「ミレー3大名画展 〜ヨーロッパ自然主義の画家たち〜」



 オルセー美術館所蔵のミレーの3大名画《晩鐘》《落穂拾い》《羊飼いの少女》が、日本で初めて一堂に会します。しかも最後のチャンスです。というのは、《晩鐘》は、保存状態の理由から、外国への貸し出しが今後非常に難しくなると予測されるからです。
 ミレー3大名画は、100年以上にわたって世界中の人々に親しまれてきました。その知名度は《モナリザ》《ミロのヴィーナス》に迫るもので、近代文明の生んだもっとも有名なイコンのひとつとなっています。

 本展は、ミレーといえばバルビゾン派という従来の概念をはずし、写実主義・自然主義絵画の創始者のひとりとしてミレーを位置づけなおすことで、ミレーの美術史上の再評価を図ろうとするものです。そのために、ミレーが影響をおよぼした近代絵画の大家たち、ピサロ、セガンティーニ、ゴーギャン、ゴッホ、ピカソの作品なども展示します。ミレーの芸術の幅広く奥深い影響を丹念にたどりながら、近代絵画の核心に迫ることができる展覧会です。

 本展は、ミレーの3大名画を中心として、19世紀ヨーロッパ自然主義の画家たちの作品73点を日本で初めて本格的に紹介します。ミレーを軸として、ヨーロッパの広い地域やピカソの時代を含めて自然主義の流れをたどる本展は、世界初の試みとして注目されています。

 ミレーと自然主義の画家たちは、農民を中心に名もない人々の生活を正面から凝視し、彼らの真摯な生き方を、尊厳を込めて描きました。たとえば、それまでは「男性を誘惑する存在」として描かれることの多かった女性を、たくましい働き手として、人生のパートナーとして描いているともいわれています*。
 本展には日本初公開となるいろいろな国の自然主義の画家による作品が含まれていますが、これらは各国の近代絵画史に大きな貢献を果たした、見ごたえある作品ばかりです。

 本展は、現代の社会の基盤をつくった19世紀の人々がいかに働き、いかに暮らしてきたかを示すことで、「人生の意味」を問いかけるものでもあります。
 そもそも労働や生産をぬきにして、現実の生活を考えることはできません。長期不況にみまわれ、未曾有の危機感がつのる今だからこそ、芸術をとおして昔の人々がどのように生き、働いてきたかを考えることはとても重要です。19世紀の民衆のありのままの暮らしが描かれた作品を目の前にする時、新鮮な刺激とともに、生きる勇気が伝わってきます。

*アレクサンドラ・R・マーフィー「ミレーの新しい見方」より(図録『ミレー展――「四季」ア ース色のやさしさ』日本テレビ放送網/1991年収録)


ページの先頭に戻る
Copyright (C) TOKYU BUNKAMURA, Inc. All Rights Reserved.