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「レオ・レオーニの絵本づくり展」トリビア 【高見澤音楽室】編
2025.08.26 UP
第3章《レオレオリウム!》の《クィルプ・クィルプ・クィルプ!》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
7つのきのこからそれぞれ違う音が聞こえます
Bunkamura : 本日お話しいただくのは高見澤音楽室の高見澤克哉さんと高見澤淳子さんです。今回お二人には第3章の音楽・サウンドデザインをご担当いただきましたので、そのお仕事についてお伺いします。
まずは《クィルプ・クィルプ・クィルプ!》から見ていきましょう。レオーニさんの絵本作品『シオドアとものいうきのこ』の中でクィルプと言う青いきのこが登場します。絵本の中では “クィルプ” という文字が出てきますが、実際にそれを聞いたことのある人は…誰もいませんよね。その “クィルプ” という音をお二人が想像して考えてくださり、それぞれのきのこに音を割り振っています。
高見澤克哉(以下 克哉): 絵本は音が鳴らないので、音を作るにあたって1つの音だけにしてしまうと想像力が損なわれてしまうかな、と。限定してしまうのが怖かったので、自然の音や動物の声、あと楽器を使いながらいろんな “クィルプ” を作ってみました。近付いて耳を傾けていただけると嬉しいです。
Bunkamura : きのこのうちのひとつは「ムックリ」というアイヌ民族の楽器から音を出していますよね。
第3章《レオレオリウム!》の《クィルプ・クィルプ・クィルプ!》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
ギャラリートーク当日、克哉さんがムックリの実演をしてくださいました
克哉 : 口琴ともいわれる楽器で、これは真鍮製ですが様々な素材で作られていて、口に当て響かせて音を出す楽器です。
Bunkamura : ビヨーン、という音がマンガの効果音みたいで楽しい音ですね。でもただ鳴らしているだけでは無くて “クィルプ” と聞こえるように音を出しているんですよね。
高見澤淳子(以下 淳子): はい。この展覧会の作業の中で一番初めに取り掛かったのがこの《クィルプ・クィルプ・クィルプ!》で、私たちも「この音“クィルプ”っぽいね!」と確認しながら鳥やカエルの声を録音して、それをデータ上で “クィルプ” に近づけていきました。トランペットでも “クィルプ” って鳴らしています!
Bunkamura : 絵本の中には音に対するヒントが無いのでお二人で想像しながら、 試行錯誤を重ねてくださったわけですね。次に《レオと石》の床に投影している作品ですが…
第3章《レオレオリウム!》の《レオと石》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
克哉: 床にある石が動くと同時に音が出る仕組みになっています。これは石の音で、実際に水辺でカチカチと鳴らしたり、引きずったり、水の中にボチャンと入れてみたりしながら録音しました。ほかにも動物の鳴き声や、ざざーっという波の音だったり…遊びながら聞いてみてください。
Bunkamura : 今回の作品はplaplaxさんの作ったものに音を後付けしているのではなく、plaplaxさんと高見澤さんたちが最初から意見を交換しながら進めてくださったんですよね。
淳子 : plaplaxさんとは何度か一緒に作品づくりをご一緒させていただいて、「こういうことをやろうと思ってるんだー」という言葉からサウンドを想像して作っていくというキャッチボールを楽しませてもらっています。今日ここにディレクターさん(plaplaxの近森基さん)も来てくださっています…(笑)
近森 : お二人にはあまり決まっていないタイミングから相談させてもらっていて、出てきたものから自分たちが想像を膨らませていくこともありました!《レオと石》は特にそうですね。
Bunkamura : 相乗効果でよいものができたということですね!では次に円形のスクリーンですが、《空想の庭 Imaginary Gardens》 《Mice!》 《Grassland》 《かぜのてがみ Letters》の4本のアニメーションで構成されています。お二人がそれぞれに思いを込めて音作りをされていますのでご説明いただけますか?
克哉 : 《かぜのてがみ Letters》に音を付ける時には、風の音で表現したくて。この絵と共に風の音を大きな音で浴びたいな…と。また、映像には平和へのメッセージも込められているので、その想いも届くようにと風の流れを意識して制作しました。
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
アニメーション《かぜのてがみ Letters》の一部分
淳子 : 風の音って言われたときに録音方法を考えましたが、ここでの風の音って木が揺れる音なんです。皆さんがこの作品の中でこの音を聞いたら「風の音だ!」って感じてもらえると思いますが、木が無いと風の音ってしないんだ、ということに私たちも改めて気付きました。
Bunkamura : なるほど!正しくは “風の音” ではなく、“風に吹かれて動く葉っぱの音”ということですね。
淳子 : そうです。竹林とかブナの木とか、こすれやすい葉っぱの音ですね。木によって音も違いますから。
克哉 : 次にこの展覧会のコンセプト的なイメージ映像です。ガラスの中にレオーニさんがいろんな物を手で配置する《空想の庭 Imaginary Gardens》 の音ですが…
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
アニメーション《空想の庭 Imaginary Gardens》ではレオーニをイメージした手によって石や花が配置されます
淳子 : 少しずつレオーニさんがキャラクターや自然のものを積み重ねて世界を作っていくというヒントをいただいて、少しずつ重ねて音が増えていくという構想をしました。そしてここではグラスを多用しています。ガラスの音でガラス鉢の中に世界ができていくテラリウムのイメージで、グラスをコンコンコンコンと叩いたりして…
克哉 : コンコンコンコンという音は、グラスの中に木琴のマレット(打楽器を演奏するためのバチ)を入れてカタカタカタと早く動かした音を録っています。
Bunkamura : 楽器を使われているということですか?
