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『マリー・ローランサンとモード』監修者 成実弘至 コラム




モダンガールの登場
今から100年前の1920年代、モダンガールという女性たちが登場しました。断髪に膝丈スカートのスタイルを身にまとい、大都会を元気に闊歩した<新しい女性たち>。それは第一次世界大戦によって女性の社会進出が進み、都市文化、大衆文化が花開いた20世紀を象徴する存在でした。
この時代に活躍したのが、ガブリエル・シャネルです。貧しい生まれをものともせず、時代の波に乗って、パリモードの第一人者へと成長したシャネルは、モダンガールのお手本でした。彼女が1926年に発表した「リトル・ブラック・ドレス」のイメージは、<ザ・モダンガール>のアイコンと言えるでしょう。
マリー・ローランサンはシャネルと同じ年に生まれ、同じ時代の空気を吸って創作をおこないましたが、彼女の描く女性像にも20世紀を主体的に生きる自信のようなものが感じられます。
この時期、女性の芸術家やデザイナーがようやく社会の表舞台に現れてきます。もともと女性の職場であったモードの世界でも、シャネルのほかに、ジャンヌ・ランバンやマドレーヌ・ヴィオネらが活動的なドレスを考案し、その制作に女性のお針子たちが従事しました。
本展覧会は1920年代を中心に、1900〜1930年代のアート、ファッションに登場した女性たちを通して、現代女性の原点ともいうべきモダンガールのスタイルがどのように変遷してきたかを検証します。ローランサンの絵画を縦軸として、1900〜1910年代にパリモードの王様として君臨したポール・ポワレのファッションイラスト、シャネルやヴィオネのドレス、1920〜1930年代のファッション雑誌や写真など、時代を彩った女性たちは私たちに何を語りかけるでしょうか。さらに、モードの帝王、カール・ラガーフェルドがローランサンにオマージュを捧げた21世紀の作品も展示されます。二つの時代を比べてみるのも一興かもしれません。
成実弘至(本展監修者、京都女子大学教授)