マリー・ローランサンとモード

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独占インタビュー!浦井健治さんが語る
「ローランサンは自分の信念を持った女性」

本展の音声ガイドは俳優・浦井健治さん。音声ガイド収録終了後の浦井さんに、実際に収録を終えてみての感想など、スペシャルインタビューを実施いたしました。

美術展の音声ガイド収録を終えての感想を教えてください。

とても楽しく、光栄に思いました。自分は海外旅行の時に現地の美術館を巡るのが大好きで、そこで日本語ガイドも利用していましたが、今回それを自分がやらせていただけることがすごく光栄だなと思うと同時に、責任も感じました。特に初めてその絵に触れる人は、音声ガイドから得る情報をもとに、その絵を鑑賞することになりますので、そこには大きな責任が伴うのを感じていたので、そういう意味でもフラットに、一緒に美術館に行って、一緒に観ている様な感覚を出せたらと思って挑みました。

普段よくご覧になる、お好きな作品のジャンルはありますか?

めったに観れない作品や、その時代を映しているもの、描いた人が感じたもの…生き様というか作者の信念を感じて勇気をもらえたり、感動して刺激をもらえる作品が好きです。今はマスクもして、あまりお喋りもできないご時世かもしれないからこそ、音声ガイドであたたかい気持ちになってもらえるきっかけになるのかなと思ったり。美術館を訪れた時に感じるのは、空間がすごく澄んでいて、足音ひとつにしても「美術館に来た」みたいな感覚がありますよね。東京といった都会だったら特に、喧騒や雑踏の中で生きてる感覚があるので、心が満ちて研ぎ澄まされ、自分と向き合える時間にもなるかなと思い、美術館に行っていた時期もありました。

美術展の音声ガイドナビゲーターが今回初めてとのことですが、実際に挑戦して難しかった所はありますか?

目の前に本物があって当時その作品を描いていた人と繋がるような瞬間がある静かな状況だからこそ、自分の声が邪魔にならないようにという思いはありました。なるべくゆとりをもって聴いていただけるように、話の速度も気をつけましたね。抑揚もつけすぎないように、でも温もりがあった方がその作品を描いた人達や、その作品を遺していった人達の思いに少しでも歩みよれるんじゃないかなと思い、そんなことを考えながら読んでみました。

そっと寄り添うようなガイドを心がけた、ということでしょうか。

そうですね。あとは起伏をなるべく出し過ぎないようにしました。でないと淡々としすぎてしまうので、そのさじ加減が難しかったです。今回の音声ガイド台本を作った方が、言葉をシンプルかつ分かりやすい、難しい文体ではなく書いてくださっているな、と読ませていただいて思いましたが、自分の語彙力がまだまだだなっていうのは感じつつ…。こういった現場で刺激をもらえると、自分の中にも言葉が増えていくということにすごく感謝を感じながら読みました。

セシル・ビートン 《お気に入りのドレスでポーズをとるローランサン》 1928年頃 マリー・ローランサン美術館 © Musée Marie Laurencin

マリー・ローランサン作品の印象を教えてください。

「淡い」印象ですね。女性ならではの温かな目線で物事を見ているのと、「かわいさ」や「美しさ」に向き合っているからこそ、自分の美意識と反するものには「嫌だ」と言える主張がある。女性の喜びや、衣装やシルエットに対する情熱、そして自分を大切にすることも、ローランサンの作品からすごく感じました。

また、ローランサンが活躍した当時は戦争や恐慌の大変な時期にもかかわらず、色がとても綺麗なんです。今もウクライナ問題やコロナなど、世界中で大変な状況かもしれませんが、そんな時にローランサンのような淡い綺麗な色彩を観て、芸術ってとても大事だなと再認識しました。人間であることへの賛歌、生命力を感じました。

一言で言うとマリー・ローランサンはどんな人だと思いますか?

