織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ

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織田憲嗣さん(本展学術協力)

織田憲嗣さん(本展学術協力)

ハンス・ウェグナーの名前を知らない方でも、《Yチェア》や《ザ・チェア》の特徴的なデザインに見覚えのある方は多いのではないでしょうか。ウェグナーは生涯で500種類を超える椅子のデザインを手掛けたデンマークを代表する世界的家具デザイナーです。今回の展示会では約160種類の椅子を展示、年代ごとにデザインの系譜を辿ることができる規模となっています。

多作なウェグナー作品の中には多くの近代デザイン史に遺るオリジナリティ溢れる作品があります。それは彼が著名な家具デザイナーである以前に、家具職人マイスターであるということにその要因があるのでしょう。彼の椅子に掛けた瞬間、椅子のスウィートスポットに身を委ねていることを実感できます。今回の展示会では最後にウェグナーチェアに実際に掛けられる体験コーナーもありますので、彼の椅子のディテールを指でなぞり、体を預けてウェグナーの作家性を体感してください。

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田根剛さん(本展会場構成)
Photo: Yoshiaki Tsutsui

田根剛さん(本展会場構成)

有史以来、古今東西で多様な「椅子のデザイン」が生み出されてきた。その中でもハンス・ウェグナーの椅子は、木への深い洞察と人の手仕事の極みが融合し、物質と精神、機能と詩性を一脚一脚に宿す「至高のデザイン」である。それらの椅子は、美しく穏やかで、どの文化やどの時代の室内に置かれても、豊かな調和の世界へと導いてくれる。本展では、半生をかけてウェグナー作品を蒐集された、世界最大のコレクターであり恩師でもある織田憲嗣先生のコレクションを一堂に公開し、その量と質はデザイン史においても、私たちの生活文化を見つめ直すうえでも、大きな意義を持つものと信じている。

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下田結花さん
撮影/和田北斗

下田結花さん

人生を重ねる椅子

織田憲嗣さんの北海道の自邸、織田邸を初めて訪ねたのは、「モダンリビング」の編集長になった2003年のことだった。その時、織田さんは、「天才のファン・ユール、秀才のウェグナー」について2時間以上「特別講義」をしてくださった。織田さんは過去に直接、お会いしたことのあるデザイナーは「さん」づけで呼ぶ。「ウェグナーさん」という言葉の中に、限りない親しみが込められていた。

東川に家を建てたとき、最も時間をかけて選んだのは、長く座っていても疲れないと確信できたウェグナーのPP58だった。私は1日の多くの時間をこの椅子で過ごす。食事だけはなく、仕事も、語らいも。友人たちや町の人たちも集う。今、織田さんの言葉をしみじみ思い出す。「ウェグナーさんの椅子は歳を重ねるほど良さがわかるんです」

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濱田由一さん

濱田由一さん

ウェグナー邸には2度訪問しました。
その時に自身の製作した模型を手渡し頂いた言葉が「これは模型ではない。本物だ」ということでした。
それ以来その言葉を胸に刻みウェグナー作品を作り続けて160脚を超えました。
今回の展示会も実物が同じ位の数が見れていると思います。
ウェグナーさんの家で、模型の椅子を手渡した時まず裏面から眺めていました。
そして、その後あらゆる方向から観察して先程の言葉を頂きました。
ウェグナーさん自身が製作した模型は一度も見せてもらえませんでした。
地下のアトリエでは道具の事や図面のことを、色々教えて頂きました。
自分自身が家具職人であることを、踏まえて対応して頂いたと思います。
凄いデザイナーであるのですが、ごく普通に接して頂いて良かったです。

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クリス智子さん

クリス智子さん

椅子は、やさしさのカタチをしている。そこにあるだけで「どうぞ」と声をかけてもらうようで、身体をあずけたくなり、本を読み、食事をし、窓の外を眺め、息を整える。時には誰かと語らうための居場所にもなり、椅子ほど、日々身体的に触れながら暮らしを支えるデザインはないだろう。ウェグナーが活躍した頃から、わたしたちの身の回りには機能性を優先したモノが増えたが、そんな時の変遷を悠々とくぐり抜けてきたデザインには、人を思うまなざしやあたたかい手触り、ユーモアと美しさの絶妙なバランスが息づいているように思える。細部にまで考え抜かれた曲線などは、その流れをつい目で追ってしまう。ウェグナーの眼差しの先に生まれ続けた椅子たちを見ることで、日々の暮らしをやさしく包むデザインの原点に触れ、時間を超えて人と暮らしをつなぐ力を感じることができるだろう。

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