K-BALLET Opto 「プティ・コレクション」

TOPICSトピックス

2022.07.22 UP

舞踊評論家 乗越たかお氏が、渡辺レイのインタビューを交えて本公演の魅力を解説!

いま世界から注目を集める振付家のアジア初演作と、国内で活躍する振付家による2つの新作を上演する本公演。作家・舞踊評論家の乗越たかお氏がその魅力を語ってくださいました。ぜひご覧ください。

文:乗越たかお

K-BALLET COMPANYが、Bunkamuraと協働でダンス表現の可能性をさらに広げる新しいプロジェクトOpto(オプト)を始動させた。第1回公演のタイトルは『プティ・コレクション―プティ・プティ・プティ!』。3演目全てのタイトルに「Petit(プティ=小さい、あどけない)」がついており、それが企画全体のコンセプトになっている。
新プロジェクトの舞踊監督を渡辺レイが務める。NDT(ネザーランド・ダンスシアター)をはじめ海外の多くの有名カンパニーで活躍し、K-BALLETでは振り付けのみならず若いダンサーの指導も行ってきた。
本稿では第1回公演で上演される3作品について解説していこう。


■メディ・ワレルスキー『Petite Ceremonie(プティ・セレモニー)“小さな儀式”〈アジア初演〉』
ワレルスキーはNDTで活躍しながら、カナダのバレエ・ブリティッシュ・コロンビアの芸術監督も務めるなど、次代を担う振付家として大いに期待されている振付家だ。
本作は彼の代表作のひとつ。白い床に喪服のような黒い正装の男女が登場する。無音のなか全員が完璧に呼吸を合わせる一挙手一投足で、広い舞台の空気がひとつの塊のようにグッと動きだす瞬間はゾクリとする。後半は一転してクラシックあり古いジャズありジャグリングありで楽しく展開していく…… のだが、タイトルにある儀式的な雰囲気が常に偏在しており、胸騒ぎが止まらないのである。
個々の動きは意外な発想の連続で、広い空間構成も見事。美術もヨーロッパならではの「シンプルに見えるが、あるタイミングでガラリと変わる転換」が楽しい作品だ。


■森優貴『Petite Maison(プティ・メゾン)“小さな家” 〈世界初演〉』
森はドイツのレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーで芸術監督を務めた実力派で、日本のダンスファンならNoism等での上演を見ている人もいるだろう。演劇的なドラマが重厚に描かれつつ、非常に音楽性の高い動きが共存するのが森作品の魅力である。
本作は現在制作中だが、テーマは「分断」だという。森自身、海外で暮らす中で「自分らしくいられる場所」を探し求めたそうだが、それはいまや世界中に蔓延している課題でもある。しかも森が描いた作品イメージには、心理的な葛藤を具現化したような「天使と悪魔」の姿もある。現代のシニカルな寓話がたどり着く「小さな家」とは、いったいどのような物なのだろう。
使用されるのはラフマニノフ作曲の『パガニーニの主題による狂詩曲』。切なげな旋律がやがて大きなうねりを生んでいく名曲で、森のダンスとは高いレベルで融合するだろう。


■『Petit Barroco 』(プティ・バロッコ)“小さな真珠(ゆがんだ真珠)”
舞踊監督・渡辺レイが描くテーマは「バロックとジェンダー」だという。バロック美術は「ゆがんだ真珠」が語源と言われる。均整の取れた美のルネッサンスに対して、歪みにも美を見いだすバロックは16世紀末に大きな芸術のうねりとなった。だがそこに現代のジェンダーはどう絡むのか。取材で渡辺はこう語った。
「日本は先進国の中では飛び抜けて女性の地位が低い国とされています。男性が理想化した『女性はこうあるべき』という姿を押しつけられる。しかも繰り返し刷り込まれるので、女性自身がそういうものだと思い込んでしまう。そして実は男性も、社会から「こうあるべき理想像」を押しつけられていると思うんです。この作品では、そういう『理想像』の奥にある、『歪んだ部分も含めた人間の美しさ』、そして人間が奥底にもつ野性をも解き放つような作品にしたいと思います」
衣裳にもちょっとした仕掛けがあるそうで、大いに期待が膨らむ。

K-BALLET Optoは日本から海外へ発信できるような作品を目指して継続的に続けていくという。じつはこうした「バレエの基礎があり、さらに使いこなして新しい表現を生み出すダンス」は日本のコンテンポラリー・ダンスに最も欠けている点なのだ。古典とコンテンポラリーの両方を踊りこなすことは、若いダンサーにとっても世界に羽ばたく大きな武器となるだろう。この新プロジェクトが日本のダンス界を照らす大きなOpto(光)となることを心から期待している。