我々にとってマリー・ローランサンやココ・シャネルという名前は、それぞれ美術やハイブランドの名前として君臨していますけど、それぞれの肖像写真ひとつとっても、この二人の美意識を感じますね。「時代を作っていこう!」という情熱をすごく持っていて、先がまったく見えない時代の中でも、私たちのやり方はこうですというのが、彼女たちにはあるんだろうなぁと思いました。もしかしたら現代でも、自分たちの身近なところでそういった方々はいるんじゃないでしょうか。

マリー・ローランサン 《鳩と女たち(マリー・ローランサンとニコル・グルー)》 1919年 油彩/キャンヴァス ポンピドゥー・センター所蔵、パリ装飾美術館に寄託
Photo © Centre Pompidouz, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Jacques Faujour / distributed by AMF

「強い女性」という感じでしょうか?

そうですね。強いというか「自分の信念を持っている」方ですね。

音声ガイドで紹介している作品の中で、実際に「会場でこれを見てみたいな」と思った作品はありますか?

《鳩と女たち》ですね。真ん中の人物が灰色で、寄り添っている女性は色が鮮やか。実物を目の前にしたときに、きっといろいろ感じることがあふれてくるんだろうな…と思いました。

女性の母性も感じますし、当時の情景や関係性、人間模様、いろいろな別れ…そういったものがこの作品から見えてくるような気がします。ローランサンの作品には犬がよく描かれてるので、愛犬家だったのかな。

犬と言えば浦井さんもイラストで犬を描かれていますよね。

ああ…、「うらけん」ですね(笑)。もともと絵を描くのは苦手なんですけど、みんなで落書きをしていた時に「えぇー、これが犬なのぉ?!」って言われた所から誕生したものです。みなさんにホッコリしてもらえればいいなぁと思っています。

浦井さん自身、フランスには行かれた事はありますか? その時の印象、思い出があれば教えてください。

映画のワンシーンがどこでも撮れるような美しい石畳の街並みで、そんな街並みを大切にしている人たちがいるのを感じましたね。ファストフード店の色味も街並みを壊さないようにしている。モン・サン=ミシェルにも行きました。当時の修道院の大変な状況はあれど、やはり美しい。オムライスも美味しかったです。歴史の中でも悲しい物語はたくさんありますが、すべてが美しいのがパリでありフランスですね。パンはどこで買っても美味しいし、あと音楽とマルシェも素晴らしかったです。音楽家や芸術家の方とか、みんな活気に溢れていて…お話ししていると日本人とちょっと似てるかなって思ったり、親近感を持ちました。

浦井さんはBunkamuraシアターコクーン「アルカディア」(2016年)に出演され、オーチャードホールでもコンサートに出演されています。Bunkamuraの印象を教えてください。

センター街から近くて、「超・渋谷ど真ん中じゃん!」みたいな場所にあるにもかかわらず、角を曲がってBunkamuraの方に行くと急に空気が変わる。そして中に入って行くと、ちょっと厳かな感じになっていき、ひとつひとつのフロアの中に劇場があって、吹き抜けになっているエスカレーターからB1階に降りると、そこが憩いのスペースになっている。文化の発信を渋谷から行う意味を、時代を映す鏡のように感じています。ぜひまたBunkamuraの舞台に立てたら…という憧れがある場所です。

それでは最後に、展覧会にいらっしゃる方へメッセージをお願いします。

展覧会にお越しいただく老若男女のお客さまが、自分の声で少しでもプラスアルファの何かを受け取っていただけたら本望ですし、邪魔にならないようなガイドになっていれば光栄だなと思います。

マリー・ローランサンとココ・シャネル、二人の女性の素晴らしさと強さ、そしてその時代に関わった人々の生きている意味や生命力にみなさまが触発されて、明日からも頑張ろうと見終わったあとにぜひ感じていただければと思います。一度ではなく何回か観ると、その日によって感じるところが変わってくると思うので、よかったらガイドあり・なし両方を楽しんでください。できたらガイドの方も何度も聴いてくれると嬉しいです!

(2023年1月取材)