んに描かれました。特に女性の裸体表現は、神話という口実の下で多くの画家によって追求されました。パルマ・イル・ヴェッキオもそうした画家の一人です。彼の描いたウェヌス(ヴィーナス)像は明るくおおらかな官能性を湛えた作品で、ヴェネツィアの世俗界の好みを反映しています。


一方、ヴェロネーゼと並ぶ16世紀後半のヴェネツィア絵画を代表する巨匠ティントレットは、バロックを先取りする躍動感とドラマチックな構図を特徴とする画家です。本展出品作もその典型的な作例で、大画面にはヴェネツィアの豪商の邸宅を彷彿させる迫力があります。


第2章 ドージェ統領のヴェネツィア =海よ、ヴェネツィアは汝と結婚せり=

海洋支配を記念して、1000年頃から毎年行われている「海との結婚」の祭典では、ドージェと呼ばれるヴェネツィア共和国の統領(現在は市長)がこう唱えながら指輪を海に投げ入れます。海はヴェネツィアに船による交易を通じ莫大な富をもたらしてくれただけでなく、この都市を守ってくれたのも本土と分かつ海であり、敵を寄せ付けない迷路のような運河網でした。そしてそのヴェネツィア社会の頂点にいたのがドージェです。精妙で不正のない選挙で貴族から選出され、権力が集中しないようにその権限や行動は厳しく規定され監視されていたドージェは、王とは似て非なる存在であり、一方でこの厳密な仕組みこそが海と共にヴェネツィアへ長きに渡る繁栄を保障したのです。
 ドージェは当然のことながら肖像画の対象となり、本展に出品されているうち3点は縦3m近い楕円形の巨大なキャンヴァスに描かれており、特にカーテンや衣服に用いられた豊かな緋色や黄金色には、ヴェネツィア絵画の特色がよく現われています。なおドージェはコルノと呼ばれる低い烏帽子のような帽子を被っているのも特徴で、絵の中でもたやすく見分けることができます。


第3章 都市の相貌 =セレニッシマ、ヴェネツィア=

「晴朗きわまる国」という意味のヴェネツィアの雅号は、この島に蓄えられた絢爛豪華な文化遺産によってさらに強調されています。そして今日、この呼称は別の意味でヴェネツィアの日常をよく表わしています。それは自動車の往来がもたらす喧騒が全くないことです。
 つまり街の賑わい自体、昔から変わりがないに違いありません。観光で訪れる人もさることながら、この交易の一大拠点を通過した世界中の商人たちも、その美しさと活気に魅了されたはずです。そして写真や絵葉書のない時代、人々は旅の思い出に絵を買い求めました。これがヴェドゥータと呼ばれる都市景観画です。眼前の風景をできるだけ忠実に描き出したこの風景画の起源はローマですが、観光旅行ブームの影響もあり18世紀のヴェネツィアで大いに流行しました。
 こうしたヴェドゥータの第一人者がカナレットです。空を広く取り、明晰かつ精密に描かれた水の都の景観は、特にイギリス人に愛好されました。ヴェドゥータは多くの画家によって描かれ、サン・マルコ聖堂などの主要な観光名所だけではなく、この豊かにして平和な島のいたるところで繰り広げられていた年中行事の様子も描かれました。なかには素朴なものも多く、逆に親近感溢れる面白みを生み出しています。

 一方、この都市に住む人々の風俗にスポットを当てた画家もいました。特にロンギは、仮面舞踏会など、ヴェネツィア貴族の日常生活を優雅に描き出す様式を確立し好評を博しました。そしてこの画家は、ヴェネツィア派最後の巨匠ともいわれます。それは1797年、ナポレオン軍の侵入で都市は陥落し、その後しばらくはロンギが愛したヴェネツィアの華やかな行事も途絶えてしまうからです。
 今日ヴェネツィアは、年中行事も復活し、往年の賑わいを取り戻しています。この展覧会は絵画作品とともに、「アドリア海の真珠」に思いを馳せる最高の機会となるでしょう。


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