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展覧会構成と主な絵本紹介

プロローグ: 肖像と風景  Prologue: Portraits & Landscapes

1883年、ミュンヘンに移り住み、念願の美術学校で本格的な絵の勉強を始めたクライドルフは、優秀な成績で卒業。続いて美術アカデミーへと進んだものの、学費を稼ぐための無理な生活と最愛の姉へルミネの死という不幸も重なり、体調を崩して南バイエルンのパルテンキルへンで療養生活を送ります。アルプスの大自然に感動を覚えたクライドルフは、自然を鋭敏な感覚で捉え、詳細に描き出しながら、独特な想像力あふれる世界を生み出していきました。
《パルテンキルヘン》 油彩・キャンヴァス
1895年  ベルン美術館   ©ProLitteris,Zϋrich

第1章: 初期の絵本  Early Picture Books

アルプスで静養を始めたクライドルフは、次第に自然の中の小さな生き物たちの世界へと心惹かれていきました。写実的・自然主義的な表現と、空想の世界との間で新しい表現方法を模索していたクライドルフは、絵本の世界に独自の道を見出していきました。
『花のメルヘン』より 《輪舞》 墨、水彩・紙  1898年 ヴィンタートゥール美術館  Kunstmuseum Winterthur, Deponiert von der Schweizerischen Eidgenossenschaft, Bundesamt fur Kultur, Bern, 1904  ©ProLitteris,Zϋrich

処女作『花のメルヘン』 (1898年、邦訳 ほるぷクラシック絵本 1987年)
1894年の11月末のある日、谷間の斜面の陽だまりに季節外れのプリムラとリンドウが咲いているのを見つけたクライドルフは感動して花を摘んで持ち帰ります。 しかしすぐに、花を摘んでしまったことを後悔し花の命が少しでも長く続くようにと花を絵に描きました。このとき花を主人公にした処女作『花のメルヘン』の構想が生まれたといいます。春になって長い眠りから覚める花や生き物たちの喜びの世界は、その後のクライドルフの世界にも繰り返し描かれていきます。

《プリムラ、リンドウ、エーデルワイス》 鉛筆、水彩・紙 1894年 ベルン美術館  ©ProLitteris,Zϋrich   『花のメルヘン』より 《プリムラの花園》 鉛筆、墨、水彩・紙  1898年 ヴィンタートゥール美術館  Kunstmuseum Winterthur, Deponiert von der Schweizerischen Eidgenossenschaft, Bundesamt fur Kultur, Bern, 1904  ©ProLitteris,Zϋrich

第2章:くさはらの中の生き物たち Small Livings between Grasses

バッタも小人クライドルフの大好きな生き物で、いくつもの絵本に様々な役割で登場しています。クライドルフの絵本では、小さな生き物たちの世界が、子どもの経験世界を通して、自然界や日常生活の中で子どもの目と心が慣れ親しんだ世界として取り上げられています。
『バッタさんのきせつ』より 《おくさんたちのボーリング》  水彩、墨・紙  1931年  ベルン美術館 ©ProLitteris,Zϋrich
『くさはらのこびと』(1902年、邦訳 福音館書店 1970年, 2009年、2012年復刊) 
雑誌に投稿した「バッタに乗ったこびとの絵」が不採用になって送り返されてきたのを見たクライドルフは、最初とても驚き、がっかりしましたが、やがて小人とバッタをテーマにしてお話を作ることを思いつきます。個々の情景に詩が添えられた他の絵本とは異なり、一続きの物語が綴られたこの絵本は、高い人気を得て版を重ねました。
『くさはらのこびと』より 《こびとの家》  水彩、墨、グワッシュ・紙  1902年以前  ベルン美術館 ©ProLitteris,Zϋrich

第3章:アルプスの花の妖精たち Flower Fairies in the Alps

花と植物はクライドルフの作品の中で特別な位置を占めています。花の儚さを知り、それを少しでも引き留めたいとの思いが、様々な作品を生み出しました。1920年代にロート・アプフェル社から出版された一連の絵本は、自分の直感と思想を頼りに創作するクライドルフの絵本の特徴をよくあらわしています。
  『詩画集 花』より 《キングサリ》  水彩、墨・紙  1920年 ベルン美術館 ©ProLitteris,Zϋrich
『アルプスの花物語』(1922年、邦訳 童話屋 1982年)
  草花を自由に擬人化することで、自然の本質的なものを描き出そうとするクライドルフの代表的な作品のひとつ。外面的な描写にとどまらず、「花は感じている、ということを感じる」という、自然に対する共感の気持ちや、自然と一体化するクライドルフの姿勢がよく表れています。
『アルプスの花物語』より 《アザミとエリンギウム》  水彩・紙 1918または19年  ベルン美術館 ©ProLitteris,Zϋrich

第4章:妖精と小人-メルヘンの世界の住人たち
Dwarfs and Fairies – Inhabitants in the World of Märchen

第一次大戦の影響で故郷のスイス、ベルンに戻ったクライドルフは、1920年代と30年代をベルンで過ごし、精力的に創作活動を行いました。クライドルフは神話や伝説、さらには童話の登場人物たちを自らの世界に取り入れながらも、自然の力や四季の移り変わりと深く結びついた妖精や小人の物語に新しい解釈を加えることによって、そこに人間社会を反映させて描き出しています。
『花を棲みかに』より 《まま母さん》 水彩、墨、グワッシュ・紙 1924年以前 ベルン美術館 ©ProLitteris,Zϋrich
『ふゆのはなし』(1924年、邦訳 福音館書店 1971年, 2009年、2012年限定復刊)
寒い冬、雪に閉ざされた森や大地の神秘的な世界を舞台にし、白雪姫に会うために、いとこの7人の小人の家へとむかう3人の小人たちを主人公にした素朴な物語。クライドルフはグリム童話から題名や物語を借りながら、空想により独自の物語を生み出しました。
『ふゆのはなし』より 《雪おばけの下で》 水彩、墨・紙  1924年以前  ベルン美術館 ©ProLitteris,Zϋrich
『妖精たち小人たち』 (1929年、邦訳 童話屋 1982年) 草花や虫たちに宿る妖精たちや小人たち―秘密に満ちたミクロの世界では、人間の日常生活に近いできことや冒険の世界が繰り広げられています。
『妖精たち小人たち』より  《復活祭のうさぎ》 水彩、墨・紙  1929年 ベルン美術館 ©ProLitteris,Zϋrich

第5章: 子供たちの教育 Education of the Children

大人の視点からみた道徳的な価値体系に背を向け、子どもの世界と真に向かい合おうとするクライドルフの一貫した姿勢は、同時代の教育改革者からも進歩的であると賞賛され、高い評価を受けました。こうした賛辞は教師たちにも影響を及ぼし、クライドルフの世界が世に認められ、広まっていくひとつの大きな動因となっていきました。死の1年前には、スイス教師協会から児童文学賞を送られています。
『庭の赤いバラ』より 《牛小屋とエンドウの花と実》  水彩、墨、グワッシュ・紙  1925年 ベルン美術館 ©ProLitteris,Zϋrich

エピローグ: 夢と現実の間で  Epilogue: Dreamscapes

夢はクライドルフ自身と作品において、大きな役割を果たしていました。夢の光景は、子ども時代の思い出や身の周りで慣れ親しんだ世界と融合し、クライドルフの詩情にのってさまざまな様相を見せながら、しばしば深い精神世界を表現しています。
『運命の夢と幻想』より 《運命》  ベルン美術館  ©ProLitteris,Zϋrich