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『白野』制作発表レポート
 
 
 
 
 
 

10月公演のSTUDIOコクーン・プロジェクト『緒形拳ひとり舞台 白野−シラノ−』が、いよいよ始動。7月某日、緒形拳と演出の鈴木勝秀がそろって製作発表を行った。

 
   
「僕が20歳から10年間、所属した新国劇がやっていたのは男の芝居ばかり。例えば『王将』の坂田三吉、『国定忠治』にしても生き方が一途で、劇的なんですね。『白野』も同じで、1人の女性のために生きる。こうした芝居を誰かが掘り起こしてやらなければならない、それは今、年齢的にも僕しかいないのかなと思った」

意気込みを語る緒形拳。しかし一人芝居への挑戦は、師・島田正吾をなぞるのでなく、あくまで“緒形版”を目指す。その最大の特徴として、主人公・白野弁十郎のトレードマークである大きな鼻はつけないことが決まった。

「白野の鼻はコンプレックスのシンボル。しかし、それが見るにたえないほど大きいのか、気にせず雄々しく生きるべきものなのか、僕の語りと鈴木さんの演出、見る方のイマジネーションとの共同制作で舞台を作っていきたい。それに千種という女性の美しさと、彼女のみずみずしいせりふも演じてみたいと思うと、やはり鼻をつけては出来ないと思います」 この考えを聞いた時、すぐに賛成したという鈴木勝秀は、次のように語る。

「昨年末、リーディングによる試演会を開いた時の緒形さんは、すでにせりふの半分以上が入っていた。僕はそうした役者さんの作品に対する熱い気持ちが何より大切だと思っているので、そこに余計なものを加えず、鼻もつけず、逆に削ぎ落としていったところにイメージが出現するような世界をお見せしたいと思っています」

こうした意図のもと、大きな効果が期待されるのが今回出現するTheatre PUPA(シアターピューパ)だ。これはシアターコクーンの舞台上に作られるいわば「劇場内劇場」で、コクーン(繭)に対してさらに小さなPUPA(さなぎ)と名づけられた実験的、かつ緊密な空間。これについては「日本古来の芝居小屋の雰囲気、そして能にも通じるシンプルで無機質な舞台にしたい。とにかく、劇場から作り上げる発想で取り組んでいきます」と鈴木。緒形も「小さな劇場で大きな芝居をやる、それがいいんじゃないかな。10月半ば、ぜひ渋谷に男の芝居を見に来てください。そして、泣いてください」と――。


役者と演出家の思いは一致し、秋の幕開けに向けて確実に準備が進められている。
   
  text by 袴田京二(フリーライター)
photo by谷古宇正彦
 
   
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