超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵

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2020.04.16 UP

インタビュー

特別対談:島村信之×和田彩花①

アイドル活動を続ける傍ら、大学院で美術を学び、自身が執筆した美術案内の本を出版するなど、多方面で活躍する和田彩花さん。数日前に大学院を修了した和田さんと、本展出展画家島村信之さんとの対談が、3月に実現しました。初対面の二人ですが、共通点は美術。さて、どんなお話になったのでしょうか。

 

 

器械体操をしていた学生時代から絵の道へ

 

島村(以下S):和田さんは絵を見るのがお好きなんですか。

和田(以下W):そうです。美術史を専攻していました。島村さんはどういったきっかけで画家の道に進んだのですか。

S:最初は会社に就職してディスプレイのデザインをしていました。そもそも絵描きになるのも、自分では予期しなかったことです。ずっと運動ばかりやってきたので。

W:何の運動ですか?

S:器械体操と陸上競技。

W:私も陸上です!

S:飛んだり跳ねたりするのが好きで、絵のことは専門的にやっていなくて、最初は体育大学に行こうかと考えていました。

W:えーっ!では、何がきっかけに?

S:絵はもともと好きで。ある時本屋さんに行った時に画集を見て、この人の絵は面白いな、こういう風に描いてみたいな、そういう気持ちがバッ!と出たんです。

W:具体的にどなたですか?

S:入口はイラストレータの長岡秀星さん(1936-2015年)。SFをエアブラシでものすごくキレイに描く方で、画集を見た時に僕もこんな風に描きたいなと思いエアブラシを買いました。普段は運動をやっていて、趣味で絵を描いていました。

 

 

W:いつから具体的に写実というジャンルを意識するようになったのですか?

S:もともと写実の方向は好きで、きっちり見たように描ける能力があったらいいなと思っていました。でも美大に入ってからは悩みました。写実の方向をどう崩して自分の別の世界を作っていくかということを考えなくてはいけない、写実の方向ではないことも考えてみたいと思っていました。でもその頃、「スペイン芸術はいま マドリード・リアリズムの輝き」(91年)という展覧会があって、そこに出展している画家の絵が日本のリアリズムとちょっと違っていたんです。もっとリアルで、リアルというかもう現実超えちゃっているような。特に壁の表現ですね。実際の壁の重みと力強さより、絵画の方がもっと強く思えるような表現でした。そこに自分で少しでも近づければと思いました。特に人物表現では、マヌエル・フランケロさん(1953年-)。レベルがものすごく高いので、自分もいつか追いつければなあと思っています。

 

「写実」、そして「絵画」とは

 

W:私は大学院で専攻していたのがエドゥアール・マネ(1832-1883年)という画家なのですが、マネに先行する画家としてクールベ(1819-1877年)についても学びました。私は写実主義というとどちらかといえば19世紀のフランスの絵画の流れでずっと見ていたので、そこでいう写実は「現実の世界を主題化する」という意味の写実なんです。

S:クールベはそうですよね。

W:でもかといって本物のように描く、描写の側面がないかといわれたら、そうでもないと思うのですが、やはり現実世界を描き出すという側面がすごく強い中で、その側面にマネがあると考えていました。私が見ていたリアリズム=写実主義と、先生がお描きになるものはちょっと違うと思うのですが。

 

 

S:そこが分かると面白いですよ。人によってはもっとドキュメンタリーというか、人間の醜いところ=リアルだという考えもある。映画で例えるといろんなジャンルがあって、その中でエンターテインメントとしてSFやファンタジーの世界があるのと同じです。幻想世界ではあるけれども、自分が身につけた技術を使って、架空のものを表現するというのも技巧上は写実に入るわけです。

W:その点、「写実」というのはすごく広い言葉だなと思いました。「写実絵画」というと、「本物そっくり」というイメージが強かったのですが、私は今回初めて先生の絵を深く見せていただいて、解説を含めて作品に向き合うと、いろんなイメージがあるということに気づきました。そっくり描くことだけが写実ではなく、ものすごく丁寧に表現されているリアルな質感の中で見えてくる「概念」。そういったことも写実の絵画で考えられるということに、私は初めて気づきました。

S:写実という考え方以前に、絵画としてどうなのか。絵画の役割という意味でいうと、自分が日々の中で感動したものを伝えるために、まず自分が感動することが必要だし、作品を観てくれた方も同じような体験ができればという思いがあり、そこが重要だと僕は思っています。まずは感動を受け取ってもらいたい。そこが美術の醍醐味だと思っています。それは別に写実というやり方でなくてもいいんです。たまたま自分が向いていて、興味があるのが写実というところ。ただ自分の中でもいろんな分野があって、昆虫と人物を描くときには別のアプローチがある。それも自分でこうだと決め付けないで、その年齢時々で自分が思ったことをやっていけばいいのかなと思っています。

 

※第二弾はこちら

 

撮影:Yuya Furukawa


 

 

島村信之(しまむら・のぶゆき)

1965年、埼玉県生まれ。1991年、武蔵野美術大学大学院修了。卓越した光の表現で女性美を描く。その一方で、近年は子どものころから好きだった甲殻類や昆虫を描き、新境地を開拓。

 

和田彩花(わだ・あやか)

1994年、群馬県出身。2009年アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2019年アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。
和田彩花さんtwitter/instagram ※外部サイトにリンクします

 

★ananwebでも二人の対談が紹介されています(詳細はこちら
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