ル・シネマ担当が案内する
映画『今宵、212号室で』の舞台 パリ・モンパルナス~その3
2020.07.20 UP
シャンソンの名曲にのせてパリのホテルで繰り広げられる、大人のための軽妙洒脱なラブ・ストーリー『今宵、212号室で』が現在、ル・シネマにて絶賛上映中です。劇中に登場するホテルやバー、映画館などをル・シネマの担当者がご案内します。
©Les Films Pelleas/Bidibul Productions/Scope Pictures/France 2 Cinema
マリアとリシャール夫妻が暮らすアパルトマンは、ホテル・レノックスの真向かいにあり、家出したマリアが居る212号室の窓からは自宅でやきもきするリシャールの姿が観察できます。二つ目の画像は、私が滞在した客室から向かいのアパルトマンを撮影したもの。マリアと同じ2階の客室に陣取れば良かったのですが、もっと上の階の部屋しか予約できず、見下ろす形になっています。ベランダに居る住人と目が合って気まずかったくらいに、近距離です。
マリアたちが住む部屋は、「7 CINEMA」という大きな看板が掲げられた映画館の真上。映画『シェイプ・オブ・ウォーター』の主人公も古い映画館の上階に住んでいましたが、ちょっとロマンがありますよね。オノレ監督も、「主人公たちが映画館の上に住んでいるのは重要なポイントでした。今日、映画というのは演劇性や魔法のような映画というのを新しく生み出すことに成功しているのか?という問いかけも含んでいるのです」と語っています。
この映画館の劇場名は7パルナシアン(Les 7 Parnassiens)。通常の新作も上映していますが、周囲に大型シネコンが多い激戦区のためか、他にない個性的な作品やロングラン上映を組む独特のプログラミングで存在感を放っていると、現地の映画通の知人が教えてくれました。
『今宵、212号室で』は2019年の2月~3月に撮影されたので、劇中では当時上映されていたフランソワ・オゾン監督の『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(仏公開2019年2月20日)のポスターも映り込んでいます。
映画には登場しませんが、ドランブル通り8番には晩年のイサドラ・ダンカンが暮らし、同35番にはゴーギャンが暮らしたホテルもありました。そういった歴史的な場所には、建物の壁に説明プレートが掲げられています。モンパルナス駅はブルターニュ地方への電車が発着する関係で、周辺に郷土料理のガレット(蕎麦粉のクレープ)のお店がひしめいているのですが。ブルターニュで生まれ育ったクリストフ・オノレ監督も、20代半ばでパリにやって来た90年代にこの地域に居を構えました。監督や他のパリっ子も口を揃えて言うのですが、この界隈は古き良きパリの雰囲気が殆ど変わらず残っているのだそうです。モンパルナスの地名は、ギリシャ神話でミューズたちが住み、詩・音楽・学問の発祥の地とされるパルナッソス山(Mont Parnassus)に由来しますし、この映画のように魔法のような出来事が起こってもおかしくない、不思議なチャームがあるロケーションだなと改めて思います。
また、ホテル・レノックスから数分南下するとエドガー・キネ大通りに面したモンマルトル墓地中央門があり、すぐそばに「契約結婚」という独自のスタイルでパートナー生活を送ったジャン・ポール・サルトル(1905-1980)とシモーヌ・ド・ボーヴォワール(1908-1986)のカップルが隣同士で埋葬されています。墓碑にはキスマークがたくさんあるのが特徴ですが、タイミングによっては綺麗に拭かれてしまっていることもあるようです。近くには作家マルグリット・デュラスや、女優のジーン・セバーグのお墓もあります。少し足をのばし、墓地中央ロータリーの「永遠の眠りの守り神」像の近くには、セルジュ・ゲンスブール(1928-1991)の墓も。彼のデビュー曲「リラの門の切符切り」の歌詞の主人公はメトロの駅の改札係なので、それにちなんで、お墓にメトロの切符が供えるのが慣わしです。あとは、『シェルブールの雨傘』の監督、ジャック・ドゥミ(1931-1990)とアニエス・ヴァルダ(1928-2019)のお墓もあり、ドゥミ&ヴァルダ家と刻まれています。時間がなくて探せませんでしたが、マン・レイ、エリック・ロメール、オペラ座を設計したシャルル・ガルニエ一族、モンパルナスのキキ、ソニア・リキエルなど、沢山の著名人のお墓があります。
モンパルナスではありませんが、是非ついでに訪れていただきたいのが、ソルボンヌ大学近くにある老舗映画館シネマ・デュ・パンテオン(Cinéma du Panthéon/1907年開館/5区)。ホテル・レノックスから北東方向、リュクサンブール公園を抜けて20分程度ですから、お散歩圏内です。2008年に女優のカトリーヌ・ドヌーヴとインテリアデザイナーのクリスチャン・サペが装飾を手がけた150平米のサロン・ド・テが映画館上階にオープンし、その空間が程よく力が抜けていて素敵なんです。ドヌーヴの娘キアラ・マストロヤンニが使っていた長テーブルや大きな革のソファがどすんとおいてあったり、映画の小道具が飾られていたり。アルノー・デプレシャン監督やジャック・オディアール監督の作品で知られる製作会社Why Not Productionsが運営しているので、何気なくカンヌ映画祭のトロフィーや賞状も置いてあってびっくりします。映画関係者のパーティーにも使われることが多く、『パリの恋人たち』(2018年)のプレミア後の打ち上げも此処が会場でした。1階にある書店では映画関連の本やポスターを扱っていて、貴重な品も多く、シネフィル垂涎のスポットです。
シネマ・デュ・パンテオン
公式ホームページ / 公式Instagram
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恋がいっぱい。でも、愛は一つだけ。
夫と喧嘩したマリアは、一晩だけアパルトマンの真向かいにあるホテルへ。すると20年前の夫をはじめ歴代の元カレたちがやってきた!?愛の魔法にかかったファンタスィックな一夜が幕を開ける。
『今宵、212号室で』いよいよ7/23(木・祝)までの上映!
作品詳細&上映スケジュールはこちら
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