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2026.03.12 UP

[report]
Bunkamuraオープンヴィレッジ  
鑑賞体験会ナビゲーターによる振り返り座談会

Bunkamuraオープンヴィレッジでは、年間を通じて学生を対象に「学び」と「体験」をテーマとし、3つの芸術ジャンルで鑑賞体験会を提供してきました。 
今回、各鑑賞体験会で基礎知識や魅力を伝えてくださったナビゲーター3名にお集まりいただき、座談会形式で活動を振り返りながら、取り組みに対しての気づきやご意見を伺いました。

▼座談会メンバーについて 

根本卓也(指揮・チェンバロ・作曲)
オペラ鑑賞体験会ナビゲーターを担当

[プロフィール]
東京藝術大学大学院修士課程(指揮専攻)修了。故・若杉弘氏に、あらゆる舞台作品を原語で解する類稀な才能を見出されキャリアをスタート。以来、新国立劇場オペラ部門音楽スタッフとして年間を通して公演に寄与する傍ら、東京二期会・OMF・Bunkamuraのオペラ・シリーズ等、多岐にわたり活躍。

 

 

 

小室敬幸(音楽ライター) 
クラシック音楽コンサート鑑賞体験会ナビゲーターを担当

[プロフィール]
東京音楽大学付属高校と同大学で作曲を学んだ後、同大学院では音楽学を専攻。修了後は東京音楽大学の助手と和洋女子大学の非常勤講師を経て、現在は桐朋学園大学 非常勤講師を務めながら、フリーランスの音楽ライター。クラシック音楽、現代音楽、ジャズ、映画音楽を中心に曲目解説やインタビュー記事などを執筆している。

 

 

 

富永明子(編集・ライター/『バレエ語辞典』著者)
バレエ鑑賞体験会ナビゲーターを担当

[プロフィール]
5歳からクラシックバレエに親しみ、日本大学大学院芸術学研究科舞台芸術専攻修了。編集プロダクションを経て、株式会社リクルートにてフリーマガジン「R25」「L25」編集部に所属。2010年に独立。クラシックバレエを中心にわかりやすく解説した書籍やインタビュー記事を手掛ける。

 

 

 

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ナビゲーターの視点で鑑賞体験会を振り返る

──昨年(2025年)、3回にわたって実施した鑑賞体験会では、毎回内容をブラッシュアップしながら取り組んできました。まず、初回のオペラ鑑賞体験会〈探究・制作裏側体験〉をテーマにプログラムを組み、公演鑑賞前後のプログラムに加え、リハーサル見学もおこないました。ナビゲーターの根本さん、実施内容を振り返っていかがでしょうか?

もっとあなたとオペラをつなぐ
特別プログラム付き《ドン・ジョヴァンニ》鑑賞体験会

テーマ:探究・制作裏側体験
実施日数:計4日/鑑賞前プログラム、リハーサル見学2日(希望者のみ)、公演鑑賞、鑑賞後プログラム


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根本(オペラ):このお話をいただいた前年に、制作過程やプロセスを伝えていくことの重要性を伺う機会がありました。実際に関わっていた公演でも、お客様に対してリハーサルやゲネプロなどの裏側まで公開し、レクチャーもおこないながら、参加者それぞれがアンバサダーになり発信してもらうという内容に取り組んだ直後でした。

ですから、今回の鑑賞体験会も前提となる知識をレクチャーするだけでなく、リハーサル見学も含め、実際にオペラの舞台が幕を開けるまでのタイムスケジュールから、表舞台を支えるために協働している人たちの仕事、さらにはちょっと際どいお金の話まで、知ってもらうことに重きを置きました。ほかのところでも同様ですが、オペラがどうやって組み立てられるかという話はすごく反応がいいんです。それらを知ることで、舞台業界に関わりがない人でも、どこかに自分と関わりあうテーマを見つけられることが大切なのだと思います。今のご時世、作品の下調べはインターネットなどで簡単にできますが、舞台の裏側は分からないですからね。感想を見ても反応がよかったですよね。

 

──ありがとうございます。続いて実施したのは、クラシック音楽鑑賞体験会でした。第1回目のあと、参加した学生さんたちから「もっと交流したい」という声があったため、テーマを〈探究・交流〉とし、参加者が交流しやすいプログラムへと変化させました。ナビゲーターの小室さん、いかがでしたか?

