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代表的な作品の紹介

トマス・ガーティン 《ピーターバラ大聖堂の西正面》

若かりし頃、ターナーとともに研鑽を積んだガーティンは、水彩画の最も優れた画家のひとりと見なされる。建物の右端と紙の端の間の空間を減らし、大聖堂の側面を狭い範囲に押しこめる構図の本作は、塔が紙の大きさを超えて天に突き上げるように見える。型通りの地誌的景観も独創的なデザインに転化するガーティンの実力を示す作品。

J.M.W.ターナー 《旧ウェルッシュ橋、シュロップシャー州シュルーズべリー》

旧い架橋と、その橋のアーチ越しの背景に見える建築中の新しい橋がたくみに対置されている。崩れゆくものを新しく建設し直す様子をドラマチックに描く本作は、工業化が英国社会にもたらした時代の進歩を思い起こさせる。新しいものと古いものの哲学的な関連が、ここではターナーの興味を惹いたようだ。

J.M.W.ターナー 《アップナー城、ケント》

今日のアップナー城は、歴史的建造物として維持管理され、ケント州では最も保存状態の良いエリザベス朝様式建築の代表例となっている。この水彩画が制作された当時は火薬庫として使用されていたことが、画面右下の大きな流木の脇に描かれたライフル銃で暗示されている。しかし、ターナーの主な関心は、凪の水面に映る光線の印象に向けられた。クロード・ロラン風の落日は、ターナーの会心作のひとつであることは間違いない。

J.M. W.ターナー 《ルツェルン湖の月明かり、彼方にリギ山を望む》

スイスのルツェルン湖の静かな水面に映る月明かりのまばゆい輝きを描いた作品。ターナーは1841年から1844年にスイス中部の各地に足を運んで精力的に制作にとりくみ、この湖の周辺にも滞在した。一日の様々な時間帯の、多様な気象条件下での景観を描いたこの時期の作品を、ターナーの水彩画の最高峰とみなす人も多い。

ウィリアム・ブレイク 『ヨーロッパ』図版1、口絵、《日の老いたる者》

ブレイクは1794年頃に自らの詩『ヨーロッパ、ひとつの予言』の彩色口絵として、本作の下地となる版画を制作した。ブレイクは自らが創り出した神格ユリゼンを想像力の抑圧者、邪悪な暴君として描いている。筋肉隆々としたユリゼンが長い髪をなびかせ、紅に輝く球体から身を乗り出す様はブレイクの晩年の作品の中でも特に鮮烈な印象を残す。

サミュエル・パーマー 《カリュプソの島、オデュッセウスの船出》

ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の挿話に添えた挿絵。オギュギア島を治めていたニンフ、カリュプソは、島で難破したオデュッセウスに恋をし、永遠の命を授けると申し出て彼を引き留めるが、断られる。パーマーは画面の両側から互い違いに面をいくつも配して、鑑賞者の目を前景から遠景へと導く伝統的な方法を採用している。

ジョン・エヴァレット・ミレイ 《ブラック・ブランズウィッカ―》

ブラック・ブランズウィッカーとは、19世紀初頭、ドイツを占領したナポレオン軍を撃退するために募った義勇軍の英国での呼び名。最初に描かれた油彩画は、1860年に展示されると好評を博し、水彩画で描いたものの注文が相次いだ。恋人の身を案じる女性のドラマ性に歴史的な内容をとりあわせたこの絵は、当時の人々の間で大人気となった。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 《窓辺の淑女》

ダンテの自叙伝詩集『新生』(1295年)に主題を得た作品。他人の妻であるベアトリーチェに恋心を寄せたが、彼女を亡くして嘆き悲しむダンテ。悲嘆に暮れながらも、彼を見下ろす窓辺の女性の美しさに心を打たれ、ダンテはたちまち恋い慕うようになる。画家でもあり詩人でもあったロセッティは、本作のように文学作品を絵の主題に取り入れた。1850年代の10年間のほとんどを水彩画制作に費やし、晩年は理想的な女性像を描くことに専念した。