2014/11/14(金)19:00開演
Bunkamuraオーチャードホール
平戸市生月島に伝わる「オラショ」を、455 年ぶりにヴァチカンで復元させるなど、独創的な活動が注目を集めている指揮者・西本智実。これまでの手法にとらわれず、時代に即したものを伝えて行きたいと願う西本がBunkamuraとタッグを組む新企画が始まる。
第一弾として取り上げるのは、ドイツを代表する作曲家カール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」。映画やテレビ番組などでもBGMとして頻繁に使用されるので、だれもが耳にしたことのある壮大な作品である。現代に流れる空気、コンサートが行われる渋谷という街を考えたときに浮かんできたのが、この曲だったと西本は語る。
「(カルミナ・ブラーナが)作曲された当時と、リンクしている空気が現代にはあります。歌詞は教会の落書き帳のように、一般の人が書いた物を使って作った部分があります。だから人間的な部分と、時代を超えた運命や宿命などを感じるようなものが描かれている。古いイタリア語やドイツ語等、様々な言語が使われており訳しにくいため、字幕だけでは伝わらないと思います。もちろん 音楽はあるんですが、初めて聞いた人は理解できないかもしれない。表現しきれない部分を映像をつかって伝えたいと思っています」(西本智実)
彼女が語るように、今回は単なる音楽のコンサートではなく、字幕や映像を使用した"新総合芸術"を目指す。演奏するのは西本が芸術監督兼首席指揮者を務めるイルミナートフィルハーモニーオーケストラだが、映像デザイナーの大野一興も参加。西本自身が書き起こした映像台本を、実際にビジュアル化する。
「西本さんは異なる時代や文化に点在するものに、理論ではなく感覚でアプローチする人。彼女自身が書いたビジュアル原稿があるのですが、それをそのままトレースするのではなく彼女が表現しようとしている祝祭的感覚をどうすれば実現できるのかを考えて表現したいと思っています」(大野一興)
また「カルミナ・ブラーナ」が演奏される前に、序曲としての位置づけで西本が手掛ける新作「天の岩戸伝説<ヘブライからの風>」を披露する。
「カルミナ・ブラーナは約1時間の作品なので、その前に何か序曲か前奏曲を演奏しませんか?
と言われたのが始まりでした。でもカルミナは異質な音楽なので、合う作品が見当たらない。最初はどなたか作曲家に依頼しようとしたのですが、時間が足らず難しいと・・・。カルミナの訳詞をする中でその出だしが「おお運命の女神よ」という歌詞なので、『天の岩戸』のようだなと思いました。そう思ったらイメージが膨らんでいき、最終的には自分で作ることになりました。どこかで聞いたようなシンプルな日本のメロディや、お神楽を取り入れた10分程度の曲になる予定。最後の音はカルミナの最初の音と同音にして、コンサートに一体感を持たせたいと思っています」(西本)
舞台に立っている人間だけでなく、舞台裏のスタッフたちも巻き込み、様々な人の意見が投影された、今だからこそのコンサートを観客に届けたいと語る西本。新たな挑戦の行方にご期待ください。
文:山下由美
写真:小島由起夫