COLUMN
コラム
スキャンダラスでエロティックなポルノクラート これもベルギーらしさの一つ
《娼婦政治家》
フェリシアン・ロップス(1833-98年)のこの代表作は、今日の我々にとっても相変わらず衝撃的である。ロップスにとっての奇想はカトリック教会とブルジョワ社会に対する反発を元にしており、既成の価値観や偽善的なものに対する挑戦であった。そのため作品には当時の最も反社会的なものとして、悪魔的なものとともに裸の娼婦や性的描写が数多く登場する。
裸であることを強調する黒のストッキングに黒の手袋、そしてダチョウの毛のような派手な黒の髪飾りをし、胴に大きな青いリボンをまとったこの目隠しされた女性は、娼婦以外にありえない。空には星が輝き、靴を履いて豚を連れていることから、これが戸外であることがわかり、その非道徳性と官能性はなおも強調されている。宙を飛ぶキューピッドは作者によればこの女性の「昔の恋人たちで、泣きながら去って行く」のだという。足元には、彫刻、音楽、詩、絵画と書かれた擬人像があり、女性と豚は高尚なこれらの芸術を解せず、踏みにじっている。豚とは食べることと交尾することという本能だけしかない者を象徴しており、盛りのついた雌豚としての娼婦のことである。もしもこの作品に特定の題名がなければ、ロップスは頻繁に接していた娼婦という仕事自体を揶揄し、哀れな存在として見ているということになろう。だが《娼婦政治家(ポルノクラート)》(猥褻な政治家)という題名からは、現代の政治家には私利私欲に目がくらんで見えなくなっている者がいることをこの娼婦で表しているということになる。悪魔的なエロティシズムを追求したロップスの作品の中でも、極めてメッセージ性の強い作品である。
本作は1878年制作の原画から同年に版画にされたもので、更に1896年にも版画化された。「僕はこれを、暖房が効きすぎて香りのこもったアパルトマンの青いサテンの部屋で、4日間で完成させた。そこではオポパナックスとシクラメンが、僕にこの作品だけでなく版画も制作してみようという、ちょっとした意気込みも与えてくれた」(友人への手紙1897年)。つまり我々を魅了しつづける本作は、当初から自信作だったのである。
Bunkamura ザ・ミュージアム 上席学芸員 宮澤政男