「演奏会って初めてなんだけど、どんな曲がお勧め?」
「どうぞ、チャイコの5番を召し上がれ!」
Bunkamuraに勤めていると、どの曲を聴いたらよいか、どの演奏会を選んだらよいか
という声を頻繁にいただきます。
そんな時、“お勧めリスト”のかなり上位に入ってくるのが、
チャイコフスキー:交響曲 第5番。
なぜこの楽曲を勧めるのかというと、「チャイコの5番」には、
一般的に「オーケストラ」という言葉から連想されるであろう印象・期待を裏切らない、
キラキラ輝く要素がぎゅぎゅぎゅっと詰まっているからです。
まずは、オーケストラらしい演奏のダイナミズム。
金管楽器による高らかなファンファーレ、メロディアスな木管楽器、唸るように押し寄せる弦の響き、
そこへ雷のように突き刺す打楽器の連打……
どれもがオーケストラの醍醐味に満ちています。
次に、起承転結の組み立てが分かりやすいこと。
構成を詳しく解釈せずとも、身をゆだねるだけで必然的な到達点へと連れて行ってくれます。
予備知識を必要としない、これぞ名曲の力。
第4楽章のフィナーレなど、観客にポンと一瞬の空白を授けて、「さぁ、もうすぐ辿り着くよ」
と言わんばかりに、待ち焦がれていた旋律を朗々と聴かせてくれます。
少し予習をして、曲中に度々現れては消えてゆくひとつのモチーフ(ごく短い特徴的なメロディ)を
見つけられたら、もっと深く入り込めるでしょう。
もうひとつは、メロディの美しさ。
交響曲第5番には、心に残るメロディがたくさん詰め込まれています。
次から次へと美しい旋律が紡ぎだされる様は、至極華やか。
時に甘く、爽やかに、時に哀しく、打ちのめされるほどの苦しみをはらみ、
鮮烈なインパクトを与えてくれます。
荘厳で神々しいほどの輝きを放つ音の世界は、もはや言葉で説明できる領域を超えています。
(言葉でピンとこない場合は、動画サイトなどで試聴してみてください)
前回、交響詩「シェエラザード」ではシンドバットと大海原の旅を楽しみましたが、
今回のチャイコフスキーの交響曲第5番は、人間の内面・感情に訴える音楽の旅。
晴れがましく高らかな勝利のファンファーレとともに、喜びに満ち溢れた終演を迎えましょう。
チャイコフスキーが誘う約45分間の小旅行、ご期待ください。