もっとあなたとクラシック音楽をつなぐ
特別プログラム付き《N響オーチャード定期》鑑賞体験会

テーマ:探究・交流
実施日数:計2日/鑑賞前プログラム2回、公演鑑賞、鑑賞後プログラム


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小室(クラシック音楽)
事前に教えていただいた参加者属性にあわせて、鑑賞前のプログラムでは哲学や美学の背景、クラシック音楽とその他の音楽との違いについてお伝えしながら、なぜ今の時代にクラシック音楽を聴く意味があるのかを考えてもらおうと思いました。親しみづらいクラシック音楽に近づけるきっかけになればと考えたからです。
それからコンサートで鑑賞する楽曲に共通する“ラテン・アメリカ”をテーマに、ラテン・アメリカ経由で生まれたクラシック音楽の歴史的なつながりについてレクチャーしました。また参加者には、今回鑑賞する舞曲のジャンルである、ジャズダンス、マンボ、チャチャなどについての課題を事前に出し、鑑賞当日に発表するという能動的な学びの機会も用意しました。

これらの鑑賞前の取り組みがなければ、それぞれの知識量や経験値にも差があり、なかなか足並みはそろわなかったかもしれません。でも今回は活動を通して参加者同士が同じ目線で同じ経験(鑑賞)ができたため、鑑賞後におこなったワークショップのなかで、彼らが何に興味を持ち、何を課題と感じたかが明確になったと思います。質疑も多く、参加者同士の交流も活発でした。

 

──続いて3回目に実施したのは、バレエ鑑賞体験会です。参加者同士のつながりをより深めるため、ここではテーマを〈交流〉とし、数日のプログラムを1日にまとめました。ナビゲーターの富永さん、どのように感じましたか?

もっとあなたとバレエをつなぐ
Meetup&Workshop付き《くるみ割り人形》鑑賞体験会

テーマ:交流
実施日数:計1日/鑑賞前プログラム、ランチ交流会、公演鑑賞、鑑賞後プログラム


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富永(バレエ)
今回は〈交流〉がテーマということで、私が何かを教えてあげるというより、一緒になってワイワイ話し合うトーンがよいのではと感じました。参加者が女性だけだったので、女子会のなかに紛れるようなイメージですね。
ただ、初めてバレエをご覧になる際に「お話がわからない」と観てくれないことが多いので、事前にあらすじを配布して読んできてもらいました。
公演当日、鑑賞前にバレエの大まかな歴史や特徴などを軽くレクチャーしましたが、印象深いのはランチ交流会です。食事をしながら「トウシューズって痛いんですか?」「Kバレエってどれくらいすごいんですか?」など、ざっくばらんな質問が続き、バレエに対する期待を高められたように思います。

さらに参加者同士は、鑑賞前プログラムの会場から劇場まで移動しながら、学校や就活についてなどバレエ以外の話もしながら交流を深めていましたね。その流れもよかったです。
仲が深まった状態で鑑賞できたからか、鑑賞後のトークでは「こんなことを聞いたら恥ずかしい」という雰囲気がまったくありませんでした。私はその場で出てきた疑問を解決する役で参加しましたが、教えてあげる・もらうという関係性はなく、非常に温かい場になったと思います。

 

興味・関心とつながる鑑賞の広げ方

──ありがとうございます。次に、参加者がとくに興味を持っていたところや響いていたと感じる点ついて教えてください。

根本(オペラ)
オペラの鑑賞前プログラムでは〈探求〉が盛り上がりましたね。オペラは二次創作であることが多く、今回の題材となった『ドン・ジョヴァンニ』も最初は神父が創った教訓劇で、そこから200年くらいかけて二次創作されてきたという、文学的な面白さへの興味関心もあったように思います。「ドン・ファン」という言葉が、色男の代名詞となっていく過程にも興味を持ってもらえましたね。
あとは、先ほどもお伝えしましたが裏話的な部分にも関心が高かったです。創作現場の人間としては、それぞれ半々で興味を持ってもらえたらいいかなという気持ちがあります。

 

──オペラの回では根本さんは鑑賞後プログラムに参加されていませんが、参加者からはさまざまな意見が出ていて「推しの役を見つけた」「演出に注目できた」という意見のほかに、「字幕に表示される文字数と発語されている言葉の数が違う」なんて参加者もいました。

根本(オペラ)
そういえば、鑑賞前のプログラムで“読み替え演出”の話もしましたね。プロット※通りではない作品もあることを事前に伝えられたのはよかった。台本を読んだときのイメージと視覚的情報が一致しないと、それが鑑賞時の障害になりやすいので、そこをどう取り払うかが大切なのですよね。

※プロット:作品の台本や筋書きのこと。

小室(クラシック音楽)
たしかにオペラは演出によってだいぶ違いますよね。原作がわかっていないと演出の面白みが分からないことがあります。

根本(オペラ)
そうですね。オペラというものを、演出家がさらに二次創作している側面があります。

小室(クラシック音楽)
コンサートの鑑賞体験会では、今回聴いた曲目のなかに『ウエスト・サイド・ストーリー』があって、何も知識がないと「ミュージカルじゃないの?」と思ってしまいますよね。でもクラシック音楽はこれまでさまざまなものを取り入れ、融合してきたジャンルです。クラシック音楽といえば“ベートーヴェン”や“モーツァルト”だけではないということは、感じ取ってくれていたのではないでしょうか。その幅広さを伝えられていたら嬉しいです。
鑑賞後のプログラムでは「聴く」という行為について興味を持つ参加者が多かったですね。「知識がなくても、いい演奏かどうかを判断できるのか?」「何を持って良し悪しを判断しているのか」といった、聴き方についての話が盛り上がりました。

