超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵

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2020.04.20 UP

インタビュー

特別対談:島村信之×和田彩花②

アイドル活動を続ける傍ら、大学院で美術を学び、自身が執筆した美術案内の本を出版するなど、多方面で活躍する和田彩花さん。数日前に大学院を修了した和田さんと、本展出展画家島村信之さんとの対談が、3月に実現しました。今回はその第二弾をお届けいたします。
※第一弾はこちら

 

 

初期の作品から今での流れ

 

W:先生の画集を見たのですが、初期の作品は色数もすごく多いですよね。その後どんどん色がなくなっていって、面白かったです。

S:コンクールに出す時には、より目立たなくてはいけないということを考慮していました。ハリを出すために鮮やかな色彩を入れてみる。最初はそういったことが軸になっていましたね。

W:そうなんですね。モチーフもいろいろ描き込まれていたから寓意画みたいで「もしかしたらこれ読み解けるかもしれない!」って思いながら見ていました(笑)。

S:本当にそこに物語とか深い意味があればいいんですけど、若い頃はちょっと背伸びしていて、それ風に描いても、そこまで理解していないんですね。年齢を追うにつれて自分が伝えなければいけないことがありそうだなというところを理解していく。自分が日本人で、ある時代を生きて、そこで何ができるのかっていうのを、少しずつ入れていかなければいけないと今は考えています。

W:いろんなことを経験されて、伝えたいことが明確になっていくのですね。伝えたいことを伝えるために絵はどんどんシンプルになっていく。そういうところに感動しました。

 

 

S:もともと油絵の具の特性として、人の肌を描くのに結構向いている絵の具だと思うんです。マニュエル・フランケロの人物画を見た時の話ですが、彼の描く人間の肌がすごかった。強い色と合わせると持っていかれてしまうので、白であったり、あるいは黒、そういう取り合わせのほうが肌は純粋にきれいにみえるのかなと思います。僕の中で「白い絵」が発生したのはその辺ですね。そしたら今度は色がなくなると同時に、光や影の移り変わりが面白くなってくるんです。最初は色を濃くしたり、いろんな色をぶつけていたんだけれども、それよりも移り変わる諧調の美しさっていうのがあると感じてきて。

W:光の変化というのは、実際に目に見えるとおりに描かれるのですか。光って、確かに見えるけれども実際に触ることもできないものだし、どういう風に描くんだろう。ちょっと不思議です。

S:光を感じるためにはちょっと陰が必要。逆光で描くことは通常の絵画の世界では少ないのですが、逆から見ると影の側からなので、光が当たっているところが強く出るんです。それで光を意識できるっていうのが面白いなと思い、ある時期からやたらと逆光で絵を描くようになったのかな。でも自分の流れの中でそれが生涯の画風とも思ってはいません。興味があるときにはそれをやり、また違うものを発見したらそっちに移ればいいかなと思っています。自分の中でマンネリ化ができてしまうので、そこをどうやって脱却しようかと、常にアンテナを張っています。自分が普段の世界の中で気づいたことがあればそこをどんどん取り入れて行きたいですね。

 

「はかなさ」と「憧れ」の先にあるもの

 

W:こんなことを聞いたら失礼になってしまうかもしれないのですが、例えば絵を描くことで具体的な目標、達成されたいことは?

S:具体的な目標ですと、自分が本当に納得する絵が人生の中で2,3点残せればいいかなと思っています。なかなかその2,3点が難しい!

W:今までで挙げられる作品はありますか。

S:いやー、どうだろう。でも女性像の白い絵でひとつの形ができたので、この形がもっとハイレベルでできたら、それはそれでいいのかなとは思いますね。

W:よりハイレベル!想像できないです。

 

 

S:年齢のことがあるので、しっかり描ける時期を考えると「今でしょ!」みたいな(笑)。やっぱり人間衰えていくじゃないですか。おそらく絵描きっていうのは自分の年齢を常に意識していると思います。20代30代ってすごくエネルギッシュでガンガン徹夜して描ける。でも、年齢がいくにつれて、段々自分の衰えとか周りの変化に敏感に気づくようになる。そうすると絵画のテーマの中に、常に「はかない」という事を意識するようになってくるんです。形あるものはみんななくなっていく。でもそれだけでは人間ダメで、その対極として希望や憧れであったり、夢の部分を追っていかなくてはいけない。自分の中では「はかなさ」と「憧れ」の対極のものを常に考えながら、それを作品に入れて行きたいと思っています。でもたぶんこれは僕だけじゃなくて、画家は皆そうなんじゃないかな。

W:今のテーマは虫ですか?

S:ステレオタイプになりたくないんですよね。美術で描く「美しいもの」=じゃあ「若い女性」を描くのか?という疑問がある。疑問はありますけど自分もそれも研究してきている部分があるので、ひとつの方向としてやるけれど、それ以外に自分がもし絵の勉強をしていない時に何を描いていたかと考えると、子どもの時に自分が生き物を捕りにいって、その捕った生き物が面白くて絵に描く。それと同じことをこの年になってできるところが面白いなと思っています。そういった感動をそのままに表現できるのが絵だと思います。芸術作品全般に言えることですね。もちろん音楽もそうです。でも、虫の絵って美術館向きといえば美術館向きなんですよ。画商は「ちょっと虫は…」ってなるので。

 


島村信之 《オオコノハムシ―擬態―》 2014年 油彩・キャンバス

 

W:えっ、どうしてですか?

S:画商に「僕にはこの作品を売る自信がないから困ります」と言われたときがあって(笑)。美術館だからできるということはあります。絵を描く時にできる一番の気持ちに、好きなことをそのまま描いちゃうってことができるのがいいですよね。虫は自分の趣味でもあります。描くだけじゃなくて飼ったりとかもしています。

W:飼ったり?!

S:下手すると数百匹は同時に飼っています。もう今は疲れてきているぐらい(笑)。相当コレクションしています。飼育で立派になった親を掛け合わせたり、マニアックな話です(笑)。他の国だとそんなに虫に対して価値を感じていないところもあって、そこが日本文化の面白いところです。そこもお調べになるといいですよ。小泉八雲さんとか、日本の文化を伝えるときに、日本人がどれだけ虫を好きだということを書いています。

W:わかりました。

S:それも美術館だからです。ギャラリーにはなかなか渡せない。

W:そんな違いがあったんですね。それも発見です。

S:たぶん昆虫の絵はシリーズ化したらある程度で終わると思います。次のテーマはたくさんあるので、そこをやっていきたいと思いますし。ちょっとネタばらしはできないんですけど。

W:楽しみにしています!

 

和田さんの好きな画家はマネ。「マネはいろんな矛盾をそのまま書き残しているところが好きですね。西洋絵画というものを大きく変換してしまった画家なので、古いものもあれば新しいものもあって、どちらも切り離せない画家だからこそ矛盾がある。それを見ていくのが謎解きのようで楽しいです」

 

撮影:Yuya Furukawa


島村信之(しまむら・のぶゆき)

1965年、埼玉県生まれ。1991年、武蔵野美術大学大学院修了。卓越した光の表現で女性美を描く。その一方で、近年は子どものころから好きだった甲殻類や昆虫を描き、新境地を開拓。

 

和田彩花(わだ・あやか)

1994年、群馬県出身。2009年アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2019年アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。
和田彩花さんtwitter/instagram ※外部サイトにリンクします

 

★ananwebでも二人の対談が紹介されています(詳細はこちら
※外部サイトにリンクします