克哉 : そうですね、楽器ではないものも楽器として使っています。あとはピアノとアコースティックギターとウィンドチャイムのベルとヴァイオリンとトランペットも使っています。
Bunkamura : ヴァイオリン以外はお二人が演奏しているんですよね。
淳子 : このヴァイオリンのフレーズの演奏は娘のヴァイオリンの先生にお願いしました。それ以外は自分たちで演奏しています。
克哉: レオーニさんも手しごとを大事にしているので、この会場で鳴っている音は、打ち込みは使わずに生の音でということを心がけていましたね。
Bunkamura : それが耳心地の良さに繋がっていると思います。自然の音がふんだんに盛り込まれていて、すごくいいですよね。
克哉 : あとワイングラスのふちをこすって音を響かせているものもあります。第3章のコンセプトであるテラリウムという言葉を一番初めに聞いた時にこの音が浮かびました。plaplaxさんに《Grassland》の絵コンテを見せていただいた時に鳥が飛んでいる絵と、植物が伸びていく様子がこの音に合うなと感じました。
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
アニメーション《Grassland》鳥が横切ったあとには、スクリーン下から《ひとあしひとあし》に登場する植物が伸びてきます
Bunkamura : わざわざワイングラスを買いに行ってくださったんですよね。しかも音を吟味しながら…
淳子 : 《レオレオリウム!》全体の音楽は、一斉に聴こえてもいいように同じFという調でできています。そのFのキーに合うグラスをお店で選びながら買ってきました。
次に《Mice!》ですが、この映像の音楽はピアノと木琴を生演奏して、昔の映画のように作りたいと思っていて、映像を見ながら音をイメージして演奏しました。リアルタイムでの演奏にこだわったことでなかなか音の出だしが合わなく…何度も何度も100本ノックのように作りなおしました(笑)
Bunkamura : そういった細かい作業によって、ぴったり・しっくりくる音になっているんですね。ねずみのパーツがバラバラになる時も音に乗って散らばっていく感じがしますし。
第3章《レオレオリウム!》の《空想の庭》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
アニメーション《Mice!》では、音に乗ってねずみのパーツが散らばっていきます
Bunkamura : 最後に《スイミー・スクロール!》のお話もお願いしたいのですが、実は当初は音が付かない予定だったところ、お二人が是非ともということで付けてくださったんですよね。
克哉 : そうですね。全体のプランを見せてもらったときに、大きなスイミーがあるからにはどうしても水の音が欲しいとお願いして…
淳子 : この作品のイメージが一番初めに沸いて…全く頼まれてもいなかったんですけど、スイミーにはこういう音が必要だと思います!とプレゼンして(笑) 音は水とピアノで作りました。
克哉: 海の音は絵本を参考に様々な深さで、水中マイクを使って録音しています。
Bunkamura : 絵柄がプリントしてあるスクリーンに4台のプロジェクターでスイミーの仲間たちの魚群や水泡などを当てているのですが、そのプロジェクターのところからそれぞれ音を出しているんですよね?
淳子 : 最初のスピーカーは海の音。次はスイミーの物語の中でもスイミーがさまよって深い海の底を冒険し、生き物たちに心を奪われるシーンなのでその世界にどっぷり浸っていただきたいと思って。海の音とピアノで光が差すような、暗い中でも生き物が動いた瞬間を感じてほしいと思ってピアノを重ねました。
克哉 : 泡のブクブクという音とピアノのごにょごにょした動きと響きが一体となって不思議な音になれば、と思って作っています。ちょうどこのエリアの天井が低くなっているので、水族館のようになったらいいねとplaplaxのお二人と話していました。
第3章《レオレオリウム!》の《スイミー・スクロール!》/「レオ・レオーニの絵本づくり展」会場
Bunkamura : スイミーは、みんなで力を合わせて大きな魚を追い出すお話という印象があると思いますが、一人寂しく冒険をしながら海の中でいろいろな生き物と出会って、海の中は怖いけれど素晴らしいところなんだと目覚めていくシーンに一番ページが割けられているのです。そんなスイミーのちょっと怖いけど好奇心に誘われて外の世界に目を向ける感じがとてもピアノの音と合っていて、怖いだけでは無く励まされるような感じがとてもよいと思っています。場面に合わせてピアノの弾き方も変えてくださっているんですよね?
淳子 :はい。 これもスイミーの絵本を譜面台に置いて見ながら即興演奏しました。
Bunkamura : 最後の魚を追い出すシーンのあたりはちょっと激しい感じの音楽ですよね。
淳子 : 最後は感極まってというか、スイミーの気持ちになってしまって…ドラマチックな音になったかと思います。会場のエンディング部分にあるので、晴れやかな感触をお持ち帰りいただけたら嬉しいです。
Bunkamura : 皆さんも音の違いを感じながら見ていただくと、よりお楽しみいただけるかと思います。高見澤さん、楽しいお話をありがとうございました。
《レオレオリウム!》4つのアニメーション音楽
①《空想の庭 Imaginary Gardens》 音楽:レオリウムの庭
②《Mice!》 音楽:ねずみのパレット
③《Grassland》 音楽:グラスハープ
④《かぜのてがみ Letters》 音楽:かぜのてがみ
会場音楽はコチラからお聞きいただけます。
【プロフィール】
高見澤音楽室(高見澤克哉氏・淳子氏)
楽器と環境音を基調とし、インスタレーション|映像|展示会への楽曲提供、オリジナルアルバムを制作している。
自然の音と人の音の共鳴から、様々なものの共存を感じられる時間・空間づくりに向き合っている。
近年の主な参画:
「グッドデザイン賞 コンセプトムービー」(2020年)
「いわさきちひろぼつご50年 こどものみなさまへ」(2024年)
「井の頭自然文化園 デザニャーレ」(2024年)他