超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵

Artists主な出展作家
(予定)

野田弘志森本草介、中山忠彦、青木敏郎島村信之、小尾修、五味文彦、大畑稔浩、生島浩、磯江毅、原雅幸石黒賢一郎、塩谷亮ほか

野田弘志 《聖なるもの THE-Ⅳ》 2013年 油彩・パネル・キャンバス
野田弘志 《聖なるもの THE-Ⅳ》 2013年 油彩・パネル・キャンバス

野田弘志Hiroshi Noda

『写実は哲学』と謳い、戦後の抽象絵画全盛時代にも写実を貫き続け、写実界を常にリードしてきた先駆者。真摯に作品を描く姿勢から、その作風は『魂のリアリズム』と呼ばれている。

日本写実絵画界の牽引者による、生と死を見つめた作品。
北海道の洞爺湖のそばの森に建つアトリエの庭で画家が見つけた鳥の巣。鳥がくちばしのみで木や草を集めて創り出した、驚異ともいえる細かなつくり。画家は崇高で神聖なものと捉え、この作品を描いた。やがて卵は孵化したが、ある日突然、雛も巣も全て跡形もなく消えていた。

森本草介 《未来》 2011年 油彩・キャンバス
森本草介 《未来》 2011年 油彩・キャンバス

森本草介Sosuke Morimoto

戦後、抽象絵画全盛のなかで写実絵画を描き続けた。筆跡を残さず、抒情性豊かなセピアトーンに包まれた画面構成で、全く独自の世界を創り上げた。制作点数は少なく、市場での評価額が最も高い画家の一人としても知られる。

2011年3月11日、この絵を制作中に震災にあった。ちょうど描きかけの絵が2枚あり、1枚は倒れ、キャンバスに大きな穴が開いてしまったが、この作品はパレットの上に倒れ、絵の具がべったり付いたものの拭き取ってことなきを得た。画家の作品の根底に流れているテーマは「生きる喜び」― 生の讃歌。明るい未来や希望の願いを込めて《未来》と名付けた。

青木敏郎 《レモンのコンフィチュール、芍薬、染付と白地の焼物》 2013年 油彩・キャンバス
青木敏郎 《レモンのコンフィチュール、芍薬、染付と白地の焼物》 2013年 油彩・キャンバス

青木敏郎Toshiro Aoki

学生時代に日本画家・中村正義氏に見いだされヨーロッパへ留学。オランダのマウリッツハイス美術館で、フェルメールの《デルフトの眺望》を模写する機会を得た。完成した絵の評価は高く、現地で展示、館長から残していってほしいと嘱望された経験を持つ。ヨーロッパの古典絵画に見る油絵本来の特質を生かした美を、現地での長年の研磨をもとに追求し続ける画家。

画家の言葉

「長年にわたって集めてきた、数々の陶磁器やガラス器、古き書籍、貝殻、布……それらの中から材質、形状、色彩、個々の持つ意味を考慮しながら、取っかえ引っかえして納得のいくまで空間の中に配置しています。まるで風景を自分で構成するかのように、一つの空間を創り上げていくわけです。 一つの物を描写することは、それを取り囲む空間を表現すること、その空間を表現することは、その周りにある物との関係性を表現すること、その物との関係性を表現することは、光を表現することとなります。さらに光を表現することは、物を一層密に表現することとなり、相乗的に表現が高まっていきます」

島村信之 《オオコノハムシ―擬態―》 2014年 油彩・キャンバス
島村信之 《オオコノハムシ―擬態―》 2014年 油彩・キャンバス

島村信之Nobuyuki Shimamura

卓越した光の表現で女性美を描く写実界の俊英。陽の光のなかで佇む美しい女性像で人気を集める作家。その一方で、近年は子供の頃から好きだった甲殻類をテーマにロブスターや昆虫を描き、新境地を拓いている。

画家の言葉

「この昆虫の姿にはなぜか惹かれるものがあります。子供の頃、図鑑ではなく初めて本物のナナフシに出会った時、かなり興奮した思い出があります。コノハムシもナナフシとは近縁だと思いますが、まるで動く葉っぱです。色も形も質もよくここまで似せることができたものと不思議でなりません。そんな単純な好奇心から、もっと接近してみたくなったというのが制作の動機です」

