建国300年 ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展

Flowers花特集

バラ愛好家、ガーデニング愛好家、園芸愛好家、フローリスト、
フラワーデザイナーなど、花を愛するすべての方へ!

本展に出展されている花が描かれた絵画や磁器などの作品と、そこに描かれた花に着目し、本展の魅力を「花」を通じてお伝えします。

絵画や磁器に可憐に美しく花々が
描かれた、3作品をピックアップ!

フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー《磁器の花瓶の花、燭台、銀器》1839年、油彩・板
ヴァルトミュラーの繊細かつ質感にあふれる描写力で、花や磁器の美しさが際立つ、バラを中心とした花の油彩画

ピンクと白のバラを中心に克明に描かれたこの静物画には、細密な描写を得意とした画家ヴァルトミュラーの才能が余すところなく発揮され、様々なものの質感が見事に描き分けられている。

他の花は右からセンノウ、グラジオラス、カクトラノオ、黄ソケイ、アルストロメリア、ルリマツリ、そして下の白い花はアラビアジャスミンと白い実のシンフォリカルフォス。花瓶はおそらく中国磁器に似せて作ったウィーン窯のものだろう。背景を黒にすることでこれらの静物に特別な存在感が与えられている。

フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー《磁器の花瓶の花、燭台、銀器》1839年、油彩・板

ウィーン窯・帝立磁器製作所/ 絵付け:ヨーゼフ・ガイアー《色絵金地花文クラテル形花瓶》1828年頃、硬質磁器
時代の趣味に合った花が描かれた磁器を数多く生み出した「ウィーン窯」で、専門の絵師によって写実的に描かれたクラテル形花瓶

クラテルとは古代ギリシアでワインと水を混ぜるために使われた大型の甕(かめ)のことで、持ち手が付いている。ウィーン窯では花が描かれた磁器が多数生産され、ここにはタチアオイ、プリムラ、アイリス、スウィートピーなどが専門の絵師によって写実的に描かれている。高さ50㎝に迫る格調高い本作は花瓶という用途を超越した装飾性があり、金色の底部や台座にも様式化された植物模様が施されている。

ウィーン窯・帝立磁器製作所/ 絵付け:ヨーゼフ・ガイアー《色絵金地花文クラテル形花瓶》1828年頃、硬質磁器

ウィーン窯・帝立磁器製作所/ 絵付け:アントン・デーリンク、イグナツ・ヴィルトマン《金地花文ティーセット》1815年、硬質磁器
12客のティーカップと受け皿もすべて異なった絵柄で花々が手描きされた、侯爵家のティーセット

この豪華なティーセットは、侯爵家のティータイムのために使われた。蓋付きの大きなポットは熱湯あるいはコーヒー、小さい方は温めたミルクが入れられた。砂糖入れは3頭のスフィンクスが脚になっている。鉢は菓子用だろうか。金地には雪割草が描かれており、ポット類や砂糖入れはもとより、12客のティーカップと受け皿もすべて異なった絵柄で、白、青、紫などの花が描かれている。

ウィーン窯・帝立磁器製作所/ 絵付け:アントン・デーリンク、イグナツ・ヴィルトマン《金地花文ティーセット》1815年、硬質磁器

花が描かれた
主な絵画、陶板画

ヤン・ブリューゲル(子)、ヘンドリク・ファン・バーレン《風景の中の聖母子》1626年頃、油彩・板
ヤン・ブリューゲル(子)、ヘンドリク・ファン・バーレン《風景の中の聖母子》1626年頃、油彩・板
ビンビ(本名バルトロメオ・デル・ビンボ)《花と果物の静物とカケス》制作年不詳、油彩・キャンヴァス
ビンビ(本名バルトロメオ・デル・ビンボ)《花と果物の静物とカケス》制作年不詳、油彩・キャンヴァス
ヤン・ファン・ハイスム《花の静物》18世紀前半、油彩・キャンヴァス
ヤン・ファン・ハイスム《花の静物》18世紀前半、油彩・キャンヴァス
ウィーン窯・帝国磁器製作所/絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《白ブドウのある花の静物》1838年、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所/絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《白ブドウのある花の静物》1838年、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所/絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《黒ブドウのある花の静物》1838年、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所/絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《黒ブドウのある花の静物》1838年、硬質磁器
注目ポイント!

上の2作品は、まるで油彩画のようですが、実は陶板に絵付けされた「陶板画」なのです!ぜひ会場で、陶板画作品にご注目ください。

花が描かれた
主な磁器作品

ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)/フェルディナント・エーベンベルガー《金地薔薇文カップと受皿》1798年頃、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)/フェルディナント・エーベンベルガー《金地薔薇文カップと受皿》1798年頃、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所《金地花文花瓶》1828年、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所《金地花文花瓶》1828年、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)/絵付け:フェルディナント・エーベンベルガー、マティアス・シュヴァイガー《薔薇花束文カップと受皿》1795年頃、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)/絵付け:フェルディナント・エーベンベルガー、マティアス・シュヴァイガー《薔薇花束文カップと受皿》1795年頃、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)/ 絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《花籠文カップと受皿》1804年頃、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)/ 絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《花籠文カップと受皿》1804年頃、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)《花文グラスクーラー(リヒテンシュタインのディナー・デザートセット)》1784-87年、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)《花文グラスクーラー(リヒテンシュタインのディナー・デザートセット)》1784-87年、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)/ 絵付け:レオポルト・パーマン《盛花格子文絵皿》1805年、硬質磁器
ウィーン窯・帝国磁器製作所(ゾルゲンタール時代)/ 絵付け:レオポルト・パーマン《盛花格子文絵皿》1805年、硬質磁器
Column

当時のウィーンっ子はお花が大好き!

ヨーロッパにおける花の静物画が独立した分野として成立するのは比較的遅かったのですが、フランツ・クサーヴァー・ペター(1791-1866)やヴァルトミュラーのような画家は、こうした伝統をビーダーマイヤー期まで継続し、オランダ芸術家の描画技法を参考にしていました。特にビーダーマイヤーの美術では充実した花の絵画が特徴になっており、ひとつの流行分野となっていました。18世紀以降のウィーンでは理想的な環境のもと、花を描いた静物画がしっかりと定着していました。それは同地には、地球上のあらゆる場所からもたらされる珍しい植物や庭作りに対する関心をもった様々な階級の人々が存在したからです。植物学に傾倒し、「花の皇帝」とまで呼ばれたオーストリア皇帝フランツ1世(1768-1835)はこうした環境を代表する存在と言えるでしょう。古いネーデルラント絵画の構図を参考にしたビーダーマイヤー期のウィーンで制作された花の静物画は、当時は帝国絵画館だったベルヴェデーレおよびリヒテンシュタイン家を含めたウィーンの上流貴族のコレクションに収められ、そこで盛んに驚嘆され、学ばれ、コピーされていきました。

※「ビーダーマイヤー」とは、19世紀前半にドイツやオーストリアで流行した様式です。復古的なウィーン体制下の閉塞感が漂う社会から目を転じ、市民階級の日常や自然などが主題となりました。造形芸術においては、同時代の習俗が理想化されつつも写実的な表現が特徴です。

作品はすべて、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna