WORKS 主要作品紹介

-1章-

ジョン・エヴァレット・ミレイ
《いにしえの夢─浅瀬を渡るイサンブラス卿》
1856-57年 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

ジョン・エヴァレット・ミレイ
《いにしえの夢─浅瀬を渡るイサンブラス卿》

ミレイの画業の初期における最も野心的でロマンティックな一点です。発表の際にはトム・テイラーの詩が添えられ、頼もしい老騎士がどのようにして2人の子どもを馬に乗せたかということがそこに記されていましたが、それ以上の解説はなく、他の一切は観る者の自由な想像に任されています。

ジョン・エヴァレット・ミレイ
《ブラック・ブランズウィッカーズの兵士》
1860年 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

ジョン・エヴァレット・ミレイ
《ブラック・ブランズウィッカーズの兵士》

ブラック・ブランズウィッカーズとは、イギリス・オランダの連合軍と同盟を組んでナポレオンと戦ったプロイセンの部隊です。この絵は戦いの前の晩、兵士と恋人の別れの瞬間を示すもので、恋人たちが別れを強いられるという、ミレイの絵の主要なテーマの一つが扱われています。

ジョン・エヴァレット・ミレイ
《春(林檎の花咲く頃)》
1859年 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

ジョン・エヴァレット・ミレイ
《春(林檎の花咲く頃)》

描かれているのは妻やその妹たちなど身近な人々で、各人物の将来が顔や物腰に象徴的に暗示されています。全体の雰囲気は希望と期待に彩られ、それは瑞々しい春の開花と芽吹きによって示されていますが、画面右側の大鎌の刃は、はかない存在の不吉な象徴となっています。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
《シビラ・パルミフェラ》
1865-70年 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
《シビラ・パルミフェラ》

超越的な「美」の偶像として描かれた玉座に座る女性単身像。シビラ・パルミフェラとはヤシを持つ巫女のことで、ヤシは美の勝利を表します。左側には愛を象徴する目隠しされたクピドと薔薇、右側には死の運命を暗示するポピーと頭蓋骨、そして魂の象徴である蝶が描かれています。

-2章-

アルバート・ジョゼフ・ムーア
《夏の夜》
1890年に最初の出品 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

アルバート・ジョゼフ・ムーア
《夏の夜》

古代ギリシャ風の衣装を身にまとった女性たちが描かれていますが、特定の物語や歴史に取材した作品ではありません。むしろ色や形を巧みに装飾的に組み合わせることによって、絵画的美と女性美を極限まで追求したムーアのこの作品は、当時の唯美主義の典型的作例です。

ローレンス・アルマ=タデマ
《お気に入りの詩人》
1888年 油彩・パネル
© Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

ローレンス・アルマ=タデマ
《お気に入りの詩人》

古代の設定の中で二人の女性が意識的に対比されています。一人はパピルス紙の巻物を熱心に読み、もう一人はクッションになまめかしく身を横たえていますが、半透明の透き通った布地のドレスによって、あるいは布に当たる光の加減によって、共に身体の美しさを見せるように表現されています。

エドワード・ジョン・ポインター
《テラスにて》
1889年に最初の出品 油彩・パネル
© Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

エドワード・ジョン・ポインター
《テラスにて》

この古典的な主題の作品には特定の文学や歴史、地理などの背景があるわけではありません。少女が持つ団扇の上には虫が乗っていて、羽根でそれをもてあそんでいます。遠景はナポリ湾越しに見えるカプリ島を暗示しており、古代世界の倦怠感に満ちた日常のひとこまを描いています。

フレデリック・レイトン
《ペルセウスとアンドロメダ》
1891年 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

フレデリック・レイトン
《ペルセウスとアンドロメダ》

ペガサスに乗ったペルセウスはメデューサ殺害の使命を成し遂げた旅の途中、ポセイドンへの生贄として岩に繋がれたアンドロメダ姫を救出に来ました。ペルセウスの物語はイングランドの守護聖人聖ジョージの神話の対となるものとして、騎士道を象徴するものとみなされ、ヴィクトリア朝の男性は自身をその継承者と考えていました。

