N響オーチャード定期

2022-2023 SERIES

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ケリ-リン・ウィルソン

ケリ-リン・ウィルソンさんにメール・インタビューし、今回のプログラムや、ウィルソンさんが立ち上げたウクライナ・フリーダム・オーケストラについてうかがいました。
(ウィルソンさんのバック・グラウンドについては前回のインタビューをご覧ください)

まず、プロコフィエフがどうしてお好きなのですか? 「ロメオとジュリエット」はいかがですか?
私の最も幼い頃の音楽的な記憶の一つに、リビング・ルームでセルゲイ・プロコフィエフのバレエ音楽を踊っていたというのがあります。私は、彼のカラフルな管弦楽法、脈動するリズム、そして舞い上がる旋律線に魅了されました。「ロメオとジュリエット」は、私の身振りで、つまりダンス!で、音楽を振り付けているので、彼のすべてのオーケストラ作品のなかでも大好きなものとなっています。
ヴァイオリニストのHIMARIさんとは初共演ですね。
HIMARIさんと会って、一緒に演奏することを楽しみにしています。彼女は、滅多にないような能力と、たいへんな技巧を必要とするパガニーニの協奏曲のような作品を演奏する音楽的成熟とを持ち合わせた、傑出した若い才能です。
チャイコフスキーの「イタリア奇想曲」の魅力は何ですか?
私は、このオーケストラのための描写的なポートレートでのチャイコフスキーのイタリア精神の捉まえ方が大好きなのです。この曲では、チャイコフスキーがローマを訪ねたときにとても好きになった、イタリア民謡の音、街角の歌とともに、カーニバルのエネルギーや情熱を目一杯感じることができます。最も印象的なオープニングのトランペットの吹奏は、チャイコフスキーがホテルで耳にしたイタリアの騎兵の連隊が奏でる軍隊ラッパのようです。
今回のコンサートのテーマは「イタリアの幻想」ですが、ご自身のイタリアでの思い出を教えてください。
私もイタリアが情緒的に大好きなのです。私がヨーロッパ・デビューをしたのがヴァチカンでのガラ・コンサートでしたし、オペラのデビューはヴェローナでした。私がオーケストラ・デビューをしたのはカリアリでした。そして、個人的な思い出といえば、私は夫とサルデーニャ(サルジニア)で結婚式を挙げたのでした。
昨年、ウィルソンさんが立ち上げられ、欧米のツアーで大成功を収めたウクライナ・フリーダム・オーケストラについてお話ししていただけますか?
私は、ウクライナ・フリーダム・オーケストラの創設指揮者であり、音楽監督であることをとても誇りに思っています。プーチンがウクライナに侵攻した日、私は怒り、不安で一杯になり、すぐにこの蛮行に反対するために何かをしようと決めました。私が、ウクライナ系カナダ人であり、ウクライナにはいとこたちがいて、そのうちの何人かが今も境界線のドンバスで戦っているからだけではなく、ウクライナとその文化への急襲には何かで応えなければならないからです。私は、ニューヨークのメトロポリタン・オペラの総支配人である夫のピーター・ゲルブとロンドンにいました。私たちは、できることをやり始めました。私は兵器を取ることはできませんでしたが、私の武器として指揮棒を取ることはできました。メトロポリタン・オペラがこのツアーのベースとなり、戦時における音楽の力を示し、ウクライナの芸術的なコミュニティと攻め込まれた市民の意気を高めるために、私たちは始めたのでした。
ウクライナ・フリーダム・オーケストラは、プーチンの蛮行に対する一度限りの反対行動のつもりでした。しかし、ツアーを通じて、私たちが受けるサポートの本当の重みや音楽家たちが示した才能や情熱によって、今、このオーケストラを終わらせることは私たちが義務を怠ることを意味するであろうと、私たち全員がはっきりとわかりました。ですから、私たちは、この夏の新たなツアーに向けて、ウクライナ・フリーダム・オーケストラを再編成する計画を近々発表します。私の最も深い希望は、このオーケストラが、ポーランドやイギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、などなどのホールに優美に現れるだけでなく、いつかある日、でもそんなに遠くない日、ウクライナその国のホールに登場し、早く祖国に帰ることなのです。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)