島村信之 《幻想ロブスター》 2013年 油彩・キャンバス
島村信之 《幻想ロブスター》 2013年 油彩・キャンバス

幅2メートルを超える大作。小さい頃から甲殻類が好きだった画家は「この生物を大きく描いた狙いは、実際には存在し得ない仮想現実の世界へと導くためでした」と語る。戦いに勝つためにあるロブスターのはさみや触覚など細部に惹かれ、描いた。描き続けるうちに、人間に食べられる運命のロブスターの悲愁、弱肉強食の世界までも感じるようになったという。

五味文彦 《いにしえの王は語る》 2018年 油彩・パネル
五味文彦 《いにしえの王は語る》 2018年 油彩・パネル

五味文彦Fumihiko Gomi

伝統的な写実技法を使い、その画風を常に変化させながら新作を発表している。 「同じことを続けることはできない」と五味文彦は言う。彼ほど、さまざまなテーマや技法にチャレンジしている画家はそう見つからないであろう。本展で展示される作品も静物画や動物を描いた作品など、バリエーション豊かな作品が並ぶ。

画家が育った長野県の八ヶ岳のふもとには縄文時代の大集落の跡があり、学校の帰りには畑にころがっていた縄文土器の破片を夢中で拾い集めたという。それは胸躍る古代人からのメッセージだった。長い年月にわたり風雪に耐え、表面がでこぼことした大木の幹を見たとき、これは縄文土器と同じだと感じ、その木のもつ古(いにしえ)の言葉を描こうと思った。

生島浩 《5:55》 2007~2010年 油彩・キャンバス
生島浩 《5:55》 2007~2010年 油彩・キャンバス

生島浩Hiroshi Ikushima

美大を卒業後、ウィーンの美術館でフェルメールを模写する中、古典技法を学ぼうと決心。ニューヨークのメトロポリタン美術館でベラスケスとフェルメールを1年間模写した後、ウィーンで4年間、フェルメールの《絵画芸術》を模写し、研磨を続けた。美しい絵肌と魅惑的な女性像で人気が高い。

どこか古典的な薄暗い部屋のなか、左からの光を受けて、現代の女性が座っている。時計は5時55分を指している。静かな時間が流れるなか、何かミステリアスな雰囲気が漂う魅惑的な女性像。ホキ美術館の開館当時から大変な人気を集めている作品。

原雅幸 《ドイル家のメールボックス》 2012年 油彩・パネル
原雅幸 《ドイル家のメールボックス》 2012年 油彩・パネル

原雅幸Masayuki Hara

30歳にしてニューヨークのハマーギャラリーで作品が展示されたという実力作家。1998年に渡英し、現在エディンバラで、風景画のみを描き続ける。風景をじっと見つめ続け、画家の中で思い出となって初めて作品にすることができると語っている。

イギリスの湖水地方の9月の情景。牧場の入り口に立つオーク(樫)の大樹は、強風や風雪を耐え抜いてきた、住民の憩いの樹である。無造作に打ちつけられたOakの文字が読み取れるプレートと緑色にペイントされたブリキの郵便受け。この風景に出会い、物語が生まれた。牧草を食む羊の向こうに見える民家からは子どもが郵便物を取りに登ってきたり、時には郵便配達人と主人がこの樹の下で立ち話をしている。やがてそれらの想像はエディンバラの友人の家族と重なり、《ドイル家のメールボックス》というタイトルになった。根のもとに打ち込まれた杭とピンと張られたワイヤーがこの風景画に緊張感を出している。

石黒賢一郎 《存在の在処(ありか)》 2001~2010年 油彩・パネル・綿布
石黒賢一郎 《存在の在処(ありか)》 2001~2010年 油彩・パネル・綿布

石黒賢一郎Kenichiro Ishiguro

自らの興味ある対象を徹底的に写実で描く実力者。石黒賢一郎の作品は非常に細密に描かれている。例えば、女性の瞳の奥や、黒板に描かれたチョークの跡など、本物とみまごうほどの超写実技法に、人々は感嘆の声を上げる。

モデルは画家の父親で、高校の教師を退職するときに、学校に行って描いた。画鋲で貼られた紙やチョークで書かれた文字の、絵の具で描かれているとは思えない、あまりのリアルさに美術館では確かめようと触る人が続出してしまった。