富永(バレエ)
バレエの鑑賞後プログラムでの対話では、「バレエって意外とお芝居なんですね」という声が多かったです。ミュージカルのサークルに所属している学生さんがいらしたこともあり、ミュージカルやフィギュアスケートとの共通点を挙げる方もいました。自分が生きている世界とバレエとの間に、意外と共通点が多いと感じたのかもしれません。
私はみなさんがディヴェルティスマン※で飽きてしまうのではと心配していたのですが、面白かったという声が多かったのは意外でした。ひとつの作品を観に行ったのに、アラビアや中国など、独特な音楽や踊りも観られて、お得な気持ちになれたという意見はユニークでしたね。

※ディヴェルティスマン:『くるみ割り人形』をはじめ、古典バレエにたびたび登場する、物語とは関係なく挿入される踊りの場面。民族舞踊をベースにした踊りであることも多い。

 

──聞かせてくださった意見を踏まえて、若い世代や鑑賞初心者の方にとってどのような点が文化芸術との出会い方のポイントだと思いますか?

根本(オペラ)
文化芸術と出会ってもらうには、ふたつのステージがあるのではと思いました。
ひとつめは知的に興味を開発すること。特に知的好奇心が強い層は、ひとつを知るとその周辺を探りたくなる習性があるので、それぞれが関心を深められる機会をつくる。
次の段階として、仲間をつくれる環境も必要です。劇場にひとりで行く人のほうが少数派で、大半は誰かと連れ立って行きますよね。

小室(クラシック音楽)
私は映画音楽の仕事をする際に、映画とバレエの関連性について話すことがあります。たとえば、サイレント映画は役者の芝居と音楽だけで物語を展開していたわけで、それはまさにバレエと同じですよね。だからバレエを知っておくと映画音楽をより深く理解できる。そんなふうにジャンルは違うけれど実はつながりがあって、ジャンルを飛び越えることで理解度が深まるものってけっこうあります。だから、その人が好きなジャンルと関連する、もうひとつ別のジャンルを見つける機会があってもいいかもしれません。

富永(バレエ)
別ジャンルなのに同じ題材を扱っていたり、同じ音楽だけれど違う作品だったりと、ジャンルを飛び越えたからこその楽しみ方はある。誘導の仕方次第では、鑑賞初心者の方は柔軟にジャンルを飛び越えてくださるのではないかと思います。

 

3人のナビゲーターがオープンヴィレッジの未来を語る

──今後、オープンヴィレッジのなかでどんな場があればいいと思いますか? 

根本(オペラ)
まずは誰でも気軽に参加できる場をつくることが大切だと思います。興味はないけれど連れてこられて参加したら意外と面白かった、という状況をつくるしかない。そのためには、オープンヴィレッジの場自体が魅力的であることも必要ですね。
最初に魅力的な場をつくって、魅力的な人が集う状況さえあれば、あとは知的好奇心をかき立てることは我々がやるので、前提となる場づくりが必要になってくると思います。

富永(バレエ)
根本さんがおっしゃる場づくりの「場」はオンラインという手もあるなと。たとえばDiscordなどに複数人が集まれるプラットフォームをつくって、まずはオンライン上のサークルに参加してもらい、時々オフ会的にオープンヴィレッジのイベントをやる。当然それに参加しない人もいるわけですが、受講した参加者たちが感想を書き込むことで「次は行ってみようかな」という気持ちにさせて、少しずつリアルな参加者を増やしても。

小室(クラシック音楽)
今回、私はラテン・アメリカの音楽をテーマにしましたが、ラテン・アメリカの語学や文学を学ぶ人にもぜひ知っておいてほしい内容でした。そんなふうにテーマと関連している学生や参加者が来てくれれば、彼ら自身がすでに持っている情報と関連づけて、より探究を深めていけると思います。

根本(オペラ)
私たちがこれまで話してきたことは、全部つなげられると思いますよ。場をつくって参加者を呼び込んで、鑑賞後プログラムで交流をはかり、今後も舞台鑑賞を続けそうなコアとなる参加者とつながっていくことがとても大切だと思います。一連の流れを全部つなげたら、鑑賞者にとって素晴らしい場がきっとできますよ。

 

──今回の座談会やこれまでの鑑賞体験会を通して、どのような場づくりをおこなっていくのがよいのか、考える糸口が得られたように感じています。本日は貴重なご意見、ご感想をありがとうございました!

 

Bunkamuraでは、今後も文化芸術との新たな出会いが見つかる「学び」と「体験」の場を提供してまいります。
どうぞご期待ください。