N響オーチャード定期

2022-2023 SERIES

122

沼尻竜典

1991年の「若い芽のコンサート」以来、NHK交響楽団との共演も30年以上にわたる沼尻竜典さんに今回の「ウィーンのニューイヤー」の聴きどころをうかがいました。

まず、沼尻さんにとってのウィーンの思い出を聞かせていただけますか。
私はベルリンに留学していたのですが、ウィーンは食べ物もおいしいし街も綺麗で、日本からの友人もいっぱいいて楽しそうで、ベルリンからウィーンに行くと花が咲いたような華やかさを感じました。ウィーン・フィルの演奏会に行ったり、リハーサルに入らせてもらったりしたのが一番の思い出ですね。
あと(ウィーン国立歌劇場音楽監督を務めていた)小澤(征爾)さんと、一緒にスパゲティを食べに行ったり、寿司屋に並んだり、という思い出もあります。2004年に名古屋フィルとウィーンのコンツェルトハウスでメシアンの「トゥランガリラ交響曲」を演奏したときに、小澤さんはゲネプロに来て激励してくださいました。
今回のプログラムについてお話ししていただけますか。
“ウィーンとN響”にこだわったプログラムです。
リヒャルト・シュトラウスのオペラ「カプリッチョ」は全曲を指揮したことがありますが、六重奏曲はオペラの冒頭で演奏されます。オリジナルは弦楽六重奏ですが、今回は弦楽合奏版で演奏します。今のN響の弦楽器奏者たちは、若くて、すごい高性能で、昭和風に言えば、スーパーカーのようです(笑)。
「ばらの騎士」は、ワルツあり、コメディあり、ウィーンのエッセンスが溢れるオペラ。これも全曲を指揮したことがあります。組曲はオペラの美味しいところばかりが入っていますが、オペラの組曲でも、抜粋でも、アリアだけでも、指揮するときは、全曲をやっている方が良いんですよ。どういう場面で演奏されていて、どういうテンションなのかがわかって。そういう自分の経験もいかせればと思います。
また、N響とは昨年、フランツ・シュミットの交響曲第2番を演奏しましたが、「ばらの騎士」のような非常に複雑なスコアでも、N響の機能性なら、R.シュトラウスが本来意図したオーケストレーションの妙が、最高級のプリンターのように鮮明に表現できると思います。「ばらの騎士」組曲は、N響だからこそ、聴いていただきたい作品です。
ソプラノの砂川涼子さんやテノールの宮里直樹さんが歌う、オペレッタの名曲も楽しみです。
日本のトップ・クラスのソプラノとテノールですから、オーチャードホールの3階の隅の席まで声がよく届くに違いありません。
宮里さんのお父様は、N響でヴァイオリンを弾いていた方で、学生時代、N響でピアノ奏者として出演していたことがあり、席が近かったんです。そして、たまたま彼がN響で出演する最後の演奏会を指揮したので、花束をお渡しした思い出があります(笑)。
今回は、オペレッタのヒット・ソングを集めています。レハールの音楽は、「メリー・ウィドウ」が有名ですが、誰でも歌える旋律が魅力的で、その旋律を口ずさみながらコンサートから帰れるのがいいところですね。
「こうもり」は、大晦日のお話で、序曲はニューイヤー・コンサートにはぴったりです。
そのほか、「美しく青きドナウ」、「天体の音楽」などのワルツも演奏されます。
「美しく青きドナウ」は、音大の指揮科の課題にもなる定番中の定番で、とんでもなくよくできている曲です。ワルツは一振りで3拍を示します。2拍目が少し速めに来るのがウィーン流ですが、外国人がへたに真似をするとかえって変なことになりがちです。でも今どきは、オーケストラの皆さんもウィーンに留学した人も多いし、子供の頃からウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを聴いたりしているので、知らないうちに雰囲気が身についていて、自然にそうなります。
「天体の音楽」は、ヨーゼフ・シュトラウスの作品で、お兄ちゃん(ヨハン)に負けない才能を感じます。ヨハンとはちょっと味が違いますね。
最後にメッセージをお願いいたします。
ソリストのそれぞれの良さやN響の良さを最大限にいかせるようにプログラムを練り、お客さまには、新年の気分を味わいつつ、肩の力を抜いて聴いていただけるような曲を選びましたので、どうぞお楽しみください。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)