-3章-

ウィリアム・ヘンリー・ハント
《卵のあるツグミの巣とプリムラの籠》
1850-60年頃 水彩、グワッシュ・紙
© Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

ウィリアム・ヘンリー・ハント
《卵のあるツグミの巣とプリムラの籠》

鳥の巣や卵を描いた静物画で名声を獲得し、「鳥の巣のハント」と呼ばれた画家の典型的な作例です。籠の中には野生のプリムラとカタクリが生え、地面にはリンゴの花の小枝があります。あたかも戸外で描かれたかのように見えますが、実は異なる要素を組み合わせてアトリエ内で制作されています。

ウィリアム・ホルマン・ハント
《イタリア人の子ども(藁を編むトスカーナの少女)》
1869年 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

ウィリアム・ホルマン・ハント
《イタリア人の子ども(藁を編むトスカーナの少女)》

ハントはパレスチナへの旅の途上、フィレンツェで妻を亡くし、後年その墓の完成のためにイタリアを再訪した時にこの作品を描きました。南方系の少女の肩には、彼女の優しさを象徴する鳩が描かれています。青みがかった遠景はイタリア・ルネサンスの作品の典型的な背景の色を真似たものです。

-4章-

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ
《スポンサ・デ・リバノ(レバノンの花嫁)》
1891年 水彩、グワッシュ・紙
© Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ
《スポンサ・デ・リバノ(レバノンの花嫁)》

『旧約聖書』の「雅歌」を主題とする3mを超える水彩画の大作。花嫁の両側には純潔の象徴である白ユリが咲き、空中には北風と南風の擬人像が女性の姿で表されています。虚ろな眼差しの花嫁には、この画家の作品にしばしば見られる、愛の体験がもたらす喜びと悲しみの情趣が漂っています。

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ
《フラジオレットを吹く天使》
1878年 水彩、グワッシュ、金彩・紙
© Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ
《フラジオレットを吹く天使》

天使がまとう衣の赤と青が翼や背景の沈んだ色調と美しく調和し、中世を思わせるテンペラに似た効果が、格別の優雅さと甘美さを色彩に与えています。さらにフラジオレットという木管の古楽器が、過ぎ去りし時代のモティーフとして、時を越えて作品に独特の情趣を醸し出しています。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
《デカメロン》
1916年 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
《デカメロン》

10人の若い紳士淑女が1人1話ずつ、10日にわたって100の物語を紡ぐボッカッチョの『デカメロン』。美しい庭園で物語に耳を傾ける男女が描かれていますが、どの物語が語られているのかを示すヒントは与えられていません。判断のすべてが鑑賞者の推測に委ねられている唯美主義の傑作です。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
《エコーとナルキッソス》
1903年 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
《エコーとナルキッソス》

ギリシャ神話の美青年ナルキッソスと彼に恋する「こだま」の妖精エコーの物語。ナルキッソスは泉に映る美しい若者が自分の姿とは知らず魅了されてしまいますが、エコーはその傍で彼の言葉をただ繰り返すことしかできません。水辺の草花にラファエル前派流のウォーターハウスの精確な自然描写が見られます。

エレノア・フォーテスク=ブリックデール
《小さな召使い(乙女エレン)》
1905年に最初の出品 油彩・カンヴァス
© Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

エレノア・フォーテスク=ブリックデール
《小さな召使い(乙女エレン)》

英国の民謡に歌われた貞節な乙女エレンは、冷酷な恋人の子どもを身ごもり、彼に召使いのように仕えるも、さげすみを受けるだけでした。エレンは恋人の言いつけに従い、彼が要求するまま嘘をつくため、少年に見られるように隠れて美しい髪を切ろうとしています。手前には脱ぎ捨てられたドレスが描かれています。