N響オーチャード定期

2021-2022 SERIES

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原田慶太楼

コロナ禍のなかもアメリカと日本を行き来する原田慶太楼さん。帰国直後、隔離中のマエストロにオンラインでインタビューしました。(1月26日)

©Shin Yamagishi

1月のN響定期公演を振ったばかりですが、その感想は?
ストラヴィンスキーの「火の鳥」は、N響でも1910年版(バレエ全曲版)は弾いたことがある人が少なく、オーケストラのやり方が固定されていないため、リハーサルの時間もたっぷりいただけて、自分が絶対やりたい物語の語り方、ニュアンス、ハーモニーのバランスなど全部自由にやらせてもらい、自分の表現したい音楽が作れて、むちゃくちゃ楽しかったです。2回本番があると、自分は1日目と2日目では違うことをしますが、彼らはそれに楽しくついてきてくれるし、終わったあとも「面白かった」と言ってくれます。その瞬間の違うことに常に対応してくれるオーケストラですね。
N響もそうですが、クリーヴランド管弦楽団や、シカゴ交響楽団、ボストン交響楽団とか、最初のリハーサルからとてつもなく上手なスーパー・トップ・オーケストラと仕事をしていて思うのは、オーケストラは指揮者にスコアから色々なものを出してくるかだけではなく、一人ひとりの演奏家の思う語り方や感性をどのように一つにまとめて一緒に歩くかを期待している。今回のN響との共演は、その期待に応える良いチャレンジでした。彼らは僕のやりたいことを受け入れてくれたし、僕は彼らのやりたいことを受け入れて、うまくミックス出来たと思う。それで、オーケストラとの信頼関係もレベル・アップしたかなと思っています。
反田恭平さんとはN響デビュー公演に続いての共演でしたね。
パンデミック中はN響でもお客さんが減っていたので、恭平と盛り上がるコンサートを作りたいと思いました。彼がショパン・コンクールで良い成績を残すのは想定していました。恭平とは、ショパン・コンクール中、毎晩のようにオンラインで話していたし、そういうサポートができてよかったと思っています。
北京オリンピックの放送でも使われている milet with NHK交響楽団の「Fly High」の指揮も担当されましたね。
Jポップは大好きなので、この話をもらったとき、絶対にやりたいと思いました。音楽は音楽だから、どんな音楽でも分かち合える。ボーダーレス、ジャンルレス、こういうプロジェクトをやりたかった。 リハーサルでN響に「みんな真剣に弾き過ぎ」と言ったら、爆笑されました。収録でのN響はノリも抜群だったし、ミュージックビデオはカッコいい作品に仕上がっています。クラシックの硬いイメージを吹き飛ばす感じですね。
今回の演奏会のプログラミングについて話していただけますか?
アメリカというテーマをいただいていましたが、「定期」というシリアスなシリーズにあまりシリアスじゃないものも入れたかった。そして、「ポーギーとベス」のような、あまり演奏されない曲も入れたかった。みんなが楽しめるプログラムが組めたと思います。
今回の共演者の小曽根真さんとは?
2月6日の宮城県石巻市での東京都交響楽団との演奏会で初めて共演します。彼の音楽は昔から好きで、ニューヨークでも聴きに行ったことがあります。パンデミック中に彼のような人が音楽を毎日発信し、音楽をストップしなかったことは嬉しかった。今は、SNSでつながっていて、オンラインで毎日のように話しています。
「ラプソディ・イン・ブルー」はもう何度も指揮していますね。
僕は、ガーシュウィン・ソサイエティで「ラプソディ・イン・ブルー」のクリティカル・エディションの編集を手伝っています。グローフェの編曲した版は、1924年から1942年まで5つくらいのバージョンがあるのです。本番では1942年版を使いますが、僕なりの工夫を少し加えます。「ラプソディ・イン・ブルー」もそうですが、コンチェルトは、日本では合わせればそれでいいという雰囲気を感じますが、僕は一緒に良い音楽を作る意識でやらないとつまらないと思っています。だから僕はしっかりと練習に時間をかけて取り組みます。これまでに演奏したなかでハチャメチャに楽しかったのは、マーカス・ロバーツとの「ラプソディ・イン・ブルー」ですね。
交響的絵画「ポーギーとベス」についてはいかがですか?
ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」からの進化を音楽で紹介したいと思っています。メロディが素晴らしく、そのナンバーは、ポップスの人々によって生き延び、愛されています。それをオーケストラのサウンドで楽しんでいただきます。交響的絵画に編曲したラッセル・ベネットは、オーケストレーションの天才です。
演奏会の最初は、バーンスタインの「キャンディード」序曲と「ウエスト・サイド・ストーリー」です。
まず、1956年初演の「キャンディード」と1957年初演の「ウエスト・サイド・ストーリー」をつなげたいと思いました。ミュージカル劇場でもオペラハウスでも掛かるのは「キャンディード」と「ポーギーとベス」くらいでしょう。「ウエスト・サイド・ストーリー」のメイソン版には、よく演奏される「シンフォニック・ダンス」には入っていない、楽しい曲が入っています。「ウエスト・サイド・ストーリー」は、スピルバーグ版の映画が日本でも2月に公開されますね。そういう話題性もあります。
「サウンド・オブ・ミュージック」を選んだ理由は?
「サウンド・オブ・ミュージック」は、映画版が、1961年に「ウエスト・サイド・ストーリー」も撮ったロバート・ワイズによって監督されたというつながりがあります。これもベネット編曲です。「サウンド・オブ・ミュージック」はどの国にも翻訳されている世界共通語だと思っています。「サウンド・オブ・ミュージック」は1959年に初演されましたが、「キャンディード」といい、「ウエスト・サイド・ストーリー」といい、1950年代後半にすごいミュージカルが集中していますね。
カウントダウンでドンピシャリ!の「エグモント」序曲が記憶に新しい2021年の「東急ジルべスターコンサート」がオーチャードホール・デビューだったのですね。
昨年の大晦日の「東急ジルべスターコンサート」でオーチャードホールにデビューしました。お客さんとして何度もオーチャードには来たことがありましたが、実際に振ってみて、ステージでの音と客席での音にギャップを感じたので、今回は生々しい音がお客さんに届くように工夫したいと思っています。
音楽を離れて、余暇はどう過ごしていますか?
身体動かすことが好きですね。まずは、テニス。スキーは子供の頃からやっていて、今年も既に行きました。小さい頃は合気道、柔道もやってました。武道も好き。一番嫌いなのはランニング(笑)。でもほぼ毎日走っています。
楽譜の勉強の時間は朝ですか?
朝ですね。どんなに遅く寝ても朝4時に起きて勉強を始める。携帯もパソコンも消した状態で勉強する。それがルーティーン。16年間続けています。夜の勉強はお酒飲んじゃうから、無理。ワインもウィスキーも大好きなので。
最後にお客さまへのメッセージをお願いいたします。
ガーシュウィンがきっかけとなって作られたアメリカン・サウンドの歴史が聴けるプログラムを楽しんでいただきたいですね。全部の曲にいろんな共通点や裏テーマをくっつけたこだわりのプログラミングです。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)

※開場中(14:50頃~15分程度)、ナビゲーター・檀 ふみと原田慶太楼、小曽根 真による「プレトーク」がございます。