N響オーチャード定期

2021-2022 SERIES

117

ケリ-リン・ウィルソン

今回、N響と初共演する、指揮者のケリ-リン・ウィルソンさんにメールでインタビューしました。

©Olivia Kahler

どのようなきっかけで指揮者になったのですか?
私は、音楽一家の出身で、幼い頃にピアノを始めました。8歳のとき、父のユース・オーケストラに入り、フルートとヴァイオリンを演奏していました。父は指揮者でした。指揮をしている父を見ていて、ひらめいたのです。「私もいつか指揮をしたいなあ」と密かに思いました。
でもそれが実現するとは思っていませんでした。ジュリアード音楽院で、修士課程のためにフルートを学んでいるときは、結局はオーケストラ・プレーヤーになるだろうと本当に思っていました。でも自分がもっとヴェルディやワーグナーを勉強することに興味を持っていることに気づいてから、私はフルートを練習しませんでした。私は、オーケストラのリハーサルにいるとき、スコア(総譜)全体を追うことにより興味を持つようになり、自分のフルートのパートにはますます関心がなくなっていました。私の学生仲間の一人が「ジュリアードの指揮科の選考試験を受けてみたら?」とたずねました。それで私は、「そう、それが私のやりたいこと」とひとりごとを言っていました。
そのときが私のジュリアードでの最後の年となるはずでしたが、そうではなく、私は指揮科の選考試験のために勉強し、合格しました。そしてもう4年間をジュリアードで過ごし、指揮者になるための勉強をしました。私は、ピアノやヴァイオリンはまだ弾きますが、フルートを触ることはもうありません。
新型コロナウイルス感染症が拡大し、世界中で演奏会が中止となりましたが、ウィルソンさんは、その間、どのように過ごしていましたか?
パンデミックが始まり、演奏会の日々がぱったりとなくなって、突然、私はいつも気になっていた楽譜の勉強をするための時間を持つことができました。私はいつも働いていたり準備していたりしないではいられない人間です。それで私は、自分の時間を、私を悩ませ、興奮させるスコアの探求に集中することにしました。
指揮者として、私は聴衆のみなさんと触れ合いたいと思っています。ロックダウンで指揮ができなくなってから、作曲家たちや彼らのインスピレーション(彼らが文章として書いたものや彼らが関わった画家を含みます)への私の洞察をシェアすることによって、人々とつながることができて、元気が出ました。そういうことにエネルギーを向けましたね。また、近い将来に指揮したいと思っているワーグナーの「ニーベルングの指輪」の勉強にも時間を費やしました。
好きな交響曲とオペラを教えていただけますか?
交響曲のレパートリーでは、ショスタコーヴィチ、マーラー、ベートーヴェン、プロコフィエフ、ブラームスですね。オペラでは、チャイコフスキー、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニ、ショスタコーヴィチ。
交響曲での私のベスト5は、ショスタコーヴィチの第10番、マーラーの第9番、ベートーヴェンの第9番、チャイコフスキーの第6番「悲愴」、ブラームスの第4番です。
オペラのマイ・ベスト5は、ショスタコーヴィチの「ムツェンスク郡のマクベス夫人」、チャイコフスキーの「スペードの女王」、ムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」、ヴェルディの「ドン・カルロ」です。
ウィルソンさんは、2014年の新国立劇場での「蝶々夫人」を指揮されましたね。そのとき、日本で指揮して感じたこと、そして、今回のN響との共演について、お話ししていただけますか?
私は日本で指揮することが大好きです。聴衆のみなさんが、クラシック音楽に情熱を持ち、よくご存じですから。日本のみなさんが集中して熱烈に聴いてくださることに感銘を受けますし、それによって、私は指揮するのにすごく励まされます。 私は素晴らしいNHK交響楽団を指揮するのをとても楽しみにしています。マーラーの美しい交響曲第4番とヨハン・シュトラウスIIの祝祭的な音楽をN響と演奏することは、私にとって日本の新年への特別なデビューとなります。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)

※第117回に出演を予定しておりましたケリ-リン・ウィルソンは、政府による「オミクロン株に対する水際措置の強化」により、このたびの来日が困難であると判断いたしました。以降の公演で、改めて出演を調整しております。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。