今年30周年を迎えたBunkamuraでは、2020年の生誕250周年に先駆けて、ベートーヴェンの3つの作品が披露される。それは、小山実稚恵が弾くピアノ・ソナタ第28番、大野和士指揮/バルセロナ響の交響曲第9番「合唱付」、パーヴォ・ヤルヴィ&N響のオペラ「フィデリオ」。各々がベートーヴェンにとって重要な意味を持つ、エポックメーキングな作品だ。
ドイツのボンに生まれ、ウィーンで活躍した古典派の巨匠ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)は、耳の病を強い意志で克服し、パッションとパワー漲る名作を多数発表。後期には内面的で深い境地に到達し、後世の巨大な指標となった。
ベートーヴェンは、宮廷や教会に従属しないフリーランスの立場を貫いた史上初の大作曲家だった。それゆえ自己の芸術的な欲求を作品に反映させながら、“自由”と“理想”を終生に亘って希求した。今回耳にする3作には、それが顕著に表れている。
“後期”の始まりとなったピアノ・ソナタ第28番は、自身の楽器で形式や表現の自由を追求した、いわばインティメイトな理想の精華、交響曲第9番は、交響曲への声楽の導入という自由な発想で“人類愛や協調による平和”という理想を謳い上げた記念碑的傑作、オペラ「フィデリオ」は、執拗な改訂の末に“人間の開放”“自由の獲得”という理想を明示した渾身の作である。
これら3作を聴くことで、クラシック音楽の象徴たる作曲家の“理想”を端的に知ることができる。その体験はまた、現代の社会情勢においてすこぶる意義深く、何より無条件に感動的だ。