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2024.02.15 UP

[report]
好奇心を刺激する!オペラ・スペシャル・トーク
開催レポート&ダイジェスト映像

新制作オペラ≪魔笛≫を演出する飯塚励生さんとパパゲーノ役で出演するバリトン歌手の大西宇宙さん。これからのオペラ界を牽引するお二人に、オペラとの出会いや海外でのご経験、そして新制作≪魔笛≫についてお話いただきました。

井内美香(モデレーター) お二人はどのようにオペラと出会ったのでしょうか?

飯塚励生  僕はニューヨーク出身なんですけど、実家がメトロポリタン歌劇場の真後ろだったんです。アパートの4階からメトロポリタンの衣裳部屋や搬入口が見えて“裏庭”という感じだったんですけど、オペラは観たことがなかったんですよね。でも中学生の時に、叔母に連れられてリンカーンセンターにピーター・ブルックの『カルメンの悲劇』を観に行ったんです。それが、刺激的でした。僕も今では『カルメン』を演出することもあるんですけど、色々と影響を受けました。

大西宇宙 僕はもともと小さい頃からピアノを習っていて、中学からは吹奏楽部に入ってチューバをやっていたんです。そこでミュージカルやオペラのアレンジ曲を演奏する機会があるんですけど、高校生の時には『ウエスト・サイド・ストーリー』を演奏したり、テレビで『ジーザス・クライスト=スーパースター』を観て面白いなと思って。言葉と音楽が同時に進行していくことに“すごい”と思いました。こういうものの究極の形って何だろうと思ったら、やっぱりオペラだったんですよね。

 

井内 海外でのさまざまなご経験を経て、オペラの仕事について日本と海外で違うと感じるところはありますか?

飯塚 30年近く通訳、制作、舞台監督、演出助手そして演出家、色々なポジションでオペラの仕事をしてきましたが、オペラが題材ですから基本は同じです。でも、例えば労働組合で言うと、メトロポリタンオペラはアメリカの中でも一番に厳しい。演出助手は衣裳を運んではいけないとか、小道具を動かしてはいけないとか。本来はそれぞれの担当の仕事だから。日本だと通訳でも小道具を運んで舞台にセッティングすることもあるんですけど、その違いが難しいですよね。でも、日本で何でも経験したからこそ海外で仕事する時にオールマイティな感覚が強くなりましたね。

大西 僕が一番最近感じるのは、海外の人たちは“失敗を恐れない”感じがあると思います。日本ではどうしても予定調和や正しいことをやっていこうとしちゃうんですけど、海外に行くと色々と新しいことを試したりするんですよね。いちいち「ここに動いて」とか言われなくても、自分はこのキャラクターだったらどうするかなと考えて試していく。このオペラを通して何を伝えたいのかをみんなで探り合うクリエイティビティがあると思います。もちろん日本でもそういう考え方をお持ちの方もいらっしゃると思いますけど。

 

井内 すごく大事なことですよね。大西さんは多くの言語をすばらしい発音で歌われていますが、その多言語性はどうやって培われたのでしょうか?

大西 留学先をニューヨークに決めた理由として、色々な言語の歌を色々なスタイルで歌えるようになりたいというのがありました。例えばジュリアードでは、年間通してすごく多様な曲を歌います。もちろんモーツァルトのダ・ポンテ三部作や、ちょっと変わったものだとフランス語でマスネの『サンドリヨン』、英語で『ルクリーシアの凌辱』とか。また、シカゴでデビューした『ベル・カント』ではペルー人の神父の役だったんですけど、ラテン語、英語、そして別の役のカバーでスイス系ドイツ語などを歌いました。それだけディクション(発音)を教えられる先生がいるということなんですよね。様々な言語をネイティブに話すディクションコーチから毎週訓練を受けていました。

井内 歌うための言語を歌手に教えるプロがいるということなんですね。

大西 今朝もドイツ語のディクションコーチのところに行ってきました。『魔笛』のパパゲーノは歌だけじゃなくダイアログ(台詞)がけっこうあるのでチェックしてもらってます。僕は完璧主義みたいなところがあるので(笑)、ディクションコーチと楽譜をにらめっこしながらやってます。

 

井内 Bunkamuraの新制作≪魔笛≫についてお聞きします。このカンパニーは、海外と日本で活躍する最高峰の歌手と、さまざまなフィールドで活躍しているクリエイターが集結した特別な公演ですが、どのようにクリエイションしているのでしょうか?

飯塚 まず鈴木優人マエストロと一緒に衣裳デザインの高橋悠介さんのパリコレのファッションを見させていただいて、≪魔笛≫という作品のコンセプトについて話し合いながら進めてきました。
クリエイターのみなさん色々な場所にいますから、Zoomミーティングはたくさんやりましたね。日本画家の千住博さんは音楽をよくわかっていてオペラもお好きなので、色々なことを議論しました。舞台では彼のビジュアルのコンセプトがあって、ムーチョ村松さんがそれを活かすという感じになります。今日もお二人と打ち合わせをしてきましたし、先週は会場のめぐろパーシモンホールで映像テストを行いました。お互いの経験をシェアして舞台を創っているという感じです。

 

井内 大西さんはパパゲーノ役のオファーを受けた時にはどう感じられましたか?

大西 パパゲーノは意外とやったことなかったな、という感じでしたね。バリトン歌手はやっぱり悪役が多いんですけど、皆さんご存じの通り僕はわりと能天気で楽観的なので(笑)、むしろ素の部分が出てくるのかな。パパゲーノを演じるにあたって大事なのは、初演したシカネーダーが役者であってオペラ歌手じゃなかったというところですよね。自分で台本を書いて、自分でパパゲーノを演じた。なので歌い込むというよりむしろ言葉遊びや演劇的要素が強いです。僕はもともと演じることが好きなので、今までと違うキャラクターは演じ甲斐があって楽しみです。

井内 お二人はモーツァルトの魅力はどんなところに感じますか?

飯塚 モーツァルトはすごくコミカルな人なんですよね。『フィガロの結婚』にしても『ドン・ジョヴァンニ』にしても『コジ・ファン・トゥッテ』にしても。演出家として自分のジョークを入れるよりも、モーツァルトを信じてそのままやった方がウケる。それがすごいなと思います。楽譜に書いてあることを信じれば90%成功。30年かけてそれが分かりました。『魔笛』は1791年初演ですけど、ここまで長く人気が続くのはそういうことなんじゃないかなと思います。

大西 モーツァルトは、キャラクターに対する愛情が深いと感じます。例えば、パパゲーノはある意味愚かしいというか、臆病で自分の欲望に正直な部分がありますけど、モーツァルトがそれを人間愛の音楽で包んであげている気がするんですよ。ドン・ジョヴァンニにしても『フィガロの結婚』の伯爵にしても、よこしまなところがありますけど、“人間だからそういうところもあるよね”とモーツァルトの美しい音楽が肯定してくれる感じ。そして、最後は大団円のハッピーエンドで終わる。人類愛が溢れている作曲家なのかなと思います。

トーク全編のアーカイブ配信では、さらに詳しいお話や今後のオペラ界に対する期待など、お二人の熱いトークをお届けします。配信は決まり次第お知らせいたします。どうぞお楽しみに!

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